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山田 武

偽善者と橙色の調査 その11



「まずは確認だ。『王家の盾』は代々、同じ能力を発現する──『守護者[橙層]』、効果は無数の性質を持った半透明の層を生みだして防御することができる……これで合っているか?」


 クエラムと模擬戦をしてもらい、情報の確認を行う。
 とはいえ、実際には模倣した『装華』の情報を基に言っているだけだが。

 厚みも防御の性質も、すべて『守護者』である少年ガグラム自身が設定する必要がある。
 だが、予めそれを設定できるので、これまでの継承者たちが最適なモノを設定済み。


「だが、まだ足りない。その通りだよ。これまでの奴らはそれでもいいかもしれない」

「……ああ」

「加えて、お前の姫様が多種族と多く絡むというのなら、お前にはこれまで以上に多様性が無ければ防御もできない……『王家の盾』失格になるからな」

「くっ……その、通りだ」


 これまでは獣人と魔花に対する防御手段さえ確立させておけば、問題なかった。
 物質と魔術を阻み、暗殺に使われそうな毒だけ阻めばよかったからな。


「そうだな……まず、これを浴びろ。ああ、防御はしてくれていい」

「! なんだ、この煙……ゴホッ!」


 先ほど挙げたモノを拒む壁を、バカみたいに展開した少年。
 俺は少年にスプレーを吹きかけた──中身は二酸化炭素だ。


「ダグ!? メルス様……」

「おおっ、怖い怖い。ほら、これで治せる。すぐに飲ませてやってくれ」

「……分かりました」


 少年に見えない角度で殺気交じりの視線を向ける姫様を宥め、ポーションを飲ませる。
 普通の回復ポーションは効かないが、今回は呼吸が不要になる代物を飲ませた。

 肉体内で空気および酸素が無くとも活動可能な状態になったうえで、後からその余裕が生まれた酸素を取り込む……それによって、少年はとりあえず安定した状態になった。


「メルス様、今のはいったい……」

「暗殺用のガスだとでも思えばいい。量を調整していたから、死にはしない……実際突然これを浴びていたら、対処できていたか?」

「それは……難しい、でしょうね。ガグは毒用の防御をしていました。そのうえで、防げない毒という物は初めてです」

「これは人体、いや生き物が当たり前のように取り込んでいるものだ。けど、量が多いとこうなる……有害でも無害でもないが、呼吸が当たり前だと考えている間は、これを拒むことはできない」


 獣人族……というかこの世界の奴らは、気体という概念を空気として認識している。
 まあ、魔術で窒息などができるので、その程度の認識はできているのだろう。

 だが、酸素や二酸化炭素という科学レベルになると微妙だ。
 燃やせば息がしづらい、それがせいぜいだろうか。


「普人族は身体能力が劣るから、これとは違う厄介な魔術を編み出している。森人族は長い時間と溜め込んだ知識で、防御を超える魔術を揃えてくるだろう。他の種族はよく知らないが……まあ、なんかあるだろう」

「ずいぶんと……雑、だな」

「ガグ! だ、大丈夫なの?」

「はい、ありがとうございます。姫様が飲ませてくれた、ポーションのお陰です」


 二人で桃色空間を生成し始めるので、しばらく待つことに。
 俺は汗一つ掻くことなく、模擬戦をやり終えたクエラムに近づく。


「お疲れ様、クエラム」

「おおっ、メルス。どうであったか?」

「さすがはクエラムだな。普通にやり合えば負けることなんてないだろうし、勝ってたら俺の言うことも聞いてもらえなかったかもだし……クエラムのお陰だよ」

「いや、そんなことはないだろう。現に、いつの間にやら姫と親交を深めているではないか……少し焼けるな」


 焼けるというか、物理的に焼き焦がされそうな気もするが。
 少年が無事だったから多めに見られたが、もし後遺症が残っていたら……不味いな。


「あの姫様は少年に首ったけだよ。もしかしたら、お前を恋敵として狙うかもな」

「問題なかろう。あの姫が騎士に首ったけなのであれば、己はメルスにぞっこんだ」

「うぐぁ……! よ、他所でそういうことを大々的に言うんじゃないぞ? せ、せめて、眷属同士にしておいてくれ」

「なぜだ? メルスの良さを広めるのと同時に、牽制にもなる……そう聞いたのだが?」


 とりあえず、それを言った奴には軽いお説教が必要になるな。
 罰は……食事抜きは止めておくとして、一人だけ別メニューにしよう。


「とりあえずな。それより、お腹空いてないか? ずっと働きっぱなしだろうし、そろそろ食べた方がいいだろう」

「うむ! メルス、今日の何なのだ?」

「クエラムの好きな物でいいぞ」

「……難しいな。メルスの作る物は、どれもこれも美味しいからな、自分で選べと言われると悩んでしまうぞ」


 真剣に悩みだすクエラムの姿に苦笑する。
 まあ、今は生産神の加護があるので、美味しい物が作れるだけだが。

 無い状態でもある程度作れるし、称号の機能が働けば一定品質は出せる。
 だがこの世界、称号の効果が働かない……便利な導士系も、機能していないのだ。

 料理はそれでもこっちの世界でなら何度もやったし、味は落ちると言ったうえでそれを食べてもらったこともある。

 なので、決して不味いと思われる料理にはならないが……導士はどうにもならない。
 自分の都合のいい未来を導く、そんな力がないとなると……厄介な縛りだよな。



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