AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と橙色の調査 その05
あれから数日が経過している。
クエラムはサフランワーにおいて、知らない者など居ないような冒険者となっていた。
ランクは8。
超大型の魔花を単独で討伐したり、街に侵攻してきた魔花たちから民たちを守ったりと大活躍だったそうだ。
さて、対する俺は──
「よぉ、『一発屋』。ずいぶんとまあ、儲けているみたいだな!」
「そりゃあな。お前が付けてる腕輪、どこで買ったんだよ」
「ああ、いい腕輪だよな──お前じゃない奴が作った、お前の名作だよ!」
あれから俺はいろんなアイテムを作った。
生産神の加護が振るうがままに、人々が少しでも生き残れるためのアイテムを。
そうして作って造って創り続けた果て──俺は、不要な存在となった。
斬新な技術も注目されるのは最初だけ、知られてしまえばそれは新しくはなくなる。
最初のブーストでランクは6になったが、生産者としての評価は……まあ、お気に入りの自販機ぐらいの扱いだろう。
要するに、全然気にされていない。
逆に俺の技術で天啓を得たのか、それまでよりも高度なアイテムを作れる者が増えた。
その功績を讃えての6……それでもどうにか挙げられたのが、6だったのだ。
ちなみに『一発屋』とは、そんな最初しか目立てていない俺に贈られた呼び名。
いちおう、それでも斬新という一点だけは注目されている。
だからこそ、俺に情報を吐きださせようとする者は多くいた。
しかしそれらはすべてクエラムに跳ね除けられるため、誰も手を出せない。
「まあ、それでも俺は一発ぐらいは貢献できているさ。それで? お前らは、同じくらいの貢献ができているのか? 自分で強い魔花の討伐……は無理だろうけど、誰かのアシストぐらいはできるんだよな?」
「……チッ。『万獣』の情夫が」
「不満ならアイツに言えばいいだろ。というか、そういう目で見られているのか? そう見えるか、そうかそうか……いやー、それならいいんだいいんだ!」
「な、なんだよ急に気持ち悪い……おい、コイツはもういいから早く離れるぞ!」
絡んできた男たちは、俺のつまらくからかい甲斐の無い反応に去っていく。
対する俺はニマニマとした笑みを瞬時に抑え、彼らとは別方向に移動を再開する。
「『万獣』か……クエラムも、ずいぶんカッコいい二つ名を貰ったよな」
変化する色、そして『装華』の能力として誤魔化してやっている魔獣としての力。
それらは広く深い対応性を与え、どんな戦況でもクエラムに勝利をもたらす。
その結果与えられたのが『万獣』。
今ではひっきりなしに依頼が殺到し、同じ冒険者も嫉妬ではなく羨望の眼を向ける。
……俺とは大違いな扱いだ。
「けどまあ、結構作ったよな……お陰で俺が何を作っても、とりあえず使いどころを考えるぐらいの評価は得た。あとは、それを使うべき相手を選ばせるだけだ」
すでに『守護者』の情報は把握して、今の担い手が誰なのかも発覚している。
問題はこれまた地位が高く、接触するのが難しいこと。
加えて『勇者』や『賢者』のように、会うための手段もそう簡単ではないことだ。
今のクエラムを以ってしても、俺を伴なっての会うことは困難を極めていた。
……俺が会わないと、解析ができないし。
さらに言えば不敬にならないうえ、ある程度場を用意しなければいけないため、難易度がより向上している。
「『王家の盾』、か……いやまあ、前回みたいな場所にいる方がおかしいんだけどさ」
赤色の『守護者』ルミンは、貧民かつ病弱な肉体持ちという少女だった。
シスコンの兄といっしょに、苦しい生活を強いられていたのが懐かしい。
今では人にできることなら何でもできる、そんな器用さを持った立派な『守護者』だ。
持ち得る手段すべてを使い、相手の攻撃を防ぐ……なんて心優しい少女である。
今回、『守護者』の血族は、代々サフランワーを統治してきた王族の護衛なんだとか。
ある意味王家よりも強大な力を持っているが、それでもその地位を甘んじている。
それ以上の調査はまだできていないが、とりあえずそういう人物だと分かっていた。
ちなみに初めての男だ……俺は全然嬉しくないが、まあ新鮮な気分である。
「オウシュやシスコンみたいに、気さくな会話ができればいいけど。まあ、それも無理みたいだし……開発だけ、今はやっていくか」
移動して、辿り着いたのは一軒家。
俺とクエラムの収入を合わせて、他の眷属たちも使えるアジトにした。
ちなみに比率は2:8。
クエラムは0:10でもいいとか言うが、それでいいなら俺は完全にヒモとなってしまうので全力で拒否した。
「ただいま~。クエラムは……まだ依頼みたいだな。まあ、先に作っておくか」
外に出ていた理由は買い物。
持ち歩いていた『収納袋』の中から、今回買い集めた食材を調理台に載せる。
この世界でも生活をより良くする魔道具が存在し、素人でも簡単に火や水が出せた。
違いは魔法か魔術かの違い……『装華』があるお陰で、進歩しているんだよな。
「さて、今日は何を作ろうかな? ……獣人たちって、肉の消費が激しいからな。あんまり肉々しい料理は止めておこう」
ぶつぶつと呟き、帰ってくるクエラムのためにメニューを考える。
そうして料理をやっていれば、自然と時間は過ぎ去っていく。
ガチャリと開いた扉の音を聞きつけ、手を止めてそちらを振り返る。
いつものように笑みを浮かべたその女性に向け、俺は「おかえり」と言うのだった。
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