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山田 武

偽善者と夢現祭り三日目 その07

連続更新です(07/12)
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 アルカが何をしていたかといえば、魔法を使いながら魔法を準備していた、である。
 創作物で言うところの、こっそり魔法陣を描くというアレだ。

 彼女の場合、必要な魔力の流れを外部ですべて行った。
 魔力を意図的に散らし、それを一気に取り込むことである種のルーティーンとする。

 体を通った魔力はすぐに外部へ放出されるのだが、それが魔法になっているのだ。
 必要な材料を揃えて、機械に入れたら加工品が出てくる……みたいな感じだろうか。


「魔法名は『滅魔墜星』。【賢者】……というかアルカオリジナルの魔法だな」

「なに、あれ……ワタシもゾクッとしたんだけど。本当に使っていいヤツ?」

「鑑定眼は極級だって認識しているみたいだから、普通にアウトだな。対象の保有する魔力に応じた、強制暴発みたいな感じだ。俺とかソウみたいな、理不尽な暴力を倒すために創り上げたんだと思う」

「たしかに、アレは少々厄介ですね。強者であれば強者であるほど、その反動が強くなります。防御不可避の一撃……まさに切り札ということですか」


 アイリスとフィレルの言う通り、誰もが恐怖するまさに最恐の一撃であった。
 シュリュと少女の戦いも、この余波によって強制的に終了させられていたし。

 ……うん、少女がそれに巻き込まれて死に戻ってしまったのだ。
 物凄く不幸なんだな、あとで残念賞も考えておかなければ。

 爆発が起きたのは、ソウの内包するエネルギーを強制的に誘爆したから。
 本来ならそこまで火力は出なかっただろうが、相手はソウ……当然の結果である。


≪シュリュ選手がリタイアを宣言し、残るのはアルカ選手とソウ選手のみ! しかし、これだけの惨劇ともなれば、さすがのソウ選手も敗北か!?≫

≪強制退場のエフェクトが出ていない以上、死んではおりません。内部で戦闘不能状態になっているのであれば、まだ残っている可能性がございますが……≫

≪い、いかがなされましたか?≫

≪この程度で倒すことができるのであれば、下されることなどないのです≫


 爆発の中心地から、むくりと起きる影。
 シルエットの背中からバサリと翼が開かれると、生じる風によって土煙が吹き飛ぶ。

 予想通り、ソウはまだまだ平気そうだ。
 多少の汚れや傷は見受けられるが、戦闘能力に関しては全然問題なさそうである。


「アルカの魔法はたしかに凄いんだが……許容範囲があるみたいでな。当然ながら、ソウの魔力は俺を除いてもっとも多い。そしてそれ以上に、竜族固有のエネルギーである竜丹があるからな」

「気功とかスーパーな戦闘民族みたいのアレだよね? 色的には身勝手だし、ソウにピッタリだよ」

「生命力、魔力、精気力の三つを混ぜて作り上げる竜丹。ソウは強引に引き剥がされる魔力を即座に混ぜて加工して、間に合わなかった分の相殺用に使ったんだ。少量でも充分に効果があるから、あんなに平然としている」

「あれってフィレルも使えるんだよね? いいなー、そういうカッコイイの。人族のヤツはなんか地味だしさー」


 人族版の『人丹』は、戦闘だけでなく錬金術などの生産にも用いられる……万能と書いて器用貧乏と読む幅広く使えるエネルギー。

 アイリスは天人族なので、人丹しか使えないのだ。
 ……まあ、その使い方に関しては、天人族特有の用い方も可能だけどな。


「ソウも多少は消費しているだろうけど、それもすぐに古龍の心臓が直す・・し。アルカの回復はもっと上がっただろうけど……そろそろソウも、真面目に戦うか」


 参加者が退場し、眷属が舞台を降り、残されたのは二人だけ──ようやく、ソウが全力で戦っても文句を言う者はいなくなった。

 アルカはむしろ全力を求めているし、今のソウも戦う気があるのだろう。
 これまでは素手で戦っていたが、わざわざ鉤爪を装備したのがその証拠だ。

 毎度お馴染み、俺が創り上げた装備シリーズの一つ。
 シュリュとソウの素材からだを用いた、異端と最強の力を宿した武器である。


「使わない余剰エネルギーをそちらに回しているから、抑えている力全部が装備中のみ解放される。おまけにシュリュの劉の力まで使える……我ながら、恐ろしい武器を生み出してしまったものだ」

「生産チートだー。この世界って、そのうちメルスの創った武器に支配されるんじゃないのかな?」

「そんなわけ…………ない、よな?」

「……ええ、そんなことありませんよ」


 自分でも気になってしまい、確認をフィレルに取るのだが、彼女も保証はできないようで、少々目が泳いでいた。

 アルカが最後の足掻きとばかりに魔法を放つが、ソウはこれまでと違ってただ手を薙ぐだけですべてを切り裂いていく。

 何より、その場から一歩も動かずに攻撃を行っている。
 空間を切り裂いて強引に、時間すら超越した瞬間的な連撃を放つ。


「って、対応できるのかよ。アルカも対外化け物になってきたな……ああ、そういえば前に学んじゃったっけ?」

「あのイベント中の魔導でだっけ?」

「『時限解除』。試作みたいだが、実際に今の攻撃には対応したみたいだしな」

「……ですが、もう限界のようですね。防御用の魔法も用意していたようですが、一発が限界でしたか」


 ソウの攻撃に掠っただけで、アルカが展開していたすべての魔法が破壊される。
 魔力は尽きない、だがそれ以上に力がすべてを蹂躙していく。

 アルカは頑張った。
 しかしソウに勝つのであれば、賭けるべきモノがまだ足りない。


「アルカの負けか……けど、成績的には優勝だから、物凄く不服だろうなー」

「あー、メルスがあとで怒られる理不尽的なイベントだね」

「まあ、アルカには強くなってもらいたいからな。この敗北もまた、強くなるための糧になるだろうさ」


 かつて古龍はその膨大な力を持て余し、それでもなお神々すらも追い返していた。
 そして今、ソウはそれらを上手く扱えるようになっている。

 たしかにアルカは魔法において、誰にも負けないと言えるほどに才覚があるのだろう。
 しかし純粋な力において、ソウほどあらゆる概念を超えた存在はいない。

 ──本来、『超越種スペリオルシリーズ』か『厄災種ディザスターシリーズ』となるはずだった存在。

 それこそがソウであり、俺が下した最強の生命体。
 俺が勝つこともまた、本来はイレギュラーな現象だったのだろう。


「さてと、そろそろ午後の部の準備をしておかないとな。二人はどうする?」

「うーん、なら少し遊んでくるかな? 最後なんだし、いろいろと見てきたい!」

「では、わたしはこの娘といっしょに」

「了解。じゃあ、行ってくる!」


 急がないといけないな……うん、物凄い勢いで近づいてきてる!



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