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山田 武

偽善者と夢現祭り二日目 その08



 ディーは俺が与えた魔力によって、一時的に強化された。
 今は『鉄魔粘体アイアンスライム』状態なので、主に強度が上がっている。

 対戦者である男がひたすら放ってくる魔法攻撃を、ディーの刃を用いて斬っていく。
 偉大なるティル師匠によって、それだけは一人前に実行することができる。


「雑魚が、なんでそんなことできるんだ!」

「僕だって、必死に頑張ってるんです」

「雑魚が喚くんじゃねえよ……“縮地シュクチ”!」

「──“思考加速”!」


 身力操作スキルで調整を行い、身体強化スキルが行っていた体内の強化も思考加速スキルに回す。

 もともと加速する処理速度が、処理能力を引き上がることでさらに向上する。
 普段からその状態を体験しているので、俺は平然とその速度に対応できた。

 準備するのは剣──[アイテムボックス]の中で待機する、ディーの模している品。
 ギリギリのギリギリまで、“縮地”で近づく男が剣を振り下ろすのを待ち──動く。


「ディー!」

『ウォフ!』


 俺が[アイテムボックス]から剣を取り出すその瞬間、ディーが剣から狼の姿となって地を這った。

 剣が無くなったと思い込み、ディーの方へ意識を向けた男。
 俺はそれを意図的に狙って、武技を重ねて行使する。


「っ……!? くそっ、変化か!」

「合わせて──“二連撃ダブルアタック”!」

『ウォンッ!』

「チッ、しゃらくせぇ!」


 放つのは、どんな武具でも使える二回同時に攻撃を放つ“二連撃”。
 俺の意思に従い、ディーも死角を突いて攻撃を行うという戦法だ。

 だが、相手はかなりの強者。
 その程度では、倒せないようで──


「──“衝撃球ショックボール”、“魔法付与マジックグラント”」

「くっ──“回避カイヒ”!」

『!』


 予め放った衝撃を生みだす魔法を、剣に纏わせて勢いよく地面に叩き付ける。
 その瞬間、周囲は激しい揺れに襲われ、俺とディーは回避せざるを得なくなった。

 分断され、ディーによるサポートが受けられなくなってしまう俺。
 当然そんな隙があれば、男はそれを狙って攻めてくる。

 何度も連続して放つ攻撃を俺は、自身を奮わせるために声を出して捌いていく。


「! はっ、せぇいっ!」

「……PS持ちか? 雑魚の癖に、無駄に捌きやがる」

「け、経験です!」


 先ほどまで使っていた思考加速と、危機感知スキルが上手く働いていた。
 加えて今は魔眼スキルを起動、眼にも力を籠めて最適な形で剣を受け続けている。

 そうこうしているとディーが戻ってきて、狼の牙を男に向けた。
 男はそれに対抗しなければなくなり、俺の方へ向けていた攻撃がいったん止まる。

 その隙に攻撃をできればよかったのだが、今の俺は初心者スペック。
 決める気で力を使っていたので、身力がだいぶ消耗していた。


「はぁ……! ふぅ──“再生”」


 だいぶ前に会得した、動きながらでもできる瞑想スキルの実行。
 その上位スキルな再生スキルも、本来は動かない方が回復速度を上げられる。

 動くことで速度が落ちるはずのところを、その技術を使い通常速度で回復可能にした。
 ただ、こちらの体だと初めてなので……牛歩の歩みが如き速度でしか動けない。

 ディーが時間を稼いでくれているので、少しずつ回復している。
 それでも万全まで戻すことは、このままではできないだろう。


魔本解読リリース──“魔力自動回復・高”」


 魔本を取り出し、展開する。
 低とか高が付くスキルは本来、人族には習得不可能なスキルなのだが……魔本による限定的な付与なら、使うことが可能だ。

 お陰でグングンと魔力が回復し、ある程度準備が整った。
 あまり派手なことはできないので、今回使うのは弓……そして、チートな種だけだ。


「セット──『海樹マリンツリー』。武技“植矢ショクシ”」

「はっ、今さら弓かよ。その程度で何ができるってんだ!」

「……“矢壌シジョウ”」


 一本目の矢は躱された。
 相手はディーの攻撃を受けつつ、それをするだけの余裕を持っている……だからこそ、こうして油断したわけだ。

 二本目の矢は、寸分違わず一本目の矢が刺さった場所に命中する。
 初めは何も起きない……だが、少しするとそこには──小さな芽が出てきた。


「なんだ、これ……っ!?」

「急いだ方がいいと思うよ。それ、辺りのエネルギーを根こそぎ食い尽くすからね」


 海のように怒涛の勢いで増殖し、バリケードとするために生みだされた樹木だ。
 ユラルが一から作った物なので、これを最初から知っているということはありえない。


「くそっ、離せ──“火炎斬バーニングスラッシュ”!」

「あははっ、無理無理。その力は『海樹』を育てる餌にしかならないよ。生き残りたいなら、外にいっさい身力のエネルギーを漏らさないだけでいいんだから」

「んなこと、できるわけねぇだろ!」

「できるから、僕は襲われないんだよ。それじゃあディー──“送還”」


 ディーもまだそれができないので、襲われまくっていたところを回収する。
 俺は身力操作で完璧に操っているので、漏れもなく活動できるのだ。

 だが、レベルが高い奴ほど漏れる力も多いため、男は制御できずにどんどん吸われる。
 あとはじっくりと待つだけ……抗っていたが、結局勝敗は変わらなかった。


 ──勝者『ノゾム』!


 結界が解除されると、俺は元居た場所に帰還する……そして、近づいてきたフーラたちに抱き着かれる。

 見ていてくれたみたいだな……うん、少し疲れたかな。
 二人を見たら、緊張感もだいぶ解けた──この体は、しばらく休ませておこう。



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