AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と夢現祭り二日目 その06



「これは……どういう状況?」

「あっ、ノゾム様!」
「……よかった」

「フーラ、フーリ。さっそくで悪いけど、説明してくれるかな?」


 俺の体はフーラとフーリに預け、セイとグラの下へ意識を向けていた。
 その間にどうやら、揉め事が生じていたようだ……ただし二人が、ではない。

 俺の視界に映るのは、カウントダウンが続く結界の中で戦う二人の男たち。
 ただし、年齢差……というか、まんま大人と子供の差がある闘いだ。


「『選ばれし者』同士が……か」

「はい。狐獣人の男の子に、あの森人の方が何かを言ったそうで。突如二人で一騎打ちを始め、今なお続いています」

「スオーロがねぇ……うん、きっと逆鱗に触れたんだろうね。普通だったら、そのまま勝ちで終わるはずなんだけど……相手も同格だと、そうもいかないか」


 茶髪、土属性の『選ばれし者』にして、俺が付与技術を教えた少年スオーロ。
 彼は現在、一人の青年を相手に生みだした土人形を使って戦っていた。

 緑髪、風属性の『選ばれし者』にして、与えられた使命は『英雄』な森人の祈念者。
 彼はスオーロの用意したすべての土人形を独りで相手取り、対等に戦っている。


「『ヴィント』、彼がそうなのですか?」

「うん、そうだね。かなり玄人向けな能力の持ち主だから、あんまり凄いようには見えないんだけど……結構厄介な人だよ」


 把握されている力は、他者が使う風属性の現象をすべて奪うことができるというもの。
 そして彼自身の固有スキルもあり、与えられた二つ名は──『失風英雄』。

 今も土人形が放った風属性の魔法を、奪い取るとそのまま別の人形にぶつけていた。
 奪った現象に自分の魔力を加え、強化することもできるのでとても有用である。


「それだけでも便利なんだけど……本質は奪う風にあるんだ」

「風、ですか?」

「二人とも見ていたと思うけど、少しでもスオーロが有利になると、状況が元に戻ったように見えていたはずだ。それこそが、あの人の能力なんだよ」


 風、と言われてイメージするものは?
 厨二病が『風が……呼んでいる』とか、そういうことを言いそうなのだが、今回はまさしくそれである。

 風には空気を震わせるモノとしての捉え方以外にも、場の情況を表したり、運命を風と呼ぶこともあるだろう。

 ──それを奪うことができるのだ。

 相手が有利になったとき、風という形で具現化される。
 ヴィントはその風を奪い、掌握することで相手が有利になることを阻止できるのだ。


「それは……無敵なんでしょうか?」

「ノリに任せて行動して、それが成功する確率が下がるだけだね。圧倒的力の前だと無意味だし、理詰めで着実に攻めていけば負けないわけじゃない……ただ、相手自身にもその『選ばれし者』の恩恵があるからね」

「……ズルい」

「だから勝てるのは、あの戦い方を封殺できる理論派かアイツ以上に運命力的なモノを保有している人。要するに、二人が戦うなら間違いなく勝てるよ」


 運命力という適当な単語が出てきたが、要するに『導士』っぽい力である。
 俺が大量に持っていて、その恩恵も受けている眷属ならばほとんど通用しないのだ。

 だが、スオーロは対等な『選ばれし者』。
 与えられた使命は『賢者』であり、同じ立場ではあるが……少々──運命力を計れるならば──劣っているだろう。


「二人はあの人たちを見て、どう思った? 同じ神様に何かを成せと生みだされた、祈念者たちの頂点に立ち得る存在を見て」

「強いですね……彼らが相手なら、二人で戦う必要があるかもしれません」
「……負けない」

「二人が負けるなんて思ってないよ。スオーロは魔力が尽きたら倒せるし、ヴィントも他に攻略法がある。完璧なんていないんだ……二人はそれを補って、完璧を目指してくれたからバッチリだよ」


 うちの眷属はどいつもこいつも個性的で、フーラとフーリはそのことを悩んでいた。
 ……俺としてはそうは思わなかったが、質問に対してはちゃんと答える。

 足りない部分があるなら、補えばいい。
 彼らが足りない部分を気にならないほど特化するなら、二人はそれぞれで補い合うことで完璧になればいい……そう言ったのだ。

 反射対応のフーラと即時対応のフーリ。
 あらゆる武器になれる槍でフーラが前衛を務め、どんな銃弾も生みだせるフーリが後衛として彼女を支える。

 そして、二人で双剣を振るうことでどんな相手にも負けなくなるのだ。
 彼女たちの恐ろしい点は、完璧であるための手札が無数に存在する。

 本来存在することのなかった、二人で完璧となる【英雄】──【双剋英雄】。
 今は全然使われていない、職業の力も解放すれば……眷属でも上位に立てる。


「っと、そうこうしている内にだいぶ状況が変わっているね。奥の手の多重属性付与で創りだした人形、あれはなかなか倒すのが難しいけど……あっちは特典かな?」


 新たに取り出した短剣を振るい、みるみる内に人形を倒していく。
 スオーロも抵抗していくのだが──タイムアップの音と共に、二人は結界の外へ。

 涼し気な表情なヴィントに対し、悔し気な表情を浮かべるスオーロ。
 結果は引き分けであっても、本人的には負けになるんだろうな。

 終わりの瞬間、彼の首には短剣が突きつけられる寸前だったのだから。



「AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く