AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と夢現祭り初日 その20
なんやかんやあった後──フレイたちハーレムパーティーは全滅した。
ある意味再戦フラグが立ったのだが、それが叶うかどうかは不明である。
何せ、このイベントには俺がレイドラリーのイベントで見た『選ばれし者』が、複数人確認されているのだから。
同格の運命補正を受けているのならば、互いに互いの定めた道筋を妨害したり、先にその運命に乗ることができるだろう。
「──さて、初日からトラブルだらけだ。運営がイベントを連続して出さないのは、この処理が面倒臭いからなんだな」
うーんと伸びをして、体に今日も終わりだと思わせる。
イベントは二十四時間ぶっ続けなのだが、それでも一時的に休みを入れる予定だった。
「お疲れですか、メルス様?」
「……俺の場合はお前たちが用意してくれたスキルがあるし、そもそもこの体だ。現実世界における彼らの苦労を思うと、辛いとも言えない疲労感しか残ってないよ」
「ご自身で感じている以上に、情報の処理に脳が疲労しているはずです。少し、休憩を取られてはいかがですか?」
突然現れたアンに、俺は驚きもせずいつも通りの対応をする。
当たり前というか、俺と眷属たちにとってはこれこそが平常運転だしな。
さて、アンにそう言われるのだから、実際俺は疲れているのだろう。
彼女は俺以上に、俺の体のことを知り尽くしている……ヤンデレっぽいな、言い方が。
「ヤンデレはメルス様があまりお好みではありませんし、やっていませんでしたが……試してみますか?」
「勘弁してくれ。ヤンデレって要するに、病むほど想ってくれているってことだろ? 別にそうじゃなくても、うちの眷属って好感度が限界突破してるんだろ?」
「覚えていてくれましたか。そうですね、今のは嬉しかったので、さらに好感度がプラスされます」
アンの冗談はそのまま流し、一度作業を中断して休むことに。
イベント参加者の観察は自動化して、条件に引っかかった者だけが後で連絡される。
これこそが、ずっとイベントが行われている間も傍観するための方法。
意識を遮断している間に、それまでに見た情報を統合するなどのことをする予定だ。
そんな仕掛けを施してから、俺はアンと共にもぐもぐタイムを始めた。
糖分を摂取することで、頭を活性化させようとするが……改めて、疲労感に気づく。
「急に体が怠くなってきたな。アンの言う通りだった、というわけか」
「そうですね。ですのでこれからは、わたしの言うことには絶対従う、ということでよろしいですね?」
「よろしいですね、じゃないわ。そこでハイ喜んで、とか言うのは居酒屋だけだ」
完全なる偏見ではあるが、きっと頷いてくれている人もいるだろう。
他には上司に命令された部下、嬢に躾けられた豚も該当するかもしれない。
「この醜い豚が、女王様に逆らうとは──お仕置き決定ね」
「……急に淡々と読み上げないでくれるか。怖い、普通に怖いから」
「そのスリルがまた、癖になるのでは?」
「ならない……よな? なあ、俺はまだノーマルでいられているよな?」
うちはそうあれと望んだからか、基本的にアブノーマルなヤツはいない。
……キマシタワーは存在するが、男である俺からすれば好ましいので例外だ。
少なくとも俺は、まだ掘るも掘られるも興味は感じていない。
鞭に打たれるのも好きじゃないし、打つのも自分から進んで行ったことはないはずだ。
「──本当に、そうでしょうか? メルス様はいつも、ソウ様を相手にそういったことをされておりますが……心から、いっさいの邪念を持たずに行っていると、わたしに言うことができますか」
「そ、それは……」
「ソウ様の反応は、メルス様にとって好ましいモノだったはずです。そして、止めさせようと思えばそれも可能でした。しかし、今なおお二人はそれを続けています……さて、なぜでしょうか」
「…………」
なんだかんだ言っているが、俺はソウを好ましく思っている。
ドMなのはたしかにアレだが、人の技術を学ぶなどの努力家な点は好きだ。
スイッチが入ったときの言動……俺はそれにイキイキと答えていた。
それはなぜか……俺もまた、ソウを加虐するあの時間を好きだった、のか?
「──とか、そういう感じで考えればいいのか? うん、無いな」
「おや、なぜでしょうか?」
「いや、だいぶ論点が変わっているなって。俺がノーマルかアブノーマルか、そこだけを聞かれれば悩んだかもしれないが……ソウの話なら別だ。アレは本当に、俺が拒まない範囲でソウが強請っているだけだ」
「なるほど……では、そういうことにしておきましょう」
……アンが含むような言い方をするのは、それを理解しているから。
論点のすり替えと言った俺だが、こちらも話を逸らしている。
強引に話題を変えたが、論理詰めされていたら最後は負けていたな。
「──ゴホンッ。まあ、アンとこうして話している内に疲れも取れた。明日の準備をするとしよう」
「では、スー様をお呼びください。メルス様が疲れることはお分かりだったようで、すでに準備をされておりますので」
「……そっか、事案になりそうだけど素直にそうさせてもらう」
疲労感を残さないためにも、しっかりとした休養が求められた。
魔武具『堕落の寝具』と、その武具っ娘であるスーが居れば……明日も万全に挑める。
──そんなこんなで、俺は少女と同じ布団の中に潜り……一夜を共にするのだった。
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