AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と夢現祭り初日 その14



 ティル独りを相手に、祈念者の集団がいっせいに攻撃を仕掛けてくる。
 彼らのクラン『荒くれ野郎』は、こういう荒事も多くの経験をしているらしい。

 中にはある意味俺と同じ、『選ばれし者』へのちょっかいなども含まれていた。
 つまり、圧倒的な個と戦う際の戦術などもある程度心得ているらしい。


《ただ、甘いんだよな。『選ばれし者』は、所詮誰かが目を掛けた人物。要は、自分で選ぶことのできない連中だ。その点、師匠は最強ですからね。いやー、相変わらず素晴らしい剣技っす!》

「……急に何よ」

《いや。やっぱり、うちの眷属は最高だなって思ってさ。『選ばれし者』とある程度戦える奴らも、ティルに掛かれば雑魚でしかないわけだし》

「言い方、少しは考えなさい」


 彼女は優しくそう告げるが、視界に映る光景はそうは言っていなかった。
 迫る祈念者たちを軽く切り伏せ、自身は傷一つ負わない姿──まさに強者である。

 傍から見れば、独り言をする余裕まである始末……だがそれをするだけの力が、彼女にはあるのだ。


「単純に技量の問題よ。貴方たちは強さをレベルや武器の性能で判断するけれど、最後に物を言うのは本人の腕。少なくとも武技を手動で使えないようじゃ、私には届かないわ」
《……これ、恥ずかしいんだけど》

《ま、まあ……その、頑張ってくれ》

《……はぁ、分かったわよ》


 カッコイイ台詞セリフを祈念者に突きつけつつ、俺に念話でクレームをぶつけてくるティル。
 せっかくなので、強キャラっぽいことをしてほしいと頼んでみたのだ。

 彼ら、というかリーダーは粗暴な行為をあくまでロールとしてやっている身。
 こういった機会さえあれば、きっと強くなるはずだろう。


「一撃、一撃だけ少し本気を出すわ。それを堪え切れたら、ご褒美をあげるわ」

「──よし、全員耐えるぞ! プライド? そんな物犬にでも食わせちまえ! 貰えるモノがあんなら、それを全部貰っていくのが俺たちの流儀だろう!」

「……清々しいわね。けど、報酬は期待してもいいわよ──『公正委員』はこういう賭けで負けたら、トレジャーフィールドの宝に関する質問に一つだけ答える決まりなのよ」
《そんなの、さっき初めて聞いたけど》

《まあ、頑張ってもらうためだな。占拠はしていたが、彼らも脱出する気でいたらしい。粗方調べ尽くして、最初からその予定だったみたいだな》


 さて、ティルが居合の構えを取ると、彼らは全員で防御の準備を始める。
 報酬がずいぶんと立派なものなので、ほぼ損をしない彼らからすれば好都合なのだ。

 死んでも死に戻るだけ、損と言えばアイテムの消耗や能力のリキャストタイムぐらい。
 デスペナも待てばすぐに解消される、ならばやるだけやった方が得になるはずだ。

 ……とは言っても、相手はティル。
 残念ながら、彼らが望むような結果にはならないんだけどな。


「──『界牙フォンティエ』」


 それを告げた次の瞬間、彼女は他のどの剣でもなく獣聖剣を握り──振るった。
 あとはシンプル、彼女の視界には上下が分かれた祈念者の死体が散らばるだけだ。


『なっ……!』

「しばらくはそのままよ。まだ出血もしていないし、死んでいるってちゃんと認識できてないから」

「うわっ、マジだ!」「[ステータス]を見てもなんも変わってねぇぞ」「さっきのスキルが影響しているのか?」「いずれにせよ、スゲェ姉ちゃんだな……」「お前ら、ロールロール!」

『! な、なんじゃこりゃあ!』


 ずいぶんと楽しそうだが、まあレベルの高い連中はリーダーといっしょに居た時期も長いだろうからな。

 こんな状況でも、さほど気にならずにいけるほど経験を積んでいるのだろう。
 しばらくすると、彼らも時間切れで死に戻りしていく──残るのはこの場に二人・・のみ。


「……なんで、俺には当てなかった。ハッ、さっさと殺しな」

「聞きなさい。約束通り問いには答えるし、こっちの方が都合がいいでしょう?」

「知られてるんだったな……けどまあ、俺は俺のままやらせてもらうぞ」

「構わないわ。さて──いつまでこういうことを続けるのかしら? こちらとして、他の参加者たちの迷惑になるような行為を、いつまでも見逃し続けられないわ」


 あえて行っていた遺跡の占領には、そうした狙いと打算が含まれていた。
 ティルはそれを、彼らから視て理解してたようだ。


「いったい、何者だよ」

「その問いがご褒美でいいのかしら?」

「冗談だよ、冗談。待ってろ、こっちにもいろいろと聞きたいことがあるんだよ」


 情報は重要だ。
 そしてティルから聞ける情報を有意義に使えれば、ユニークモンスターを見つけ出すこともその詳細を知ることも可能である。

 だからこそ、彼は今回の質問をしっかりと考えてボケないつもりなのだ。
 ……ここで他の奴が居ると、ある程度ロールを交えないといけなくなるからな。


《実際、どこまで話すの?》

《占拠が起こるぐらいだし、[ヘルプ]に情報を足しておこう。公開されることを前提にした質問をさせて、それに対する祈念者の反応が視たい》

「分かったわ」

「……よし、決めた!」


 そして、彼は質問を行う。
 その内容とは──



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