AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と夢現祭り初日 その13



 ティルが辿り着いたそこは、俺が魔法で造り上げたそれっぽい古びた神殿だ。
 某記念堂の大統領の石像っぽいオブジェが飾られ、そこに祈念者が集まっている。

 ティルが彼らを殺しまくったので、だいぶメンバーは減っているはず。
 それでもまだまだ数が残り、二十人ぐらいが彼女の剣圧に圧されていた。

 リーダーっぽい人は、覚悟を決めてティルに声を掛ける。
 このままだと、時間切れになって斬られていたので正解だ。


「……い、いったい、どうしてこんなことをしたんだ」

「それはこっちの台詞セリフ。この遺跡を占拠するのはマナー違反。絶対的なルールでは無いけど、トレジャーフィールドは誰もが平等にお宝を得られるチャンスが与えられている……それを歪めるのはいけないわね」

「何者だ」

「そうね、『公正委員』の一人よ」


 イベント中の[ヘルプ機能]には載せているが、『公正委員』とは眷属のことだ。
 特別な権利は無いが、単純に強い……そして、不要な嘘は付かない。

 そんなことを書いてあるので、彼らは自分たちの情況を理解する。
 書かれているもう一つの内容──倒すと、膨大なポイントが手に入るという点を見て。


「……つまりなんだ。あんたは俺たちをここから追い出したい、そういうことだな?」

「ええ、そうよ。知っての通り、すでに苦情が出ているわ。だからこうして強制的に退出してもらっているし、また舞い戻ってきても同じように殺す予定よ」

「例の天使様が来ねぇってことは、俺たちでなんとかするしかないってことか……しゃあねぇ──お前ら、ここから出るぞ!」


 リーダー! と叫ぶメンバーたちを抑えながら、彼はその理由を告げる。

 すでに大量の仲間が減っていて、このままだと場所の維持ができないこと。
 そして何より、自分たちでは対応できないなどの理由だ。


「というわけだ、悪いな姉ちゃん。俺たちはすぐにここから出ていく、だから身支度をする時間ぐらい待ってもらえないか?」

「いいわよ、それぐらい。それで出て行ってくれるなら、むしろ願ったり叶ったりよ」

「……そうかい、感謝するぜ」


 そうして彼らは準備を始める。
 ティルはそれを邪魔することなく、神殿の柱に寄りかかってそれを見ていた。


《……いいのか、それで》

「それを彼らが望んでいるんだから、私も邪魔なんて野暮なことはしないわ。けど、死んでも死なないからこその選択ってことね」

《いずれにせよ、時間を取られれば他の奴に先を越される可能性もある。選ぶのもさっさとするべきだったんだろう》

「そうね。もっとも大切なことを見誤らないこと、これが重要ってことかしら──さて、そんなに物騒な準備をして、これから何をするつもりなのかしら?」


 彼女がそう言って見た視界には、抜身の武器を構える祈念者たちの姿が。
 どうやら予想通り、彼らはティルと戦うことを選んだみたいだ。


「どうせ死んでも死ななくても、外に出ることになるんだ。なら最期に、一攫千金に賭けてみて何が悪い……というか、なんで分かったんだよ。表情から気配まで偽装したし、口に出して連絡はしてねぇはずだ」

「企業秘密よ。あと、そういう隠し事は仕草に出るわよ。あなた一人がどれだけ頑張っても、私の思考は鈍らせられなかったわね」

「そうかい、そりゃあ残念だ。どうせなら、仲間の敵討ちなんだから、アイツらが殺られたみたいに不意打ちから始めたかったんだがな……もういい、殺っちまうぞテメェら!」


 ティルは自分の瞳については何も言わず、リーダーもいろいろ隠したうえで戦いが幕を開ける──ちなみに彼らの平均レベルは、意外と高く240ぐらいだ。

 すぐに別の思考が[世界書館]で調べてみたところ、粗暴なロールをすることで有名なクラン『荒くれ野郎』という組織らしい。

 リーダーの彼は『吶喊漢』という二つ名が与えられるほど、愚直なヤツなんだとか。
 ……ナックルから聞き出した情報だと思うが、聞き流していたので覚えていないな。


《レベルの平均は限界の少し前。外で見張っていた奴らは、まだ200程度だったらしいぞ。ちなみに、普段は祈念者相手にしか悪役の演技を徹底してないらしい》

「……その情報、要るかしら?」

《意外といいヤツってことだ。ティルも視て分かっていたとは思うが、特に犯罪行為はしていないぞ》

「そうね、彼個人に関してはその通りよ」


 うん、まあ……リーダーは彼らを統制し、自由民への悪意ある行動を抑制しているんだけど、絶対にバレる自由民への暴行はともかく、祈念者相手ならばとやっている者も。

 俯瞰している方の意識が神眼の鑑定眼で視てみると、いろいろと知ることができた。
 いろんな眼の力を使えるティルもまた、それをある程度把握している。


「さっきからどうした、独り言ばかり」

「意外とあなたが良い人だと、知人だと連絡していただけよ。それよりも、その演技なら不意を付いた方がいいんじゃないの?」

「! チッ、誰だよチクったのは」

「ナックルね」


 あの迷宮ダンジョンオタク、と毒づくことからも、彼らの交友関係がなんとなく分かった。
 まあ、遺跡の占拠にもいろいろ理由があったのだろう……処断はティルにお任せだ。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品