AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と夢現祭り初日 その11



 そんなこんなで、ティル(と俺)による見回りが始まった。
 少しずつヒントを集め、ユニーク種への挑戦権に近づいている祈念者たち。

 誰よりも早く手に入れたいということで、多少強引な手に出てしまう者も。
 具体的には場所を独占し、自分の関係者しか居れようとしない……とかな。


《そこだ。その遺跡っぽい場所を占拠して探しているぞ》

「ちなみにこの場所は?」

《ハズレ。人が集まって、ヒントを奪ったり奪われたりすることを期待してる。けど、有益なヒントの情報まで隠すような場合は、退去してもらうしかないよな》

「……最悪ね。でも、たしかにそのとおり」


 猫獣人である彼女なので、そのしなやかな体を柔軟に活用して暗躍している。
 気配遮断スキルで身を隠し、とあるクランが場所を占領している遺跡に潜り込む。


《この後はどうする? 俺としては、普通に死に戻らせてもいいんだが……》

「ちゃんと忠告をするわ。俯瞰して知っているメルスと違って、まだ事情がちゃんと呑み込めていないもの」

《……本当にいいのか?》

「平気よ、心配しなくても。もともと視えていたものを、今さら視直すだけ。その程度、もう慣れているわ」


 ティルの瞳は万物を視通す。
 そして、それは……人の心でさえも。
 だからこそ、俺は彼女に目を合わせずに暗殺で終わらせてもいいと言ったんだがな。

 だがどうやら、彼女の覚悟は変わらないようだ……ため息を吐き、許可を出す。
 それに、どうせ許可とか申請とかが無くとも強行突破していたはずだし。

 仕方ないと見送れば、さっそくティルが作業を始めているところだった。


「──疾ッ!」


 彼女が振るうのは、獣聖剣と呼ばれる特殊な聖剣である。
 形状変化はもちろんのこと、聖獣の力を帯びた亜種の聖剣でもあった。

 ティルはそんな獣聖剣を一時的に刃渡りが異様に長い剣にして、振るっている。
 それで何が起きるのか……先ほどから、至る所でポンポンと首が飛んでいた。

 お陰様で、侵入したというのに全然それがバレていない。
 死に戻りから帰還するまでの間だけだろうが、それだけあれば彼女にとっては充分だ。


「入り口は解放できたわ」

《速いな……》

「この調子ですぐに終わらせるわね」


 遺跡の中は狭く、そのままの状態では剣を振り回すことはできない。
 しかしティルは天性の感覚で剣の長さを調整し、引っ掛かる寸前まで伸ばしている。

 お陰で相手は気づく間もなく、刃は彼らの首を落としていく。
 獣聖剣は意思を持っている、彼女の意思を正確に汲み取れるのもその影響だろう。


《鎖も鞘も使ってないけど、剣の方はそれでいいのか?》

「この子は使われるだけで喜んでいるみたいだし……忘れているみたいね」

《まあ、ティルが使うだけで大半の剣はそうなるんだろうな。さすがは申し子》

「私にはあんまり自覚が無いんだけど……本当にそうなの?」


 俺の知り得る限りで、彼女以上に剣に愛された者を見たことがない。
 剣は彼女が触れただけで歓喜し、使われれば通常以上の力を発揮する。

 具体的に言えば、彼女はありとあらゆる剣に対する適性を有する。
 意思を持つ剣の場合は少々アレだが、明確な意思の無い剣ならば絶対だ。


《まあ、それはいいか。どう頭を捻っても、その感覚はティルだけのものだから、分かることはできない。才能ってのは、そういうものなんじゃないか?》

「……それは、たしかにそうね」

《それよりも、だ。ティル、あいつらを視て何か悪影響は無いか? 俺と同じで、やりたい放題な思考が漏れているはずだけど》

「ええ、結構欲深い人もいるわ。けど、それはこっちの人だって同じこと。王宮なんて、もっとひどいわよ。あれくらいのことなら、全然気にならないわ」


 とティルは言っているが、彼女が視た思考はあくまでも彼女を視認していない状態だ。
 美少女猫耳剣士なんて見た暁には、間違いなくロクでもないことを考えるだろう。

 今は認識を偽装しているので性別不明の刺客ぐらいにしか思われないだろうが、もしその姿をばっちり見られていたら……うん、とても心配である。

          ◆

 そんな会話の後も、彼女は遺跡の中を進んで、どんどん祈念者を屠っていく。
 すでに死に戻りしてきた者もいるため、侵入者が居るという情報はバレている。

 だが、それがティルだという情報はまだ漏れていない。
 人数も不明で、何が目的で、どういうやり口なのかなどを噂しているぐらいだ。

 人海戦術によって、少しずつティルとの距離が縮まっている。
 その分、屠られる数も増大しているが……ユニーク種と戦えれば何でもいいみたいだ。


「来たわね──どうする?」

《忘れているみたいだけど、鎖はともかく鞘の方が使った方がいいと思うぞ。祈念者を相手にした場合のテストも、いちおうしておきたいからな》

「何度か試しているけど、そういえばメルス以外の祈念者は初めてね。せっかくだし、いろいろとやってみようかしら……ちょうど、この子もそうしたがっているようだし」


 シャラリと鎖の音が鳴る。
 月の光のように、冷たくも安寧を感じさせる輝きを放つ──神器。

 そして、その鎖が鞘に纏わりつく。
 同時に使うことを想定した、彼女と獣聖剣用に生みだした──聖具。

 ──さて、祈念者たちは何秒持つかな?



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品