AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と夢現祭り初日 その06



《暗殺は無し、今回は魔道具の破壊のみを目的としてもらう。あの中には、悪魔を調伏できる奴がいるから、破壊しても困るのは迷宮の外に出てからだ。作戦そのものは実行するから好きにやってくれ》


 先ほど伝えた通り、この迷宮ダンジョンは悪魔と契約すれば基本的に安全となる。
 上位個体を従えれば従えるほど、下位個体が襲ってくる可能性が下がるのだ。

 さて、悪魔を使ってMPKを企む祈念者たちの中に固有スキルの持ち主を見つけた。
 その名は【風格偽装】──要するに目に見えないオーラや覇気といった概念を弄れる。

 悪魔の上位個体を従えている、そんな風格があれば悪魔たちは出てこない。
 勝手に彼らに手を出してはいけないと認識し、何もしてこなくなる。

 それでも怒らせる必要があるため、今などトレイン作業をする際はOFFにしていた。
 だが、魔道具を破壊すればONにして、迷宮の外へ誘導を始めるだろう。


「メルス……逆に難しい」

《[アイテムボックス]を使って、中から指定した剣を取ってくれ》


 予め眷属の[アイテムボックス]には干渉できるようにしておいたので、ミシェルは画面を操作して剣を取り出した。

 何の変哲もない剣……ただ、柄の辺りにスイッチが付いている点だけは別だが。
 そこには『人』、『魔物』、『物』と三つのモードが記されている。


《『壊剣[クライク]』。今回は『物』モードにしておいてくれよ。そうすれば、何を斬ろうと壊れるのはアイテムだけだ》

「装備も?」

《いや、そういう部分も最初から調整してある。もともとネタアイテムだし。具体的なアイテム名だったり、ジャンルを言えばいい。今回だったら、『天使系の魔道具』って最初に言えばいいわけだ》

「『天使系の魔道具』……これでいい?」


 すると、魔剣はその剣身に魔力を宿す。
 分かりやすいエフェクトとして、仄かに発光する感じにしておいた。
 ……何度も言うが、ネタアイテムだ。


《正々堂々、潰してやれ。俺の……俺たちの祭りで悪事を働こうとしたその罪を、少しずつ味わってもらうために》

「でもメルス、ルールは一つだけって言ってたよね?」

《……あれは、ノリだからな》


 厳格に定められ、[ロウシャジャル]を呼びだす違反行為はたった一つである。
 しかし、俺の反感を買ったらアウトと言うのも、ローカルルールとして認めてくれ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「──“聖迅光ホーリーライト”」


 ミシェルが唱えたのは“聖光ホーリーライト”の術式。
 しかし実際に発動するのは、“聖迅光”という似て非なる魔法。

 効果は聖なる光で暗闇を照らし、そこに潜む破邪を払うというもの。
 まあ、それ自体は基である“聖光”も、同じ効能を発揮する。

 違うのはその性能。
 本来は魔法をスキルやレベル補正という形で強化しても、せいぜい視界と同程度の広さぐらいしか照らせない光。

 しかし“聖迅光”は、この階層そのものを一度に照らし上げた。
 お陰で悪魔は総じて弱体化……魔剣の力を魔法にも及ぶようにして正解だったよ。


「だ、誰だ!」

「──悪に名乗る名など無い」

「チッ、見られたからには死に戻ってもらうしかねぇな。テメェら、やっちまえ!」

「──“聖迅撃ホーリーブロウ”」


 たった一発の魔法、向かってくるMPKの仕掛け人たちに向けられた。
 それだけで彼らはひどいダメージを受け、迷宮の端まで吹っ飛んでいく。

 それだけ“〇撃”系の魔法は凄まじい……のだが、それ以上にミシェルがかつて就いた職業──【聖迅魔王】が異常なのだ。


《能力は聖属性の能力すべてを強化し、逆に相手のものを弱体化させる。加えて、特定の聖属性魔法に関して、『迅』を加えることで性能を底上げできる……おかしくないか?》

「ん、何が? 特におかしいことはないよ」

《まあ、他の属性系【魔王】も似たような効果だったんだっけ? コンセプト的には、たぶん【勇者】の力を得た【魔王】とかそういう感じなんだろうな》


 ミシェルは<勇魔王者>の能力で、これまでに就いた【勇者】と【魔王】の能力をすべて、引き継ぐことができた。

 条件にカンストがあるけれども、他の眷属とレベリングをしていれば勝手に上がる。
 お陰で今は【虹迅魔王】という、あらゆる属性を強化できる職業に就いているぞ。


《魔道具は……ふむ、破壊されているな。気絶もしていないから、悪魔が強引に迫ってくることは無いだろう。ミシェル、もう撤退しても……ああ、ダメみたいだな》

「うん、分かってる」

『まったく、寝ているときに光を浴びせられるとは……これほどまでに人族を殺したいと思うのは、いつぶりだろうか』


 現れたのは上級悪魔。
 おそらく穴の下の方に居た個体が、偶然ミシェルの魔法に反応したのだろう。

 普通なら、ここは壮大なバトルを繰り広げるのだろうが……ミシェルの顔は平然としており、ただ効率的に悪魔を倒す算段を脳内で組み上げている。


「──“聖迅脚”、“聖迅剣”」

『なっ、その力はぁああああああ!?』

「もう終わり。私もメルスも忙しいから、また今度にして」


 瞬間移動からの心臓を一突き。
 敏捷力が物凄く高いミシェルの一連の動きは、本来先ほどの祈念者程度なら指一本で倒せるはずの上級悪魔を一捻りである。

 聖なる力を体に循環させてしまったため、上級悪魔はそのままダウン……ただし、モードの変更が行われていなかったので、死なずに半死半生状態だが。


「じゃあね──“邪迅脚”」

『お、ぼえていろ……』


 ミシェルは悪魔の怒りを買った、それがどういう展開を生むのか……。
 まあ、どんな状況になろうと、力で強引に解決できちゃうけどな。



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