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山田 武

偽善者と夢現祭り初日 その05



 バトルフィールド以外でのPKは、禁止しているため行われない。
 まあ、死んでも死に戻りを誰でもできるイベントなので、そこまで罪は重くないが。

 しかしながら、殺しそのものは完全に禁止しているわけではない。
 どこでも[PvP]は可能だし、方法を考えれば暗殺だって可能だ。

 ──MPK《モンスタープレイヤーキル》。

 魔物の祈念者というわけではなく、魔物を用いての殺人という意味である。
 それが意味するものはつまり、自身の手を汚さない殺人行為だ。


《まあ、MPKはしっかりと業値に変化があるってユウが言ってたけどな。原理はその魔物に干渉したかどうか、つまり物理でも魔法でも手を出して誘導したら、立派なMPKになるらしい》

「私は何をすればいいの?」

《今回は計画的なMPKだ。メンバーが迷宮から魔物を引っ張っている間に、欲しいアイテムを持っている奴らを迷宮の近くに誘き出す。あとは落ちたアイテムを集めて、そのま逃走するだけだ》


 迷宮ダンジョンから本来、魔物は出てこない。
 しかし探索者がテイムなどの何らかの手段でお持ち帰りしようとすれば、迷宮の外へと持っていくことができる。

 今回の場合、それは挑発行為だった。
 魔物が興奮状態の場合、迷宮の管理下に収まらないまま暴走することがあるのだ。

 祈念者たちはその原理を解析し、意図的に怒らせて持っていく方法を知り得た。
 残念ながら素材の方は、迷宮内と同じく魔核だけなのだが……それでも、人を殺せる。


《アイツらは特定の種族だけを選んで持ち込み、自分たちには攻撃が来ない魔道具で凌ぐつもりだ。ミシェルのやることは二つ──その魔道具の破壊と、魔物たちの排除。ただし二つ目は、周りと協力してやること》

「……どうして?」

《いやまあ、なんとなく。別に直接話す必要はない。ただ、行動で示すという対話の方法もあるって知ってほしい。こういうのを俺の世界だと『交渉(物理)』とかそういう感じで言うことがあるぞ》

「とりあえず、斬ればいいんだね。うん、言う通りにやってみる」


 ミシェルがだいぶ脳筋っぽい発言をしているが、まあ仕方なかろう。
 参考になるはずの人物が、だいたいそういう人種だったのだから。

 基本的に眷属は、自分ができないことをするときは他の眷属なら……と考える。
 今回は戦闘関連のことなので、当然思い浮かべるのは……そういうことだ。


《サポートはするし、ミシェルなら問題ないと思う。さぁ、行ってこい!》

「うん──“聖迅脚”!」


 光のある場所ならば、どこへでも向かうことができるチート級の移動手段。
 ミシェルという少女を異端たらしめるスキル──<勇魔王者>に内包された能力だ。

 ミシェルの視界は瞬時に、俺の指定した迷宮の近くへ切り替わる。
 彼女は迷宮の入り口に置かれた機械に、自身の[プロフィール]を表示させた。

 これは祈念者が、自分の身分を簡易的に表示させるためのものだ。
 俺はそれを使い、入り口の前でこれを表示させないと中へ潜れないようにしていた。

 なのでミシェルもその手続きを行わねば、中へ向かうことができない。
 まあ眷属は特別扱いで、俺が適当に用意した偽の情報でも普通に入れるけどな。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 悪徳の深淵


「──“邪迅脚”」


 お次に使ったのは“聖迅脚”とは対極。
 闇の在る場所なら、どこでも行けるチートな移動手段で目的地を訪れる。

 迷宮の中でも悪魔系が揃えられたこの場所に、件のMPK狙いの集団が潜んでいた。
 悪魔は基本、契約を対価にそいつに力を貸す……が、例外だってある。

 そいつが契約するに足りない奴な場合。
 徳が高い聖人だって、堕とそうとする悪魔だが……そりゃあ悪魔にとって価値の無い奴と、わざわざ契約をしようとは思わない。


《ミシェル、というか眷属は誰も悪魔と新規契約できないぞ。俺の眷属は、ある意味俺と契約していることになるからな。悪魔は契約の重複って、あんまり好まないらしいから》

「そうなんだ……」

《大悪魔の配下から聞いた話だぞ。悪魔は基本的に、一人ずつ。たまに才能がある奴は複数の悪魔と契約するが、重複した結果奪うべき対価が無くなる場合とかがあって、いつの間にか廃止されたそうだ》


 なんて悪魔に関するな無駄知識を披露していると、ようやく祈念者たちをミシェルの視界が捉える。

 バレないように隠蔽スキルで身を潜め、彼女は移動していく。
 迷宮は構造的に大穴と螺旋階段がくっついたようなモノなので、上から様子を窺う。


《この迷宮は下に行けば行くほど、強い悪魔が潜んでいる。下で契約すればさっきの法則で悪魔が来なくなるから、安心して帰れる。悪魔にとっても探索者にとっても、プラスになる迷宮なわけだ》

「あの人たちは、なんで怒られるの?」

《悪魔は徳の高い奴でも堕とそうとする、これはさっきも言っただろう? けど、生まれもって徳の高い種族に関しては刷り込まれた嫌悪感を持つ。だから、その気配を漂わせるだけで奴らは不快感を覚えるんだ》

「……天使」


 そう、天使に関するアイテムを持ち歩くだけで、悪魔は対応を改めてくれる。
 彼らはそこに独自の交渉術を合わせ……興奮状態へ導いているわけだ。



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