AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と旅での修行 その15



「クラーレ、メル! ……って、どういう状況なのかしら?」

「あっ、やっと来たー」

「こっちも超特急で来たわよ。クラーレがあの状態だから、早く来てとも言われたわ……それで、何がどうなったらこうなるの?」

「──シ、シガン。わ、わたし、頑張り、ましたよ? ほ、褒めてくだ、さ、い……」


 あれから数十分もしない内に、シガンたち『月の乙女』が結集した。
 そして、彼女たちが目にしたのは……ボロボロになったクラーレの姿である。


「確認するけど──これが『侵蝕』の影響、とかじゃないわよね?」

「ううん。私が来たときのますたーは、何でも救います! みたいな雰囲気だったよ」

「……まあ、クラーレはそんな感じよね。それで、何がどうなったらこうなるのよ」

「──わたしね、何度も何度も助けてくださいって言いました。けど、メルったら、命が捨てられるなら、これぐらい大丈夫だよねって言って止めてくれなくて……」


 最初の方にそう言って、俺の出した課題に挑んでいたんだけどな……。
 途中から少しずつ弱気になっていき、最終的にこんな状態になっていた。


「メル、何をやったのかしら?」

「今のますたーは無限の生命力が用意できるから、それを魔力に還元、何度も魔法を使わせて、【万能克復】に転写。一定以上の症状が患者だったら、自動的にその術式を使えるように仕込んでたんだけど……」

「うぅ……魔法はもう、たくさんです……」

「他には同様に、攻撃を受けたら自動的に反撃できるように魔法を組み込んだりしていたけど……途中でますたーがこんな感じになっちゃって。どうしようかなって思ってたら、みんなが来たんだよ」


 まあ、この空間もついさっきまでは時間の流れを遅くしていたので、シガンたちが想定するよりもはるかに長い時間特訓していたのだが……意外と粘ったんだぞ。

 その意思の強さにガーも感動し、仮ではあるが武具を創ってくれるそうだしな。
 今回の旅で得たモノは、非常に多いと言えるのではないだろうか?


「うーん、じゃあますたーも少し寝ていていいよ。疲れたでしょ?」

「ね、寝てもいいんですか?」

「うん。ここはもう結界の中だし、一度戻った方がいいかもね」

「分かりました! では、おやすみなさい」


 クラーレは[ログアウト]を選択し、この場から消える。
 残ったのは『月の乙女』のメンバーたちと俺だけ……さて、ここからが本番だ。


「『侵蝕』は要するに、強引に在り方を歪めるだけだからね。それ以上の矯正力が働くことで、それを抑制することができる」

「暴論じゃない……それってつまり、曲がった棒をさらに折り曲げて、元の形に似たナニカにするってことよ」

「予め私がますたーの精神状態は覚えているから、まったく同じ状態にすることもできるよ……でも、それだと今の力に不釣り合いだから、もっとひどいことになる」

「あの状態よりも?」


 今は強引な精神誘導の影響もあり、少々お疲れ気味のクラーレだが、一度干渉が途切れる現実へ戻れば、自分の中で状態を整理することができるだろう。

 あのままだったら、なんだか狂気チックな聖女様になりそうだった。
 自分の痛みは二の次、誰からの指図も受けずに平等な救いをもたらしていただろう。


「本当はね、ますたーは【慈愛】の力に目覚めるはずだった。けど、世の中はそんなに上手くはいかない。呪いは【万能克復】を目覚めさせ、ますたーを蝕んだ……でも、そのとき【慈愛】もたしかに起きていたんだよ」

「……両方が、クラーレを侵蝕したの?」

「ううん、それは【万能克復】だけ。あくまで【慈愛】は、導くことしかできない。そのせいで、ますたーは中途半端に本来の意思を持っていたんだよね」


 ティンスやオブリ、すでに<美徳>系のスキルを使う二人も、一度として侵蝕現象に苛まれたことはなかった。

 代わりに自分がどうあるべきか、それを試されることが多かったんだとか。
 本来、<美徳>が担うのは人族の象徴……導士みたいなものだからな。

 因果だかなんだかよく分からないが、創作物で言うところのイベント発生装置みたいな役割をしている可能性がある。


「結論から言う──現状、もうますたーがこれ以上おかしくなることは無い! 主治医である私が保証します!」

「いつ主治医になったかツッコミたい所でもあるけど……今は心底安心したわ」


 その他のメンバーたちも、同じような反応である……クラーレは幸せ者だな。
 こんなにも一挙一動を心配してくれる、素晴らしい仲間がいるんだから。


「それで、依頼の方はどうなったの?」

「ますたーがネズミを浄化、完全に消滅したから復活の心配は無いよ。たとえ蘇生しようにも、もう残滓がまったく残ってないから」

「こっちもプーチがポーションを完成させたから、全員治ったわ。数人、異様に元気な人もいたけど……」

「ますたーが治した人だと思うよ。念入りに治していたから、昔の古傷から心のトラウマまで何でも治っているね」


 何はともあれ、依頼完遂という視点だけで見れば今回は成功だ。
 これからのことは彼女たちと相談し、できるだけクラーレが楽なようにしてやろう。



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