AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と東の北奥 その12


 ネロの意見は最終的に通り、少々の条件付きで叶えられた。
 それは護衛……さすがに死なれては困るということで、配置されたわけだ。


《非常に邪魔なのだが……》

《我慢しろ。さすがにここで拒むのは怪しまれるし、バレない範囲でなら魔法を使ってもいいから》

《……遠隔操作はどうだ?》

《まあ、それぐらいならいいか》


 周囲に聞かれないように念話で話し、とりあえずネロはこっそりと魔本を開く。
 銘は[屍魂の書]、中にはネロがお気に入りとしているアンデッドが入っている。

 そんな魔本のとあるページに、魔力が籠められると……影が一瞬、昏く輝いた。
 それからしばらくして、護衛として付けられた人たちが意識を逸らす。

 するともう一度影が、そして今度は俺の影もが光り輝く。
 傍から見れば、何も起きていない……しかしそれは、たしかに実行された。


《入れ替わり、成功したみたいだな》

《わざわざ隠さずとも、良いと思うのだが》


 入れ替わるためのドッペルゲンガーのアンデッド、そして影転移を行う魔法使いのアンデッドによってネロは俺の陰に潜んだ。

 ネロの代役はアンデッドが行うので、彼女自身は自由に戦闘ができる。
 方法は遠隔操作、適時魔力や指示を送ることで、やるべきことをやらせるのだ。

 アンデッドではあるが、ドッペルゲンガーは他者を写し取ることを性質としている。
 聖属性に対する適性ごと写し取ることで、適性を得ているのだった。

 ……使わないと思っていたが、結局この姿でもアンデッドを使ってしまうようだ。
 まあ、アンデッドと言えばネロという紐づけ連想もあるし、今さらな気がするな。


《で、この後はどうするのだ?》

《護衛たちに後は任せて、俺は自由に戦うことにする。ネロは影の中から、アンデッドや魔法でサポートしてくれ……魔拳で戦いたいとか、思わないでくれよ》

《…………仕方ない、諦めよう》


 やる気満々だったようだが、せっかく隠れていることを忘れないでもらいたい。
 アンデッドは諦めて許可をしているので、そちらの遠隔操作で我慢してもらう。

 ……アンデッドと言っても聖骸タイプなので、怪しまれることはない。
 いちおう『霊動鎧リビングアーマー』系の奴にしてもらう予定だし、顔なども隠せるぞ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「来たぞ! 全員、符を使え!」


 遠目に見える黒い雲。
 しかしそれは雲などではなく、膨大な数のた『呪殖蝗カースドローカスト』の大群。

 防衛軍に属するのは、北奥の主に忠誠を誓う兵士たちと冒険者たち。
 彼らは共に火の符術が刻まれた符に魔力を流し、術式を発動させる。

 ……術式は覚えたし、あとで転写して効果のほどを試すとして。
 俺も渡された符に魔力を籠め、周囲の者と同じように空に向けてかざす。


『──“緋槍ヒソウ”!』


 符から飛び出した火は槍の形を成して、イナゴたちへ向かっていく。
 数が多すぎるので、命中のことなど考えずに飛ばせばいい。

 実際、外したモノはいなかった。
 それは本来イイことなのだが……それを喜ぶ者は誰も居ない。

 敵の数が膨大で、どこに撃っても当たることを証明してしまったのだから。
 ……ちなみに得られる経験値はごく僅か、魔石も超ミニサイズなので本当に害虫だ。


「総員、再度符を放て!」


 それでも減っていることは確実なので、イナゴたちに向けて炎の槍を放つ。
 ちなみに火で攻撃しているのは、焼き殺さないと死体が残るからだ。

 死体を喰えばまた増殖するし、内部に溜め込まれた呪力が継承される。
 それを防ぐためにも死体を焼失させ、そうならないようにしているのだ。


「……けど、なかなか減らないな」

《どうやら死後、呪力による怨霊体を生む個体が居たようだな。奴らはそれを喰らい、再び増殖するようだ》

「……面倒臭いことこの上ない。それでも、今回はやるしかないな。ネロ、“聖域サンクチュアリ”を使ってくれ」

《全域にとなると、そう長くは持たないぞ》


 警告をしつつも、ネロは砦からイナゴたちの居る空域まで聖なる領域を引き延ばす。
 それ以降、火の槍を受けたイナゴたちは自身の呪力を外部に出せずに死んでいく。

 ようやく目に見えて数が少しずつ減っていくため、防衛軍は盛り上がる。
 イナゴたちも自分たちに起きた違和感を認識したのか、一度動きが止まった。

 代わりにイナゴたちの正面には、呪力でできた壁のようなものが構築される。
 ネロの“聖域”を強引に突破し、一時的な防御手段を得たようだ。


「奴ら、臆しているようだな。あの壁は突破できそうか?」

「いえ、おそらく報復呪術のようなモノらしく、先ほど“緋槍”を当てた者が被害を受けました。幸い、すぐに治療できましたので支障はございませんが……」

「なんと厄介な……! ギリギリ生かすことで、時間を稼ぐつもりだな。こちらを殺すような呪術でない以上、そう短いものでもないはずだ。我らにはどうすることもできない」


 なんてことを、防衛軍のお偉い様がたが話している。
 ネロが“聖域”を使っているからこそ、この程度で収まっているのだが……言うまい。

 最悪俺が“聖域”の上位魔法“神域プリーシンクト”を使えば問題ないし、今の状態でも死者が出ているわけではないのでそのままにしておく。


《このまま様子を窺うのか?》

「俺たちの目的は、イナゴを全滅させることじゃない。それは過程であって、ネロの聖性の強化を優先する。それに……このままいけば、面白いことになりそうだしな」


 イナゴたちの方に意識を注げば、呪力が一つの場所に集まっていく感覚を認識する。
 ……この状況に苦悩しているのは、人族だけじゃないわけだな。



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