AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と東の北奥 その08
ネロは再び聖性の因子を活性化させ、聖女染みた格好で村を訪れる。
雪はすでに止み、体の芯から冷える寒さに怯える必要は失われた。
彼女が村に入ると、喝采が上がる。
山に向かうと告げて旅立って数日、帰ってくる前に雪が止んでいたのだ。
その因果関係から彼らは、ネロこそが雪を止めた張本人だと推測したらしい。
実際かなり正解だしな……喝采を向けている場所には、雪を止めた者がいるわけだし。
「メルスは喝采を浴びずともよいのか?」
「ふっ、偽善者ってのは、わざわざ賞賛を求めているわけじゃないからな。自分がやりたいことをやって、それを勝手に感謝されることを求めるんだ。要するに、こういう面倒臭いのは御免だってこと」
「……それを、吾にやらせているのか?」
「…………すみません」
これからの展開はなんとなく分かる。
ネロは祝われ、村中で今日はお祭り騒ぎとなるだろう。
その際、ネロは解放されず誰かが付きっ切りとなる。
……感謝されるだけならともかく、そういうことが面倒になるんだよな。
「いっそのこと、吾の配下に代わりを務めさせるか。奴らが求めるのは幻想の吾、奴らの幻想を果たすことができるのであれば、吾で無くとも構わぬだろう」
「まあ、そうなんだけどな……けどまあ、何かの条件を満たすかもしれないぞ。システム的な部分は、俺たちでもどうしようもないからな。やらなくてもいいならまだしも、やっておいた方がいいならやっておこうぜ」
「メルスはやらぬのにな……分かった。たしかに信仰を集めることは、聖性を高めることに繋がる。それが必要となるかはともかく、損にはならぬだろうな」
神が実在し、祝福や邪縛が贈られる世界。
祈りもまた力を持ち、生死の因果を覆したりする場合も存在する。
……俺はもうなぜか神格を持っているし、ネロに譲りたいという気持ちが無いわけでもないんだよな。
◆ □ ◆ □ ◆
そんなこんなで祝われた。
ネロは聖属性の力を高め、少々性能を上げることに成功する。
属性の適性を高めたということなのだが、スキルレベルを上げたり職業に就く以外にも方法があるのだ。
精霊と契約するだけでも上がる場合があるし、一つの属性を使い続けることで適性を高められる場合もある……聖属性の場合は、信仰が高める方法の一つとなっている。
質と量などで変動はあるが、神が信仰で自身の神格を高めているので──この方法だ。
……ちなみに対となる邪属性は、瘴気を取り込むだけで簡単に高められるぞ。
「だからネロは、わざわざ町の外に出て瘴気の回収をしているのか」
「……思ったよりも聖に均衡していた因子のバランスが偏っていたからな。これらは雪に対する人族の悪感情、瘴気になりかけていたものを強制的に瘴気と化したうえで取り込んでいるだけだ」
「聖職者が聞いたらぶち切れるよな。わざわざどうにかできそうなものを、瘴気にしているわけだし」
「知れたことを。それよりもメルスよ、聖なるアンデッドを新たな術を考えたのだが……聞いてくれるか?」
すでに聖骸と名付けた聖属性を帯びているアンデッドを作れるネロだが、それはあくまで骸を改造することで可能としたこと……強引にやっていることだ。
彼女が求めているのは、もっとも初めてネロが知った聖骸の再現。
俺がやったことなのだが、瘴気に染まった英雄たちの死体を蘇生したら誕生した。
「もともと聖性を持っていたからこそ、アマルたちはできたんだぞ……前に言っていた、聖人の死体を用意とかは無理だからな」
「分かっている。分かっているからこそ、工夫して試作品を用意した……ではなく! 今回のことで、聖性の重要性を感じたのだ。そこに鍵がある、吾はそう思った」
「解析班と話した方が膨らむと思うが……ネロがそれでいいなら付き合うぞ」
「うむ、メルスのように異世界人の方が突拍子もないアイデアを挙げてくれるのでな。カナタやアイリスも同様なのだが、メルスが一番知識を持っているのでな」
カナタもアイリスも、話の合うネタから俺の時代より少し前に異世界に来たということになっている。
創作物は年を経ることに斬新なネタとなっているので、俺の方が参考に使えるモノが多いのだろう。
「とはいえ、アンデッドの聖性か……死ぬ前から聖属性への適性を持たせるとか、逆に瘴気を吸わないような環境で育てるぐらいしか思いつかないな」
「そういったことはすでに試しているな。メルスの監視下にあるお陰で、さすがに一から試すことや生者に手を出してはいないが」
「……当たり前だからな、それ。さすがにそういうことをされると、露見したときに庇いきれなくなるんだよ」
「そうか……聖人の死体でもあれば、もう少しやりやすくなるのだがな」
まあ、最悪彼女の力を求めればなんとかなるだろう……ネロはそれを理解しているからこそ、可能な限り自分でやり遂げようとしているわけだし。
「やったら怒られるからな」
「……分かっている。だが、奴でも理解できぬ理を見つけてやるのも一興ではないか」
「素直じゃないな、うちの眷属は」
理解者を求めるあの娘のため、ネロは日夜研究を続けている。
知らないことを教える……そんな小さなことでも、友情は育まれるものだからな。
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おまけ 没ネタ
「そうだ! メルス、お前の協力があればできる方法を見つけたぞ!」
「……俺にできることなら、まあ可能な限り協力するけど」
「うむ、メルスにしかできぬことだ。メルスが決めるルールに反せぬ者を用意して、手を施せばいい。つまり、メルスが吾を孕──」
「アウト!」
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