AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と東の北奥 その01
「ところで、吾らはどこへ向かうのだ?」
「うーん……西と東は行ったから、今度は北か南じゃないか? どっちでもいいけど、情報が足りないんだよな」
探っていない自分が悪いというのもあるのだが、少々隠されてもいる。
名前だけは把握しているのだが、とある事情からそれだけでは意味を成さない。
「そもそもな、わざわざ東都からスタートしたのは理由があるんだ。船で来れたのがここしかなかったというのも理由だが、この島国にはある特徴があるからな……ちなみに、これも本にしてあるんだが?」
「魂魄の文献以外、興味ないからな」
「……それは読むのか。こほんっ、この島国は鎖国することが可能な場所だ。海流による天然の迷路が外海からの侵入を阻み、天然の迷宮が内部での暗躍を防ぐ。その結果、限られた者しか移動できなくなる」
「迷宮があるのか」
迷宮の名は『鎖刻の回廊』。
階層数は少ないが、非常に一層ごとの空間が広くなっている。
そして、出入り口は四つ。
一つひとつが他の島へ繋がる道となっており、どの出入り口からでもその他三つへ向かうことができる。
別にそこを使わずとも、その他の島へ渡ることは可能だ。
山道を歩き、それぞれの島に掛けられた橋から異なる島へ歩いて移動できる。
「迷宮の入り口は厳重に管理されているぞ。当然と言えば当然だが」
「だが、突破してしまえば容易く他の島へ向かうことができるのだろう? ならば、そのように振る舞えば良いではないか」
「あーあ、そういう風に簡単に言えればいいけどな。普通は権力に負けて、しっかりと申請を取ったりするんだよ。もしくは、冒険者として下層に行くと見せかけて、別の島に行くとかな」
まあ、戻ってこなければバレるので、最終手段みたいなやり方なんだけど。
迷宮は許可が無ければ転移での侵入できないので、それを使うことも本来は不可能だ。
「メルスであれば、時空魔法を用いて入れるのだろう?」
「だから、縛り中だ。今は水系統に特化した術士なんだから無理。ネロも、お前は自由だがあまりやり過ぎるなよ。こっちでも、死霊系は危険な術なんだからな」
「あのような符を使わずとも、できるだろうに……この島における死霊術を、吾が革新させるのも良い──痛ッ!」
「止めなさい。百歩譲っても、せめて行き場の無い奴に対する救済だ。責任取って弟子にして、持ち帰るぐらいはしないとダメだぞ」
ネロの行動すべてを抑制することはできないし、眷属になった以上はそんなことは俺としてもやりたくない。
誰かを犠牲にしてでも、俺は眷属に満足してもらおうと動く。
まあ、それが救いとなるように偽善ができるからという理由もあるけど。
◆ □ ◆ □ ◆
迷宮を渡る、橋を渡る。
方法は二つ……なんてことはなく、船で強引に行ったり、特殊なスキルで妨害を突破して転移するなんて方法も存在するわけだ。
「けど、これがもっともシンプルだよな。陸でも海でもなく、空を渡っていく」
「吾に感謝してもらいたいものだ。今のメルスでは、できなかったことなのだぞ?」
「そのときはそのときで、海の中を突破できただろうけどな……まあ、それでも助かったよ。ありがとうな、ネロ」
「……! う、うむ、この礼はいずれ、しっかりとしてもらおうか」
真っ白な肌がやや紅潮しているように見えるが、アルカでもあるまいし……おそらく気のせいだろう。
頭までローブを深く被ってしまった以上、様子を窺うことはできない。
そんな彼女の背中、そして俺の背中には現在──翼(骨のみ)が生えている。
羽毛もまったく無い『骨羽』という魔物なのだが、もともと魔力で飛ぶ仕組みだったのでそれを利用して飛んでいた。
必要な魔力は俺たちが肩代わりして、肩甲骨辺りから接続している『骨羽』が、俺たちの代わりに飛んでくれているわけだ……少々強引だったかな?
「そんな状態だと、しっかりと飛んでいられないんじゃないか?」
「問題ない。昔はこれを用いて、移動していた頃もあったからな」
「……あー、逃げてた頃だっけ?」
「…………わざわざ言葉を濁していたのだ。情緒に欠けるような言い方は止めてほしい」
ネロは大陸を渡ったこともある【不死王】だが、それはこの魔物を用いてではない。
そんなことができる頃には、竜をゾンビにしていた……そんな話をしていたからな。
「まあまあ。今ならどんな方法で大陸を渡りたいと思うんだ?」
「今ならば……そうだな、瘴気を介した例の転移魔法を使いたい」
「“運参霧瘴”か……アレは制御を間違えると即廃人ルートらしいから、あんまり他所で見せないでほしいし、そのうえ使わせないでほしいんだけどな」
「むぅ……便利なのだがな」
すべてを利便性だけで図っていたら、世はバンバン残虐かつ効率的な兵器を使いまくる暗黒時代に突入していただろう。
この世界でも、危険だからこそ禁書魔法や禁忌魔法というジャンル分けをして、隔離をしているわけだし。
「ネロ個人だけなら構わないけどな……それじゃあ、そろそろ降りるぞ」
「ようやくか……肩がずいぶんと凝っていて疲れていたところだ」
「……それって、飛んでるせいか?」
暴れ狂う山脈をジッと見つめ、疑念を持つ俺なのだった。
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