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山田 武

偽善者と生死の試練 その09



 改めて考えてみた。
 一つ目の試練は魂を繋ぎ留める──つまりは、死なずに生きろということだ。

 途中の内容はアイの理解させたいこと。
 最後の一つ手前が『汝』となっている点から、それまでに理解は済ませているはずだ。

 そして、現在にして最後で最期の試練──魄を繋ぎ留めよ。
 一つ目と対を成し、かつ類似した意味を持つ試練だ。

 これまでは肉体を用いた試練だったが、最後だけは精神や星辰を使っている。
 魂魄の内、肉体や器を司る魄……現在、俺の意識はその器から引き剥がされていた。

 だが、その意味とは何なのだ?
 アイ曰く、倒している間に彼女の意図は自ずと理解できると。

 理解できずとも及第点は与えられる。
 しかし、それでは意味がない……彼女を理解したいと願う心に、反する結果で終わるわけにはいかない。

 対を成す意味なのであれば、それは生きずに死ねということだ。
 だが、それでは魄は繋ぎ留められずに試練は失敗になる……そのままの意味ではない。

 ──可能性だけは、忘れてはならないが。

  □   ◆   □   ◆   □


 死出の門から飛び出した死霊たちは、次々とアイの中へ取り込まれていく。
 それらは衣服や装飾品に宿っていき、彼女自身にも変化が生じる。

 ヴェールや無垢を思わせる漆黒の装束に、真っ白な球体や骸骨が纏わりついていく。
 見える範囲、体にも色艶が文字通り付いていき、白と黒がよりいっそう濃くなる。

 魔力の塊で創られた長杖も、錫杖のような輪っかを生みだす。
 そして何より──周囲に浮かべていた球体が、手のような形を成していく。


「それが本気ってわけか……」

「はい。正真正銘、生涯で初めて使ったこの力……メルス君に振るわせてもらいます」

「嬉しい限りだな。ははっ、嬉しすぎて涙が出てきそうだ」


 尋常ではない超強化を果たしたアイに対して、俺はスキルの大半を使えない。
 身に纏う聖・魔武具や神器の性能はそのままだが、明らかに俺は弱体化している。

 それでもやれることはまだ多い。
 俺の【希望】となる腹帯、想念を現実に変えて運命を覆すよう望んだ武具。


「──“奔放横恣”、“理想羽織”」


 あらゆることに捕らわれなくなる能力、そしてイメージ通りの行動ができる能力。
 二つを行使し、自身もまた魔力を用いて身体強化を発動する。

 先ほどまでやっていた[代替行為]と同じことを、別の方法で行おうとしていた。
 望む動きは、無論眷属たちが魅せてくれた理想の振る舞い方。

 聖・魔武具や神器も同時に装備し、それらすべての恩恵を同時に使えるようにする。
 その姿は滑稽であるかもしれないが、アイはそれを否定しない。

 純白の腕輪に意識を籠め、息を吸って謳うように唱えていく。
 自分の覚悟を定めるように、アイの意志に応えるように。


「──『俺は負けない』、『勝って証明をしよう』。『アイさんを理解し』、『誓いを果たすことを』」

「メルス君……」

「『だから力を』。『魂を捧げ』、『魄を削り』、『存在を懸けて』。『凡人が挑む』、『超越せし者との戦いに勝利を』」


 一つ、言葉を重ねるごとに誓いは強まる。
 試練が終わったとき、俺はこれまででもっともひどい状態になるに違いない。

 しかし、そこに後悔など無いはずだ。
 偽善のように、己の心が突き動かすがままに行ったことなのだから。


「『勝つぞ』、『アイさん』」

「……負けませんよ」

「『理解するよ』、『俺の全部を使って』」

「はい、ぜひともお願いしますね」


 言葉は尽くし、あとは自分たちの体で語り合うのみ。
 まばたきをするようなほんの一瞬、俺たちはその刹那の時に動き出す。

 ──武器を向け、戦いが再開する。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 遥かな時を生きる中で、数多の死者たちを見送ってきたのだろう。
 彼女アイ……いや、当時の『還魂アイドロプラズム』は女性ではなかったかもしれない。

 そんな『還魂』は生と死、相反する概念を象徴する『超越種』である。
 生きながら死に、死にながら生きる……種族名からして、『生死霊冥王・超越種ザ・ソウル』だ。

 理解者とは、その者の行動や考えを正しく受け取るという意味だ。
 受け取る、それはその在り方を許容するということでもあろう。

 アイは『還魂』が定義付けられた当初と、異なる在り方をしている。
 初めて会った時に言っていたが、彼女の今の姿は望まれたが故の姿なのだから。

 理解してほしい、それは本当に『還魂』に課せられた試練なのだろうか?
 いや、仮にそうだったとして……それは当初のモノと寸分違わず同じであるのか?

 もし試練が初期のモノだったならば、俺は間違いなく落第していたはずだ。
 生死を冒涜、眷属たちにも不老を強要している俺は、正しく駆除すべき理の異端者だ。

 なればこそ、この試練は『還魂』ではなくアイの試練だと理解した。
 理を読み、解くこともまた理解と呼ぶのであれば──俺はそれを行える。

 彼女の理想とは、俺にできることとは。
 それらすべてを満たすために、やらねばならないこととは……。

  ◆   □   ◆   □   ◆


「お見事です、メルス君」

「……これで、良かったのか?」

「わがままを言って、申し訳ありません。それでも……昔、そして今の私はこれを理解だと考えています」

「…………よかった。これで俺は、アイさんの理解者になれたんだな」


 俺の体には錫杖が、アイの体には無数の聖剣が突き刺さっている。
 それ以外にも装備はズタボロ、不壊属性の武具たちも罅やら破れが生じていた。

 意識は朦朧としており、俺の生命力などすでに尽きかけている。
 だが、これしかなかった……彼女の求める理解とは、こうすることでしかなれない。

 ──永遠を生きる彼女と、共に終わりを迎える。

 それこそが『還魂』、いやアイが俺に定めた試練を終幕なのだから。



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