AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と生死の試練 その05
「これは……広いだけか」
「だから言ったではありませんか。『宙艦』の『環境変遷』とは異なり、そこまでのものではないと。せいぜい、このように舞台を広くするのが精いっぱいなんですよ?」
「ああ、悪い悪い。でも……広くなった分、数も増えたみたいだな」
「私の権能により、ほんの少しばかりお手伝いさんを呼びました。メルス君が試練を破綻させてしまった以上、私なりに異なる内容でメルス君に理解してもらわねばなりませんので──英霊百体、彼らと戦ってください」
魂魄に刻まれた記録、転生後には失われるソレを呼び起こせる『還魂』の権能。
その力によって用意された、過去に存在した無数の英霊たち。
人格まで複製されているんだろうが……彼らの表情は希薄だ。
完全な模倣ではなく、その表層だけを写し取ったということなのだろう。
「戦うねぇ……」
「懸念もあるでしょうし、丁寧な説明をしましょう。倒してくださって構いませんし、先ほどのように復活もさせません。彼らとどう向き合い、どのように振る舞うのか……メルス君に求めるのはそこです」
「まあ、それぐらいなら……あっ、聞きたいことがあった。生命力って──」
「では、始めてください」
ニコッと笑みを浮かべたアイによって、英霊たちは起動し始める。
完全無詠唱で支援が行われ、天から英霊たちに光が降り注いでいく。
……強化された英霊相手に、ノーミスでクリアしないとゲームオーバー。
難易度が鬼を超えて地獄級、死しかない絶望的な展開である。
「魔導解放──“嵐心たる鎧袖の暴虐”!」
体に纏わりつく荒れ狂う暴風。
大量の英霊たちを同時に相手取るには、手数が足りない。
そこで堅固な嵐の鎧を纏い、触れた相手を吹き飛ばすことを選ぶ。
近接職っぽい奴は平然と立っているが、聖職者や魔法使いっぽい奴は飛ばされている。
「もういっちょ──“不可視の手”」
見えざる魔手が俺の体から、蠢くように飛び出す。
魔力を注ぐことでその本数が増加して、人間サイズの普通の手が千本出現する。
それらすべての制御を、思考系スキルの到達点[世界書館]で行う。
かつての<千思万考>も内包されたそれは、半自動的に魔手を俺が望むままに振るった。
「武具展開──受け取れ、俺の手たち」
指輪の一つが輝くと、空間の至る所に穴が開いて武具が転送されてくる。
魔手たちはそれらを握りしめ、今度は武具ごとその姿を消していく。
「準備万端……さぁ、来い!」
俺自身は万色に輝く宝玉を握り、嵐を纏って英霊たちを待ち受ける。
そして魔手たちは動かない俺の代わりに、次々と英霊たちを襲っていく。
静と動、相反する行い。
それは彼らと戦う俺とのスタンス──受け入れ、抗うことを意味しているつもりだ。
「……過去と向き合う? なら、必要な部分は受け入れるさ。けど、望まない事実は要らない。それは俺たちが決めることだ」
呟き、無意識の自論を咀嚼する。
ずいぶんとまあ【傲慢】だが、【怠惰】に生きたい俺にトラブルは不要。
武器を握り、立ち向かおう。
それが俺なりの対応であり、過去との向き合い方である。
「というわけで、さっさと終わらせてもらうからな──“業魔一刀・進”!」
宝玉が俺のイメージに沿って、最適な形へ作り変わった。
巨人が使うような大きな太刀、そんな武具と化した宝玉の柄を握り武技を発動させる。
なお、『進』は武技の飛距離を強化するという意味を持つ。
霊体系の相手に大ダメージを与える武技、そこに射程距離を与えれば……。
「だいぶ減ってきたな」
「……さすがはメルス君、ですね。これまでも見てきましたが、私の想像以上です」
「これでも世界を股に掛けてきたからな。アイに満足してもらえるよう、しっかり整えてきたつもりだ」
「……これは、私の支度不足でした。もっとメルス君のことを考えて、準備しなければなりませんでした」
とは言うものの、アイにはお役目があるため俺に割く時間などほとんどないだろう。
試練を受けるため、多少は見てもらえたようだが……所詮はモブだからな。
まあもっとも、俺は基本的に夢現空間に居るので補足できないとは思うが。
なんせ観測者である霊体が、疑似魂魄で生み出したモノ以外存在しないのだから。
アイの権能は、霊体に関わるモノ。
それを応用すれば、霊体が向かえる場所すべての情報を網羅することができるだろう。
「メルス君はいったい、普段はどこに居るのですか?」
「そういった話も含めて、試練が終わったらたっぷり話そう。これまで言えなかったことや言いたかったこと、他にもいろんな話があるんだ。だから、それをするためにも……試練は突破させてもらうぞ」
「ええ、分かりました。……どうやら、もう終わってしまったようですし」
意思なき英霊はただの木偶。
今のハイスペックな『偽善者』ならば、容易く片付けることができた。
「それでは、試練も佳境へ進めましょう。さしあたっては……私に武器を」
天と地からエフェクトが輝き、彼女の掌には長杖が出現する。
生と死の概念を詰め込んだような、神々しくも禍々しい……そんな杖だ。
「メルス君、頑張ってくださいね」
「……へっ?」
俺の質問など聞き受けられず、試練は次なる内容を告げる。
それは、これまででもっとも難易度の高いものだった。
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