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山田 武

偽善者と生死の試練 その03



「はぁ……ふぅ」


 普段とは違い、能力値は全開だ。
 多少の疲労感は一度の呼吸を行うだけで、それらを拭い去ることができる。

 纏うのは、<大罪>と<美徳>の概念より生み出された無数の聖・魔武具。
 今は回復がダメージなっているようだが、それを自分で反転させて平常に戻している。

 触れられたら即死、罪のない者たちを傷つけたら……よりひどいペナルティ。
 それでもどうにか俺なりの振る舞いを守り続け──ここまで辿り着く。


「……おそらく、試練として本来の在り方では無くなったことでしょう」

「…………」

「メルス君、そしてその眷属の方々に怨恨を持つ霊体はこれだけではありません。ですがメルス君は、それらから目を逸らした。扉を閉じ、祓い清めた」


 用意されていた悪霊たちを、俺はすべて消し去っていた。
 減らした分を増やすための門も、今は花々が咲き誇り塞いでいる。


「ありふれた言葉だが、生きる中で償いは示す。戦いたくてきたわけじゃない、それは亡者たちだけじゃない……アイともだな」


 少なくとも、『宙艦』との試練は本体と戦わずとも幕を閉じた。
 ……宇宙で生存できるクジラ(型迷宮)と戦おうとして、勝てるかは微妙だが。

 しかし、少なくとも『還魂』ことアイドロプラズムに不敗の概念は無いだろう。
 チートの限りを尽くして戦えば、いずれ勝つことはできる……が、俺はそれをしない。


「アイも別に、俺と戦うために試練を用意してくれたわけじゃないだろう? 償いをする機会、それを用意してくれた。だけど、一つ言いたいことがあって……霊の数、多すぎやしないか?」

「メルス君一人であれば、もっと少なかったのですが……仕様と思ってください。ただ、メルス君たちと縁を持つ霊体たちは、最初から配置していました。なので、悪意を持たない皆さんは見ておられますよ」

「……そうか、あれが関係者か」


 魂魄眼を死霊眼に切り替えると、魂魄を捉えていた場所に人型の霊体たちが映る。
 多様な種族たちが漂っており、希薄な表情でこちらを見ていた。

 それらすべてを視認し、記憶系スキルを駆使して正確に写し取っておく。
 ……誰が誰の関係者なのか分からないし、ずっと視ているのもアレだしな。

 アイの配慮には感謝したい。
 悪霊は時が経てば経つほど増えて、それに感染するように彼らの中から悪霊が出ていた可能性もあったのだから。

 それでも全員が居て、俺がそれを祓わずにいたことで彼らを視ることができた。
 眷属にも、そんな彼らの姿を見せることができるだろう。


「アイは、これからどうするんだ?」

「試練の執行者にそれを直接訊きますか……試練は続きます。メルス君はまだ、理解しておりませんので」

「まあ、そうだな。ただ、確認しておきたいことがあるんだが──彼らは成仏できないのか? それとも、呼び戻したのか?」


 輪廻や転生の概念があるのは、神や神代の書物から把握している。
 今を生きる人々も、循環する魂について神話の概念として知っていた。

 何かのしこりを残す者は、死後も現世に留まり事を成そうとする。
 霊体と魂魄だけとなったその身でも、魔力のあるこの世界ならば不可能ではない。

 ……だからこそ、アイに問いかける。
 彼らはどうしてこの場に居り、今もなお居続けているのか。


「……メルス君。神々の行いのすべてが、人族に理解されるわけではありません。それはメルス君自身が、よく知っているはずです」

「……俺もそうだけど、運営神もだな」

「はい。この身は無数の神々が生みだした、生と死を司る『超越種スペリオルシリーズ』。しかし、それと同時に永い時を見守り続けてきた、観測者でもあります。短命種だけでなく、長命種を輪廻の環に還したことだってあります」


 大切な話っぽいので、聞き続ける。
 ……魔力回復も地道に進んでおり、回復ではなく『変換』という形で生命力の方も少しずつ戻ってきていた。


「彼らは死に、輪廻の環を通りすべてを忘れました。転生し、魂魄を輝かせていることでしょう。しかし、過去は残ります。どこでもない、紛れもないこの世界に」

「……バックアップ、か?」

「その通り。死者は忘れません、行ったことも行われたことも。記憶とは脳にあり、魂魄に刻まれるもの。そして、それらは生涯という形で収められます──この場に居る者たちは、そこから読み取られた者たちなのです」


 曰く、過度に干渉しないためのシステムとのことだ。
 あくまで『還魂』に与えられた、権能でしかできないことらしい。


「彼らは見届け人。メルス君が何を以って、眷属の皆さんの償いを果たすのかを。彼らの判決次第で、私は裁きを下すでしょう」

「……なら、もっと頑張らないとな」

「そうですか。では、試練を続けましょう」


 俺も気を引き締め、次なる試練の内容がどういったものか注意を張り巡らせた。
 そして、その内容が──


≪終わりの始まりを告げよう≫


 その瞬間、感じたことの無いような痛みが苛んだ。
 抗うことのできない、試練によって定められた死の宣告。

 気づけば俺のHPゲージは……『1』を指し示していた。



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