AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と生死の試練 その01



≪魂を繋ぎ留めよ≫


 試練が始まり、辺り一帯に響く宣告アナウンス
 告げられた内容は比喩的なもので、意味そのものを理解はできない。

 だが、実際に現象は起きている。
 聖堂のステンドグラスが一転、本来ならありえない動きを見せ始めた。


「……扉か?」

「はい、正解です。冥府の扉、死の世界へ繋がる道、地獄の門。お好きな呼び方で構いませんよ」

「……つまり、全部ってことかよ」

≪死者よ、我が下へ≫


 魂魄眼をセットした左目が映すのは、死霊たちが扉を潜り抜けてこちらへ現界する姿。
 アイドロプラズム──『還魂』の権能により、一時的な受肉を経た亡者たちだ。


「試練は単純、メルス君が私を理解するか倒すまで続きます。途中で失敗しても、評価次第では試練達成です。──何か、質問はありますか?」

「いいや、無い……と言いたいところだが、一つだけ。俺が真に償えるのはどっちだ?」

「もちろん、前者ですよ。彼らのすべてを、メルス君が受け入れてくれたならば……きっと彼らも、メルス君を受け入れてくれます」

「……死ぬつもりはないんだがな」


 死霊たちは次々と攻撃してくる。
 魔法を放ったり、部分的に肉体を物質化して殴ってきたり……とにかくやりたい放題。

 法則性が分からない以上、安易な攻撃をするのはダメだ。
 そして何より、アイがどういった行動をしてくるのか分かっていない。


「──“浄化結界ピュリファイバリア”」

『────ッ!!』

「安らかに眠れ──“聖域サンクチュアリ”」


 条件を指定したうえで、結界と領域を構築していく。
 あくまで悪霊、目的もなく悪意だけを振りまく霊体にのみ行う破邪。

 呼び出された死霊の中には、そうした悪意のない者も混ざっていた。
 チラリとアイを見るが……今のところ、こちらに何かしようという気配はない。

 まだ間違ってはいないようだ。
 ここで“退屍《ターンアンデッド》”などを使っていたならば、間違いなくアウトだったろうけど。


「死霊もだんだん増えてきたな……これ、どれだけ出てくるんだ?」

「数はメルス君の紡いだ縁の数、関わった死者の数だけ増えます。そして、メルス君の場合は眷属の皆さんの分も……」

「……ネロめ」

「ネロマンテさんだけではありませんよ。単純な悪意ではない、殺意の無い縁もまた、霊たちを生み出すのです」


 終焉の島の者たちは、それぞれが異なる時代の異なる場所で生まれている。
 それらすべての縁が結ばれており、死者として現れるならば……。


「数も多いわけだな」

「はい。本来ならば、私も試練に参加するのですが……少々数が多く、制御するために私もなかなか手が出せません」

「そりゃあ良かったよ。アイとやるなら、最後ぐらいがいいからな」

「ふふっ、ご安心を。メルス君がやっている通り、すべての霊を払うことが罪なことではありません。世界に害を成す霊には、早々にお帰り願わねばなりません。そうして数を減らしていった先……私は判定を下します」


 今はまだ分からない言葉の意味。
 死霊たちを祓っていくことで、試練は少しずつ進んでいくのだろう。


「──“属性纏化・聖”“属性超化”“魔技直付・白光ホワイトレイ”」


 それでも前に進み続けるしかない。
 剣を一本、腰から引き抜くと籠められた力の数々を解放していく。

 七色に輝いていた剣は純白に光り、聖なる力を帯びて死霊たちに威圧感を放つ。
 その後は魂魄眼で把握した、悪霊のみを的確に攻撃していく。


「──“空間移動ムーブ”」


 時折悪霊たちは、攻撃してはいけない霊体たちを利用して攻撃を避けようとする。
 そんな時は“空間移動”で悪霊を斬れる射程範囲へ飛び、そのまま切り払っていく。


「だいたい把握した……そろそろ速度を上げさせてもらうぞ──“万象皆中”」


 もう一振りの剣を腰から引き抜くと、透明な剣身に身力を注ぐ。
 七色に輝く剣と違って色が変わることは無いが、その剣もまた霊体に干渉していく。

 双剣状態となったことで、悪霊たちを切り払う速度は向上する。
 空間魔法で霊体の移動を誘導しながら、悪霊だけを狙う。

 それでも、悪霊たちはどんどん増える。
 浄化しているはずなので、斬られた個体はそのまま輪廻へ帰っているはずだ。

 それ以上に眷属や俺に恨みを持つ者が多いため、門から無限に溢れ出ているのだ。
 少しずつ門へ近づいていく俺は、少しばかり賭けに出ることに。


「夢現流武具術──“斬々舞キリキりマイ”」


 様々な剣術系武技を最適化した状態で発動し、連続コンボを行うオリジナルの武技。
 剣そのものに霊体に干渉する効果がある以上、どの武技を使っても効果が出る。 

 右へ左へ上へ下へ、立体機動を取って聖堂の中を駆け巡っていく。
 挙動一つひとつが武技として力を発揮し、悪霊たちは数を減らす。

 それでも溢れ出る亡者たち。
 霊体しか出てこないのは、『還魂』の権能故なのだろう。


「だからこそ──“神殺滅封・律喰界花”」


 透明な剣が突如色づき、剣身に花のような紋様が浮かびあがる。
 そして“斬々舞”で繋げられる武技の中でも、もっとも射程と威力の高いものを選ぶ。


「──“天翔覇閃《テンショウハセン》”!」


 飛べば飛ぶほど威力を増す武技が、予め威力を高めていたらどうなるか。
 止めるモノは何もなく、距離を伸ばせば減衰した力も再び取り戻す。


「とりあえず、いったん止まれ」


 斬撃は門全体を斬り裂いた。
 そして、そこからは──



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品