AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と生死の決別



 アニワス戦場跡 死者の都


 事前の連絡を済ませ、訪れたアンデッドたちの住まう広い都。
 しかし目に見える範囲で、主だった変化などは何もない。

 いつもと変わらない、死者たちの日常。
 それは生者と同じく街の中を練り歩き、同胞たちと親しげにしている。

 俺はその中を唯一の生者として、訪れた。
 だが彼らに人を憎む想いなど存在せず、むしろ歓迎されている。


「今日が試練なんだってな? メルス、うちの姫さんに変なことすんなよ?」

「変なことってなんだよ……。何をするのか俺だって分かってないんだから、だいぶ緊張しているんだからな?」

「……まっ、頑張れよ。生きて帰ってこれたら、今日はパーッといこうぜ」

「ああ、そうだな」


 語らいを交え、都の奥へ向かっていく。
 何度も声を掛けられ、そのたびに固まっていた心が解れる。

 彼らにその意図があったかどうかは分からないが、少なくとも効果が出ていた。
 前回の試練は気づかぬ間に済んでいたが、今回はそれを承知で挑んだ。

 その違いは精神にキていたのだろう。
 試練を課すのは『超越種スペリオルシリーズ』、これまでに出会ったすべての者たちが、俺のすべてを費やしてもまだ及ばないと思わせた。

 それでも挑もうとするのは、それを願われたから……だけではない。
 俺が彼女の使命を、課せらずにいた試練を果たしたいという意志を叶えたかった。


「──星の海に行くだけで受けられる試練と違って、こっちは出会うまでが大変だしな。受ける条件そのものは、自由民でも適性があればできそうだけど」


 発生条件は霊的存在との接触。
 要するに、一度でも霊体系の種族を見つけていれば試練を受けることができる。

 問題は彼女の住まうこの地が、何人たりとも受け付けない瘴気の中にあることだ。
 理由は俺も知らないが、少なくとも人目を避けるため……だけではないだろう。


「今回、誰も眷属を連れてこなかったし、後でまた怒られるだろうな……でもまあ、そうするだけの価値があることだし」


 試練の全貌、それを俺はまだ知らない。
 しかし彼女自身から、自身が課した試練の意味だけは聞かされている。

 ──霊と向き合い、理解すること。

 背負うモノが多ければ多いほど、その難易度は増していく。
 霊の望むことを成す、それが試練に関わっているんだとか。

 深呼吸をして、意識を切り替えていく。
 すでに目的地は眼前にあり、中では彼女が俺が訪れるそのときを待っているだろう。


「──眷属の雪ぐべきものは、全部俺が雪いでみせる。そのための力を、貸してくれ」


 身に纏う無数のアイテムに語る。
 そのすべてが不壊の神器と化しており、武具の性能だけあればだれにも負けないだろうという自負を持つ。

 だが、試練は単純な武力ではない。
 武力は必要な要素でしかなく、真に試練を果たすのであれば──彼女が試練を通して伝えたいもの、それを理解する必要がある。


「さぁ、行こう!」


 覚悟を決め、聖堂の扉を開く。
 その先にはやはり──彼女が待っていた。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 そこに居るのは少女である。
 祭壇の上に立ち、黒い衣服とヴェールを身に纏った聖女の如き死せる生者。

 鈴のように響くその声が、スッと俺の耳の中に入ってきた。


「──お待ちしておりましたわ、メルス君。今日はメルちゃんではないのですね?」

「試練を受けに来たんだ。しっかりとした正装で挑むのは当然じゃないか?」

「うふふっ、メルス君がそこまで本気でいらしてくれるとは……冥利に尽きますわね」


 彼女──アイドロプラズムことアイは、とても嬉しそうに語る。
 試練とは彼女にとって、果たすべき使命であると同時に、理解を示す問いでもあった。

 つまり試練を経て、俺は彼女にとってどういった存在なのかを証明する。
 これまでの一歩引いた関係から、どのような変化が起きるのかはまだ分からない。

 それでも、より彼女を知りたいと感じた。
 何を想い、何を願い、何を行おうとするのか……彼女は、何を求めているのかを。


「本来、メルス君には必要ないことかもしれませんが、規則ですのでご説明を。──これより始まるのは、『還魂』の試練。生と死を超え、越えしモノによる問いかけです」

「…………」

「汝の生が紡ぐ意味とは。汝の死が示す意味とは。汝の生死が語る意味とは……汝を表す魂魄の輝きが、それらを誇るでしょう」


 口調を変え、切々と。
 アイはその瞳から歓喜の涙を流し、謳うように語り掛けてくる。


「生と死は相反せず、共にあります。善も悪も関係せず、ただそこには道があります。進も戻るも曲がるも自由。築き上げたモノこそが、汝の描いた魂魄のはて。彩るのは出会い、そして別れ」


 少しずつ、アイの中から膨大なナニカが溢れ出ようとしていた。
 彼女の想いに応えるように、試練を行うために必要なソレが彼女を通し高まっていく。


「汝は迷い子、果てを目指し進みゆく者。私は汝に問いかける、汝の道はどこへ行く。出会いと別れ、生と死が。汝を紡いできたそのすべてを、今一度示してください」


 轟ッと解き放たれた力の塊──瘴気。
 大量の霊体たちが俺たちの試練の始まりを見届けるかのように、聖堂の中に集いゆく。

 そこには悪霊や怨霊も混ざっており、こちらを空虚な瞳で見つめている。
 恐ろしいのはその数……幾千を超える視線が、憎悪に満ちた眼差しをしていた。


「抗わず、あるがままに。汝が汝の道に迷わぬならば、終わることなく道はある。さぁ、始めましょう──『還魂』の試練を!」

「ああ、始めてくれ。準備も覚悟もとっくに済ませてきた!」

「ええ、理解しておりますとも。メルス君はそう言ってくれると。ですので、今度は私を理解してくださいね?」


 ヴァ―ルの下から見える口元が、小さく笑みを描いた。
 そして、俺の了承と共に──長き試練の幕が開いた。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 ──能力“超越試練”が発動されました

 霊体との遭遇、『還魂』との接触を確認

 超越クエスト『迷える者よ、抗うことなかれ』が発生しました

 このアナウンスは完全秘匿されます



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