AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と橙色の学習 その14



 読書をしている俺だが、昔は小説や漫画ばかり読み漁っていたタイプだ。
 なので小難しい理論など理解できず、題名と自分でも分かる簡単な内容だけを読む。

 それを視界を通じて見ている眷属に判断してもらい、使えそうなら試してもらう。
 その繰り返しをやっていると、アンたちが直接この階層にやってきた。


「よう、お二人とも。授業の方はもう済んだのか?」

「はい。キシリー様も学べたようで、満足していただけました」

「…………」

「なんだかぶつぶつ言っているけど……よくあることか。お疲れ様、アン」


 すり寄ってきたので、アンの頭にポンっと手を載せて優しく撫でる。
 俺が気にしなくなった羞恥の加減を、完璧に読んだイイ作戦だ。

 キシリーの方はそんな俺たちを見向きもせず、自分の世界にのめり込んでいる。
 アンの伝えた情報は、この世界では廃れてしまった知識なのだ。

 知っていること、僅かに知っていること、知らないことを織り交ぜて教えていたので、試したいことが山ほどあるのだろう。

 ぶつぶつ呟く彼女は、研究が佳境に入った眷属たちと似ている。
 ならば俺がやるべきことは、彼女の背中をそっと押してやることだろう。


「あー……キシリーさんや、やりたいことがあるなら帰ってもいいんだぞ?」

「えっ? あ、はい。そうしたいのは山々ですが、お二方から目を離せば新発見に気づけないような気がしまして……」

「今日は読んでいるだけだから、特に面白いことは無いと思うぞ。アンも、やることはそれだけだよな……なっ?」

「メルス様がそう仰られるのであれば、わたしはそれに従います。キシリー様、しっかりと休養なされることをオススメします」


 俺と(主に)アンの忠告もあり、大人しくこの場から去ったキシリー。
 ただ、アンに向ける尊敬の視線が……なんとなくだが、また来そうだな。


「メルス様のお考え通り、間違いなく彼女は学びに来ることでしょう」

「負担にならないか?」

「問題ありません。もともと、彼女には協力者になってもらうのです。わたしたちが試練に干渉できない以上、地力を発揮してもらわねばなりません。望まれるのであれば、集めたすべての知識を与えますが?」

「……とりあえず、赤色の世界の範囲に収めておこう。魔術用の肉体に、年を経る中で変化しているんだろう? ただでさえ扱いづらくなっている魔法を、さらに精製までやらせたりするのは時間を空けてからだ」


 AFO世界の魔法は量もあるし、繋がっている赤色の世界の魔法の方がいいだろう。
 何より、教えすぎると無茶をしそうな魔法がいっぱいあるからな。


「畏まりました。では、わたしはこれからメルス様を膝枕する以外、何をすればよいのでしょうか?」

「……なぜ前提として膝枕をするのか分からないけど、アンはやりたいことあるのか? その、膝枕以外で」

「でしたら、わたしもメルス様といっしょに読書をさせていただきましょう。別々に行う方が高率的でしょうが……ダメ、ですか? 膝枕付きで」

「……準備するか」


 図書館内では使用できる魔術とできない魔術があるのだが、魔法はだいたい使えた。
 今回の縛りである木魔法を上手く使い、地べたにつかなくていいようにベンチを作る。

 ポンポンと先に座ったアンが自分の膝を叩くので、少々恥ずかしさを覚えながらも、彼女の膝に頭を載せる……とても冷たかった。


「冷たいけど、柔らかいんだな……って、セクハラ臭いか」

「メルス様は、人肌の方がお好みですか?」

「凄い質問だ。うーん、そうだな……俺はこのままでも、いいと思うけど。アンの味っていうか、感触っていうか……うわ、やっぱり言うと変態チックな気がする」

「わたしは構いませんが……」


 なんだろう、むしろウェルカムですという副音声が聞こえてくる気がする。
 思い違いでは無いことを信じ、アンに身を委ねてまったりしていく。

 使用可能な魔術の中には“飛浮ヒフ”もあるので、まずはそれで本を浮かべた。
 そこに“魔力ノ手マジックハンド”を使えば、勝手にページを捲ってくれる。

 だいぶ自堕落だが、アンは小さく笑みを浮かべるだけで止めようとしない。
 彼女たち眷属からすれば、俺の【怠惰】な行動は肯定すべき事柄だからな。


「メルス様、お飲み物とお食事がございますがどうされますか?」

「……図書館で飲食は禁止だろう?」

「先ほど、キシリー様よりご許可を頂いております。森人たちがルールを定める上層の場合、認識されない限り飲食することができるようになりました」

「職権乱用っていうか……それって、ただのバレなきゃセーフじゃないか?」


 気づかれなければいいという、暴論。
 世に蔓延る罪の内、気づかれない小さなモノの大半はこれが理由だと思われる。


「では、止めますか?」

「……認めてもらっているんだし、まあ別にいいよな?」

「はい、問題ありません。今なら特別に、わたしがメルス様に食べさせたり飲ませたりしますよ」

「魔術を使えばいいだけなんだが……あっ、はい、ありがたくお願いいたします」


 アンの気迫に押し負け、結局お願いしてしまう弱い俺。
 そんな男を甘やかすアンは、甲斐甲斐しく世話を行うのだった。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品