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山田 武

偽善者と橙色の学習 その05



 一回り小さくなった二階層だが、相も変わらず大量の本が並べられている。
 早くヒントが来ないかと待っていると、すぐにそのときが訪れた。


「今度は飛んでないな。代わりに闇に染まった獣が……あれ、どういうこと?」

「本に記された怪物たちが、その姿を現さんとする! ……このような描写で、いかがでしょうか?」

「うーん、そこは禁書とか古の書物とかそういう感じがよかったな。つまり、本の内容が魔物化したってことか……魔本なのか?」

「いいえ。核を定めて具現化したわけではなく、書物に籠められた意思や認識を基に姿を構築しているだけ。分かりやすく言うと、あれは雑多な模造品となります」


 分かりやすくしてもらってようやく理解したが、今走ってくる魔物たちは本に書かれた内容をなぞって動いているだけらしい。

 たとえば犬に関する本があれば、犬型の魔物が犬っぽいことをする。
 魔本のような特殊性はなく、ただ迷宮の魔物として侵入者を排除するために動く。


「ってことだな。さて、最初は『狂愛包丁』無しでドロップさせるぞ!」

「……できますか?」

「たぶん無理! だけど、それでもいきなりズルってのもな。アン、悪いが一匹生かしておいてくれ」

「はい、畏まりました」


 森弓術を使うため、樹の聖霊たるユラルに手伝ってもらって作ったこの弓。
 矢の自動生成機能だけではなく、他にもさまざまなモノが搭載されている。


「どれにしようかな……これかな?」


 取り出したのは小さな種。
 それを弓に番えるような動作を行うと、軽く光を放ち──それが矢となる。

 あとはその矢を構え、地を這う本の魔物たちに向けて飛ばす。
 魔物たちはそれを躱そうとする……が、狙いは彼らの足元。

 突き刺さった矢は再び光り輝くと、今度はその姿を大木と化す。
 それに驚く魔物たち──枝は彼らを刺し貫き、ドクンドクンと脈打ちだす。


「『吸血木ヴァンプウッド』……やりすぎたかな? というか、血があったのか」

「血があるという記述があれば、そうなるのもまた当然のこと……とメルス様はお考えになるのがよろしいでしょう」

「細かいことを考えるよりも、まあそっちの方がいいか。アン、アイテムの方は?」

「まったく、これっぽっちも、一つの欠片も残すことなく消滅しましたよ」


 目的のヒントはドロップせず、数十体の魔物たちが血(と魔力)を失って絶命した。
 ドロップ率がゼロ……とほぼ同じレベルの運の低さなので、こうなるのも当然か。


「そういえば、幸運スキルも習得方法が確立してたっけ? あれ、試してみようかな?」

「この世界では実行できませんので、行うのであれば別の機会にお願いします。ところでメルス様、いかがなされますか? 確保はしておりますが……」

「ああ、うん。さっさとやろうか」


 包丁を一突きすれば、アンが確保していた魔物が大量のアイテムをドロップする。
 そこには先ほど同様、ヒントの山が……二回目になると、罪悪感も薄いな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 再びヒントを基に、アンが試練用の本が置かれた場所を特定してくれた。
 ただ、アン曰くほんの少しだけ難易度が上がっていたようだ。

 階層が変わるごとに、難易度が相応に変化しているのだろう。
 今は全部ドロップし、必ず答えを出せてはいるが……変わるかもしれないな。


「さて、また頑張らないとな」

「メルス様、張り切っておられますね」

「そりゃあな。アン、そっちは任せたぞ」

「ええ、お任せください」


 二階層の試練もまた、本の整頓だ。
 ただし少し違う点としては、初めから本が欠如しているところ。

 要するに本を埋めるためには、魔物たちからドロップさせなければならない。
 今はアンが代理で魔物を討伐し、落とした本を俺が片付けている。


「どうやら試練用の魔物は、本を確定ドロップさせるようですね」

「落とさないと終わらないからな。うーん、それはあっちの本棚か」

「“振刃レゾナンスエッジ”──追加です」


 短剣を振るうアンは、刃を武技と短剣そのものの能力で振動させて魔物を斬っていく。
 機械的……というか、ほぼそれそのものな彼女なので、精確に魔物の核を狙っていた。

 そうして核を失った魔物たちは、その場に本を残して消える。
 アンがそれを投げては俺が場所を特定し、元在った場所へ仕舞っていく。


「俺はもう、アン無しじゃやっていけないかもしれないな」

「──メルス様、今の台詞セリフをもう一度」

「……何、その機械?」

「いえ、ただの録音機です」


 レコーダーみたいな機械を出して、そんなことを言われて正直に繰り返す奴が本当にいるのだろうか?

 ……それに、アンは常時録音しているようなものなので記録されているはずだ。
 だがまあ、それを理由に誤魔化すようなことでもないか。


「いつも眷属には世話になっている。アン、お前は特に俺と繋がっているからサポートを頼むことが多い。そのサポートが無ければ、解決できなかったこともあっただろう……感謝している、アン」

「…………。メルス様、なかなかに嬉し恥ずかしな台詞をありがとうございます」

「なに、その反応? その嬉し恥ずかしって誰が対象の言葉!?」


 感情をいっさい見せず、いつもただでさえレイフ°目な瞳がさらに光を映さなくなっている……怖くは無いが、心配になる。

 アンは結局、それには答えなかった。
 試練が終わるまで問い続けたのだが……俺の言い方が悪かったのだろうか?



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