AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と橙色の学習 その01



 橙色の世界 華都アルヴァ


 俺が二つ目に訪れた華の都は、巨大な花の中にこれまた無数の木々が生えているという不思議な場所だった。

 そこでは多種多様な森人族が暮らし、時折現れる魔粉たちを迎撃している。
 ……ちなみに、半血の森人も居るみたいだが、そこに冷遇などはないようだ。


「──お待たせしました。いえ、お待ちし続けていたかもしれません」

「…………」

「メルス様より情報収集の命を与えられ、どれほどの刻が経ったことでしょう。嗚呼、それはそれは長い時間が──」

「さして経っていないだろうに。アン、あれから何か新規情報とかはあるのか?」


 この華都担当として活動をしてもらっていたアンは、図書館で情報を集めている。
 現在、彼女の姿は森人……を模したものになっている。

 神性機人のアンだが、それによってここの住民に溶け込んで調査をしていたんだよな。
 その結果を俺はまだ知らないので、本人の口から聞くことに。


「そうですね……少なくとも図書館に置かれている本の中に、『トービスーイ』の名はございませんでした」

「マジで、アイツって何なんだろうな?」


 アンが出したその名は、この世界においてもっとも知られているべき名前だ。
 なぜならば──それは、この世界を統べるはずの神の名前だから。

 もう一つの世界、赤色の世界では神は邪神に落とされていたが、こちらでは平和的に神の座を下ろされていた……具体的には、寝ている間に簒奪されていたようだ。


「うーん、じゃあ次の話題……魔術とか、そういう感じで」

「畏まりました。魔術と魔法の件ですが、ごく稀に魔法を操れる者が現れるそうです。この世界の人々には魔法のシステムが失われているため、行使できる者が限られています。しかし、彼らはそれを行えます」

「……それでか。魔法を一から何も見ないで構築するなんて、一種の才能だからな」


 この世界は橙色の神から簒奪した権能を使い、花々がシステムを支配している。
 それに対抗するように生まれたのが、擬似的な旧システムを扱えるアイテム『華装』。

 それらを世界中の誰もが使えるため、わざわざ七面倒な魔法を学ばずとも、魔術を研鑽すればいいという考えに至るわけだな。


「ですが、森人は長命な種族。魔法を扱える個体が生まれた際、その技術を後世に伝えております。その結果、普人族よりは魔法への理解度が高くなっているようですね」

「どれくらいまで使えるのか?」

「完全マニュアルで、しかも適性があるわけではございませんので……種族で適性を持つ水・土属性、そして木属性の魔法が、中級か上級程度まで知識として伝わっております」

「それ以上は秘匿されているのか……うん、まだ上はあるだろうな。システムの魔法が使えない以上、それは本人の想像力が試されるだろうけど。いずれにせよ、上級以上も無いとは限らないよな」


 あとは職業同様、超級とか極級とかそういう感じで一から五で階級分けされていた。
 ちなみに禁書級と禁忌級もあるが、それは先の五階級とは別に危険度で決まっている。

 ……こっちは絶対に、載っていないと分かるので確認はしない。
 魔法でそういうことができると分かれば、習得しようとするヤツがいると考えるしな。


「魔法はそんなところか……じゃあ、魔術についての方も」

「魔法をある程度把握しておりますので、そちらを魔術で再現するといった形のものを開発しているようですね。実際、図書館の本にもいくつかそういった文献がございました」

「……けど、それってその個人で考えた魔法の魔術版だよな? 運用方法とかは違うし、アイデアとして参考になるだろうけど、だいぶ幅が狭いんだろうな」

「なお、そちらは方法のみで、具体的な魔術は載っておりませんでした。そして、わたしたちの方が優れた魔術化の技術を有しておりました」


 そう語るアンは、何やら誇らしげな様子。
 うちはそれを行う機会が多いし、何より優れた者が多い……当然と言えば当然だが、そこは言わぬが花なのだろう。


「他に何か、ご質問は?」

「じゃあ……そうだ、この華都にも選ばれし者が居たか?」

「はい。この華都では『ミント』家という一族が先祖代々、その力を欲しいがままにしてきました」

「その言い方、凄い悪役みたいなんだが?」


 話を聞いていくと、どうやら『ミント』家とやらは図書館の最高責任者として君臨しているそうだ……名前だけだと、うちの可愛い娘のことを思い出してしまいそうである。

 長い寿命の中で智を尊び、本として残す彼らからすれば高級官僚なのだろう。
 そして、選ばれし者として発現する力──『賢者』によって、それは支えられている。


「ただ、正式に誰が継承しているといった情報はございません。『勇者』の継承者であるライカ様だけでは、この世界での選出方法の特定はできません」

「その一家だけ探せば、誰が継承しているかは分かるだろう。というか、こっちの世界なら最悪先代でもいいわけだし」


 ライカの祖父も『勇者』の『華装』を持つことは、すでにあの華都でも常識なのだ。
 継承されると言っても、それは選ばれし者の名を冠する特殊機能が使える云々だし。


「よし、じゃあ図書館に行ってみるか。そこに居るかもしれないだろう?」

「畏まりました。では、ご案内を──縛りはいかがなされますか?」

「そういえば、まだ決めてなかったな……とりあえずエルフっぽいことにしようか」

「では、そのように」


 そんなノリで決まった縛りと共に、俺の橙色の世界ライフが再び幕を開く。



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