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山田 武

偽善者と戦力集め その08



 ──『進退流転[ディヴァース]』。

 ユニークモンスターは近づくと、たとえ鑑定スキルを持たなくとも名前を認識できる。
 その魔物はゆっくりと俺を識別し、こちらへ近づいてきた。

 防具を受け取る際、支店長からある程度の情報を貰っている。
 この魔物は、その姿をありとあらゆる魔物へ変える可能性・・・を持っているらしい。

 そう、可能性なのだ。
 実際に変えられる姿は少なく、基本的には今の姿──魔粘体スライムの場合が多いとのこと。


「魔物言語スキルがあるし、言葉は伝わるはずだよね……始めまし──てぶっ!」

『!』


 挨拶の途中、[ディヴァース]は動いた。
 体をパチンコの要領でギュッと伸ばし、その反動で加速し──突っ込んでくる。

 今の低スペックな俺は、それを受け止められずに壁まで飛ばされた。
 防具のお陰でなんとかなったが……それだけで、生命力HPが1割を切る。


「お客様、大丈夫ですか?」

「まだ一度目です。それより、本当に倒さなければならないんですか?」

「ええ。ユニークモンスターは倒さなければ報酬を出しません。お客様はご自身の力で、[ディヴァース]を倒さねばなりません」

「……いろいろと試したいことがあります。時間は掛かりますけど」


 構いません、と答える支店長。
 グイっとポーションを飲み下し、生命力を最大値まで回復させる。

 こちらは支給されなかったので、自前の物で補っていた。
 対する[ディヴァース]をジッと見て、再び前に進み出る。


『!』

「……力を貸してくださ──ぐっ!」

『!』

「はぁ、はぁ……話を、聞いてください」


 命懸けの交渉を繰り返す。
 持っているスキルの内、使えそうなものはすべて行使している。

 肉体強度を高め、再生力を上げ、言葉に魔力を乗せ、語り掛けていく。
 それでも[ディヴァース]は突進し、俺を吹き飛ばして元の場所に戻る。

 だが、少しずつ俺も慣れていく。
 命懸けの行動だからか、まずは物理耐性スキルを獲得する。


「ふぅ……“無光ニルライト”」

『!』

「やっぱり、魔力に反応している……」


 そうした中で、ある法則性に気づく。
 どうやら[ディヴァース]は魔力感知で視覚を補っており、動く際はそれを基準にしているようだ。

 気づいたのは身体強化にムラがある現状、スキルを使った自動強化もあって腕に少々魔力が多めに込められていた時。

 その腕を狙うように突っ込んできたため、もしやと考えれば……それは正解だった。
 まあ、途中で軌道修正をしてきたので、近づけば他の感覚が俺自身を見抜くのだろう。


「なら──“無光”、“無光”、“無光”」


 光を三つ浮かべ、ふわふわと浮かべる。
 キョロキョロとする[ディヴァース]を確認し、俺はそれを[ディヴァース]の周りを囲むように動かしていく。

 クルクルと回る球体に、戸惑っている。
 いずれ慣れるだろうし、仮にそのまま近づいたとしても、すぐに俺の居場所に気づいて突撃してくるだろう。


「──“魔力付与”、“魔力付与”……」


 なので、石ころに魔力を付与していく。
 1ずつ籠めていくだけでも、しばらくは維持できるだろう。

 そうして魔力の感知を妨害していくと、当然[ディヴァース]も動き出す。
 説明した通り、[ディヴァース]は複数の形態を持っている。


「支店長さん、あの姿は?」

「『野狼ウルフ』ですね。会頭が実験の過程で与えてしまいまして……あのような姿を」

「……いろいろやってますね」

「ええ、それでこそ会頭ですので」


 狼の姿になった[ディヴァース]。
 重要なのはそこに、目が付いていること。
 実際、先ほどまでとは打って変わって的確に俺の方へ向かってくる。

 魔粘体が擬態した、などといったレベルではない。
 本当に狼になっている……ユニークモンスターたる所以は、おそらくこれだろう。

 しかし、こちらとしても都合がいい。
 魔力感知による把握より、視覚を使おうとしている今、魔法に対する感知能力が落ちている……それを突く!


「うん──“距点無至ポイントカット”」

『!』

「これで──“魔力線マジックライン”!」

『!!』


 クルクルと回していた魔力を支点に、瞬間移動を行う。
 そして、そのまま俺と[ディヴァース]を繋ぐ魔力の経路を構築する。

 あまり長くは持たない。
 しかし、観察することである程度把握している相手なため、『返し』のようなものを施してあり、解除は難しいだろう。

 ただ、魔力を繋いだだけでは勝てない。
 相手はユニークモンスター、通常の方法では勝つことなど不可能。

 なので俺は、重ねて魔法を使う。
 ある意味もっとも簡単に、もっとも上手く使えるその魔法は──


「──“念話テル”!」

『!』

「頼む、話を聞いてほしい!」
《頼む、話を聞いてほしい!》


 言葉を訴えかけると同時に、膨大な量のイメージ映像を送り込む。
 情報量で押し潰すことはできないけど、事情を知ってもらえる。

 基本的にユニークモンスターは、ある程度知能を持つ。
 俺はそれに賭け、交渉する──死んで俺の力になってくれと。


「お願いです、僕に……眷属かぞくを守る力を」
《代わりにすべてを、俺個人が支払えるものならば払う》

『……』


 それから起きたことは、奇跡と呼べることなのかもしれない。
 少なくともくそ雑魚スペックな俺に、このユニークモンスターは絶対に倒せなかった。


『!』

「……ありがとう」


 狼から魔粘体の状態に[ディヴァース]は戻り、一本の触手を伸ばす。
 その先に繋げられているのは、核──つまり心臓とも呼べる部分だ。

 俺はそれに向けて、魔力を高めて一発の魔法を行使する。
 軽く触れただけで尋常ではない堅さだと理解した、なので相応の魔法を選んだ。


「──“集力爆発アウトバースト”!」


 繋げた回路から核まで繋ぎ、発動させた魔法を[ディヴァース]に作用させる。
 それは自爆魔法、膨大なエネルギーを爆発に変換させるというもの。

 核から強制的に爆発を生み出し、内部から炸裂させる。
 自分自身の力なので、核も耐えられず……核は砕け散った。

 ──そして、ある変化が起きる。



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