AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と攻城戦終篇 その16



 ニィナには言っていなかったが、俺はそこまで警戒していなかった。
 そんなことを言えば逆に心配されるうえ、同行してしまうのはだいたい予想が付く。

 なのでそれは言わず、一人で本棚からできた隠し通路を通っている。
 実際、進んでからしばらくするが、魔物は出てこないし反応もない。


「だいぶ暗いな……“無光ニルライト”」


 魔力を指先に籠め、その副次結果として発光させる強引な点灯方法。
 光魔法が使えない今の状態では、これを使うしかない……生活魔法でもいいんだけど。

 念話は遮断され、俺は孤独感を味わう。
 しかし過去の自分を思い出し、もともとはそうだったとしみじみとしていれば特に恐怖などは感じなかった。


「精神耐性スキルは最初に習得していたし、その影響かな? えっと……あれが、とりあえずの目標地点かも」


 そこには神像が八体並べられており、さらにその上に台座が一つ置かれている。
 神の下に彫られたはその神名が書かれており、台座の下にも文字が刻まれていた。


「……『真なる神を座に乗せよ』、か。謎解きはあんまり得意じゃないんだけど……つまり、こういうことだよね」


 今回の問題は、俺でも分かる簡単な問題でよかった。
 俺はそれぞれの神像を調べ上げ──そのうえで、地面に叩き付けて砕いていく。


「全部運営神の名前じゃん。リオンとこっちの闇の神スペーク様の分は、取っておいてお土産にしておこうっと」


 俺の予想が当たったようで、祭壇っぽい場所によって阻まれていた道が切り開かれる。
 そして、その先には……小部屋が一室用意されていた。


「何かいい本は……うん、これだ」


 題名は無いそれは、とある男が綴った日記のような物だ。
 しかし、その内容はとても興味深く、一度読み始めた手が止まらない。


「やっぱり、運営神と繋がりを持ったからこそ利用されているんだ。一種の契約、強さの対価が死後の束縛だなんて……救われない」


 実際、彼は──魔王はイベントの敵役として登場させられている。
 祈念者たちを成長させるための、都合のいい道具……それが運営神に与えられた役割。


「けど、その企みを承知のうえでこの魔王は動いたみたいだな。一部は……まだ解析できないけど、それは隠蔽用かな?」


 本棚の仕掛け程度で開けられる場所に置いてあった日記なので、所々に読めないような細工をして隠そうとする跡が見つかった。

 誰に対して隠しているのか、それだけはすでに発覚している……読める範囲で、それをした理由も明らかになっているし。


「あとは他の本だね。本当は今ここで読みたいんだけど、時間もあまりないし……全部お土産にしようか──“停滞穴アイテムボックス”」


 発動後、空間に突如として穴が生まれる。
 内部の時間は止まっており、光すら飲み込むため真っ暗になっていた。

 祈念者の権能である[アイテムボックス]の魔術版、というかパクリである。
 物を仕舞える便利な魔術として、一度目のこの縛りの後開発してもらったのだ。

 イベントが終わってしまうと集められない貴重な資料を、次々と穴に放り込んでいく。
 目に入った物を片っ端から取り込んでいったのだが……ふと、手が止まる。


「これって……。ッ!?」


 そして、一冊の本を見つける。
 どうしてここに、とも思うが……同じくそういうこともあるのかと納得もしていた。

 先の部屋で本を読んでいた時から、異なる言語で書かれているなど雑多な本の種類に違和感を覚えていたのだ。

 それらが──さまざまな国から奪ってきた本ということなのであれば、すべてに納得がいく……どうしてこの魔本が、ここに収められていたのかも。


「それがあるってことは、あの日記帳にもつまり……ふふっ、面白くなってきたよ」


 まだ解読しきれていない部分もあるので、それを終わらせた後になるだろう。
 二冊の魔本が正しく物語を綴るならば、俺も偽善者としての役割と務められる。


「そろそろニィナと合流しないと……結界、いつまで持つか分からないからね」


 呟く程度では収まらない、壮大な独り言を話しながらこの部屋を出る。
 ……そこには、何も残されていなかった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「窃盗スキルのレベルが上がった」

「読むのはいいけど、持って帰ってくるのはダメってことかな? 兄さん、本当に奥には本しかなかったの?」

「うん、無かったよ。残念ながら、金銀財宝は別の部屋みたい……もう時間もないから、一度外に出よう。祈念者のみんながそろそろここに乗り込んでくるだろうし」

「時間も……うん、そうかも。それじゃあ、兄さんも隠れる準備をして」


 言われるがままに、行きに使った魔術と同じものを使ってから二人で隠蔽スキルを行使して部屋を出る。

 すると、先ほどとは異なり慌ただしく動く魔物たちを気配を探知した。
 どうやら、祈念者たちが何かやらかしてしまったようだ。


「どうしよう、兄さん」

「祈念者が入ってきたら、間違いなく一人ぐらいは別の所に行こうとするからバレる可能性が高い。何としても、今の内に脱出しないとダメなんだ……うん、このまま行こう」

「分かったよ、兄さん」

「保険は用意するけどね──“幻ノ君ファンタズマ”」


 念のため、幻影を用意してバレてもそちらに視線が向かうようにしておく。
 そうした積み重ねの結果、無事俺たちは脱出に成功するのだった。



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