AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と攻城戦終篇 その12



「──コツさえ掴めば、ニィナはなんでもできる優秀な子だね。まだ称号を調べてないけど、きっといろんな称号が手に入っていると思うよ」

「えへへ……そうかな? ぼくも兄さんみたいにいろんな称号が貰えるように頑張るよ」

「自由民もギルドカードがあれば変更できるし、創ってもらったオリジナル魔法があれば無くても好きなものにできるよ。今は縛りがあるから見れないけど、間違いなく有用な称号があると思うよ」


 称号には名前だけ、効果付与、セットで効果発動、常時発動の四種類がある。
 そのうち三つは知らずとも使えるが、セットで発動するモノだけは手動だ。

 これまでニィナにはスキル習得のため、さまざまなことをしてきてもらった。
 それらは称号という形で証明され、彼女の力になってくれるだろう。


「『生産を極めし者』は品質的に取れただろうし、もうやることはないね? ニィナ、何かやりたいことはあるかな?」

「……外を、守りたいかな」

「うん、ニィナがそう言うならそうしよう。どうなっているかは……今から調べようか」


 生産ギルドの工房を借りていたため、外部の情報が伝わっていなかった。
 工房の中は少し時がゆっくり進むため、その影響が漏れないように設計するからだ。

 なので、俺たちは知らなかった。
 自分たちの居る都市に向けて、大量の魔物が押し寄せているとは。


「ッ! 兄さん、手を!」

「お願い、ニィナ」

「うん──“空間移動ムーブ”!」


 長距離の転移は禁止されているが、視界内などの条件付きかつ短距離の転移であれば行うことができる。

 ニィナと手を繋ぎ、空間魔法の効果範囲に含めてもらっての移動。
 上空に向かってもらい、“空間圧縮キューブ”で固定した足場から眼下を見下ろす。

 魔物の反応を、ニィナは感知や探知のスキルで察したのだろう。
 俺はまだスキルとして得ていないので、手動で探ってやっとこさ気づく。

 ……というか、気づけるぐらいに膨大な量なことがその時点で発覚してしまった。


「す、凄い……」

「まさか、こんなことになるなんて……」


 都市を取り囲む万を超えると思われる魔物たちの軍団。
 それらは魔王の意志の下に統率され、クリスタルを破壊するために進軍してくる。

 一方の祈念者たちは百人程度。
 敵うはずがない、それは相対している彼らも思ったはずだ。



 しかし、俺とニィナ……そして、現在の彼らの感想は違うだろう。


「「──都市の防衛が凄すぎる!」」


 生産ギルドで時間を潰しているのは悪いだろうと思い、クリスタルを使わなくても動かすことができた兵器やユニットに限って、真面目に使うことにしていた。

 その中には、どうやらかなりの規模に高火力をもたらす物があったようだ。
 ……言ってなかったけど、魔物の位階ランクがかなり低いのも多かったみたいだし。


「そっか、リセットされてたのか。いくら魔王軍だからって、すべてがすべて最強なわけじゃないんだし」

「きっと、兄さんの考えているような魔物はお城の方に居るんだよ。それに……全部の場所が、高い位階の魔物たちから守り抜けるわけじゃないんだから」

「さすがニィナ、僕の分からないことをすぐに理解してくれる!」

「……兄さん、これぐらいは考えた方がいいと思うよ」


 うん、ごもっともな意見で。
 アンとかは徹底的に俺を甘やかそうとするので、いつの間にかどっぷりと嵌っていたのかもしれない。

 ……どこからか舌打ちのような音、そしてニィナが突然ビクッとした。
 この現象については、知らない方が幸せなのかもしれない。


「……ニィナ、君は間違っていない。むしろ堕落は人をダメにすることがあるんだ。たとえ僕が【怠惰】の申し子であっても、間違えたらニィナが止めてね」

「うん、任せて。お姉さまたちは、こういうところは信用できないもん」

「僕がそれを求めたというのも、理由の一つだけどね。ニィナ、それでこれから何をしようか? ビックリした魔物の大量発生も、実はあっさりと済みそうだったし」

「うーん……ここは、大丈夫なのかな?」


 自由にしていいと言ったようなもの。
 なのに、ニィナはまずこの場所を心配してくれた……うんうん、俺だったら偽善と即答するところだぞ。


「最悪、スケジュールの空いた眷属が来てくれると思うよ。だからニィナは、やりたいことをやっていいんだ」

「そう言われても……そうだ、兄さん! ぼく、いろんな人の行動が見たい!」

「行動? ……ああ、さっきのだね」


 ニィナは観察して学習すれば、スキルの習得効率が飛躍的に向上する。
 もしかしたら、生きる者すべてがそういう仕様かもしれないが……彼女は特別だ。

 そう在れと生まれた存在にして、超越せし種族なのだから。


「ニィナが学んだことは、当然僕たちにも反映される……いいと思う。さすがはニィナ、よく考えてくれている」

「ぼくだけのことだと分からないけど……兄さんやみんなの役に立つことなら、すぐに思いつくんだ」

「健気すぎる……可愛すぎるよ僕の妹!」


 そんな素晴らしい妹の願いを叶えるべく、一番祈念者が集まっていそうな場所へ。
 もちろん、それは祈念者たちの目的地──魔王の居城である。



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