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山田 武

偽善者と攻城戦後篇 その09

連続更新となります(03/12)
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 大きく息を吸い、全身を巡らせるようにして三つの身力を操作する。
 礼装から送り込まれる竜族の力──竜丹は凄まじく、本来人族で扱えない。

 俺は今回それを無理やり引きだし、使用した……その代償を支払った場合、俺の体は大幅な弱体化を受けてしまう。

 なので、それを踏み倒すべく行動する。
 集めた身力を今度は自身の心臓へ送ると、脈動と共に束ねていく。

 それが本来人族が扱う『人丹』を生み、体中に浸透する。
 こちらは比較的安全なもので……正直効果は薄いのだが、安定していると言えよう。

 あとは人丹の量を竜丹よりも高め、それを以って礼装から送り返されてきたエネルギーの塊を押し返す。

 代わりにそれは掌に集めて、外に放出……しようとしたのだが──


「主様、それを頂けないかのう?」

「まあ、お前の礼装から集めた力だから別にいいけど……なんで?」

「なぜと問われても……欲しているから、という理由ではダメかのう?」

「ん、それならいいぞ」


 欲しいと言われて、俺にあげられるモノならば渡したい。
 そう思わせるぐらいに、この世界で眷属たちと共にいる。

 いろいろとやらかしてはいるが、ソウもまた眷属……別に拒む理由もない。
 というわけで、さっそく実行する──単純に手を繋いでそこから流し込むだけだ。


「んっ……ぅっ……!」

「──“風力操作”」


 なんだか変な声を出し始めたので、風を操作して俺とソウの間に壁を作る。
 音漏れが無くなり、俺が認識するのはやけに淫靡な顔をしたソウだけ……アウトだな。

 俺は目を閉じ、別の作業に集中する。
 ちょうど発動した風力操作スキルを使い、周囲に風を当てていくだけの単純な作業。

 脳裏には風を当てた場所が浮かび上がり、それが何なのかすら認識できる。
 ただひたすらそんな作業を繰り返すと……生命体との接触を確認した。


「解除っと。ソウ、次に行くぞ」

「ほ、ほぉちぷれぇ……」

「…………はあ、仕方ないか」


 またまた出番な風力操作さん。
 ソウを包み込むように風を作り上げると、そのまま俺に移動に合わせて動かしておく。

 燃費の悪いソウの礼装、そして竜丹とその相殺まで実行しているが……上位の身体系スキルで回復を行えば、帳尻が合うぐらいには戻せている。


「ソウ、そろそろ気は済んだか?」

「……ふぅ。主様の気は、未だに儂の体中を巡っておるがのう」

「そこじゃないだろう。次の相手、そんな状態で充分に戦えるのか?」

「それであったか。主様をここで感じているのじゃ、負けるはずがなかろう」


 ここ、というのがどこなのか……は知る気にはならなかったので目を向けない。
 代わりに視界に移すのは、遠くで発見してやっと目で捉えられるようになった者たち。

 風を当てることで速度を読み取り、体の向きで行き先はなんとなく当てられた。
 まもなく到着するお客様、目的はこの領域の何なのか……という点はどうでもいい。

 今回の眷属は攻城を行なう者──つまりは襲撃者だ。
 もし、その情報を外部に漏れすような外因があるのであれば、それは消して当然。


「どうやって倒すんだ?」

「儂と主様の愛に満ちたコンビネーションをするのもまたよいが──」

「そんな事実あったか?」

「うむ、合ったぞ。とはいえ、それでは先ほどまでとは変わらん。相手は死なぬ人形、正面から向かい合う必要などなかろう。主様、今しばらく儂を固定しておいてくれ」


 言われるがままソウを支える……が、この先の展開がなんとなく分かってしまった。
 その後始末……というか、処理ができるぐらいに被害に留めるべく準備を行う。

 いかに祈念者が蘇える存在とはいえ、ソウの攻撃が綺麗に祈念者だけを穿てるわけではない……うん、つまりはそういうことだ。


「やるなら一瞬で済ませてくれ。俺はお前が撃ったらすぐに止めて、被害が出ないように抑え込むから」

「なるほどのう、それならば儂も安心して放つことができる。主様の世界で言うところの『背中は任せた』というところかのう?」

「いや、全然意味が違うからな」


 単独でも世界を滅ぼせるヤツの背中を任されて、俺は何をすればいいのだろうか。
 まあ、今回のような場合なら、滅ぼされないように四苦八苦するだけだな。


「行くぞ、主様」

「──“魂魄強化”、“並速思考”」

「スゥウウウ……ガァ──ッ!」

「──“緊急脱出”」


 ソウが行ったのは竜族の定番である息吹ブレス
 ただし威力がデカすぎるため、そのまま撃てば核兵器以上の惨劇を生み出す。

 ということで、俺は口から少しだけ息吹が出たら緊急脱出スキルを使い、自分たちの向きを傾けたうえでその場から転移する。

 飛び出るのはほんの僅かなエネルギーのみとなり、あとは移動先から上空に向けて放たれるという、誤魔化し方であった。

 移動したソウは。空へ向けて息吹を吹き切る……そして、何事もなく口を閉じる。
 つまりは成功、見事俺は人々の平和を守ることができた──(ドォオオオオオンッ!)


「……なあなあ、ソウさんや」

「どうしたんじゃ、主様よ」

「お前、力は自分の方でも押さえておいてくれたんだろうな?」

「いや、主様に言われた通り一瞬で済ませるための火力にしておいたぞ」


 つまり、何はどうあれ結果は変わらなかったというわけか……先ほど響いた天地を揺るがすような震動は、つまりほんの僅かな息吹が引き起こしたものということだ。

 どんだけ凄いんだよ、コイツ。
 創作物のチート系主人公とタメを張れる銀髪美女を眺め、ただただ呆れしか浮かばない俺なのだった。



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