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山田 武

偽善者と攻城戦中篇 その14



≪しょうごとなりましたので──はっかいめのこうじょうせんかいしです≫


 時計の針は上を示し、魔物たちが群れを成して攻め立ててくる。
 しかも、これまでよりもかなり数が多い。
 人を雇えとは、このためだったのだろう。


「まあ、関係ないけどさ。おーい、そっちはどうなってるー?」


 都市内部やその他もろもろをリッカ、都市外部の簡易な町をネロに任せている。
 そして、呼びだせる最大人数であるあと二人は、直接外で戦ってもらっていた。

 まずはその一人の下を訪れる。
 真っ白な肌に髪、瞳は赤い少女……格好は本人が望んだので、秘書っぽいスーツだ。


「メルス様、見ての通り順調です。このアンめをこの場へ配置してくださったこと、恐悦至極にございます」

「……えっ、何その台詞。全然アンっぽくなくて正直引く」

「わたしらしさを知ってもらえているようで感激です。メルス様、これからもよろしくお願いします」

台詞セリフに繋がりが無いようなする気もするけど……まあ、よろしく」


 突拍子の無いことを言って、和ませてくれるのはアンの好いところだろう。
 たとえそれらを全部レイフ°目で言っていたとしても、そこには感謝を籠める。

 そんな彼女だが、戦闘中なのにこちらを見ながら冗談を交えるぐらいの余裕があった。
 右手を銃に左手を砲に変え、撃ちだしたエネルギーの弾で魔物たちを屠っていく。


「凄いメカメカしい……!」

「お望みであれば、飛行ユニットを展開して空からの蹂躙を行いますが?」

「! ……い、いや、止めておく。見られたら面倒なことになりそうだし」

「では、二人っきりの時間にでも」


 俺は否定するでもなく、ただコクリと首を縦に振った。
 だって、男の子のロマンには、ありとあらゆる事情は際無きことになるのだから。

 いちおう俺自身が因子を打てば、やることもできる……できるのだが。
 やはり、やるのではなく観る・・! それこそがロマンでは無かろうか!!


「ずいぶんと篤い語りですね。読んでいるわたしも少々ビックリです」

「機械……いや、ロボは凄い。それはこの世界のお姫様を虜にするぐらい、真理だぞ」

「リア様を参考になされるのは、どうかと思われますが……メルス様の世界の文化からすれば、たしかにそうかもしれません」


 この世界の機械にはかなり不思議が多い。
 機人族、神性機人、そして魔導機人……特に最後の存在が、歪なのだ。

 うちの魔導機人チャルは記憶がロックどころか消去されていたので調べられないが、アレは間違いなく人の手が加えられた機構だった。

 機人、神性機人にはない本当の部品。
 何より神の存在が無い、創造主が不明だという点が特におかしい。

 ──まるで『機巧乙女』のように、何者かによって創られた、そう示すかのような。


「メルス様」

「……っと、思考に耽っていたか」

「その問題は、わたしたちも全力で調べています。チャル様に関わっていること、そして何よりメルス様がお求めになられていますから当然です」

「悪いな、調べ事ばっかりで」


 血腥ちなまぐさいことは眷属にやらせないくせに、そういう裏方系の仕事ばかり押しつけていた。
 それは俺の【傲慢】であり、【怠惰】なのだろう……うん、反省反省。


「わたしの場合、そうあるべきと望まれた存在ですので。メルス様が寝台の上で慰めてくれるのであれば、それだけで構いません」

「……ヲイ」

「ふふっ、真実です」

「冗談です、みたいなノリで言うなよ」


 アンや武具っ娘の場合は、たしかにその通りだろう。
 だからと言って、蔑ろにしていいわけでもない……ちゃんと頼っていくつもりだ。

 ──ただ、配分を考えないと過剰戦力にしかならないんだよな。
 体や宙に大量の武装兵器を並べ、魔物を殲滅するアンを見ながら……そう思った。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「ようこそお出でいただきました、我が王マイロード

「こりゃあまた、派手に頑張っているな」


 アンとは別に、彼女──ドゥルにもフィールドでの防衛に勤しんでもらっている。
 分かりやすく言うのであれば、二人はそれぞれ西と東で防衛しているのだ。

 さて、そんな戦場なのだが……無数の武具が地面に突き刺さり、魔物を縫い付けて絶命させている。

 それは今なお続いていることで、空に広げられた無数の穴から武具が射出されている。
 完全に某英雄王とか言われそうだが……あくまでも、青色の騎士が彼女の原点だ。


「現状はどうなっている?」

「位階が11に届き得る個体が出現していました。かなり危険な水域かと」


 10から12までの位階を持つ魔物。
 それは三回ほど進化したうえ、何かしらの特殊な能力を持つようなレベルの存在だ。

 ただの雑魚レベルだった魔粘体スライムだって、そこまで行けば国家を滅ぼしかねない危険な魔物に……ぐらいの危うさを秘めている。


「攻城戦のクリア条件が分からない以上、最後まで進めてみるつもりだ。15はありえないし、最悪でも14まで……それならお前たちだけで絶対に倒せる」

「仰せのままに、我が王。必ずや、その使命果たしてみせましょう!」


 ちょうどそんなとき、遠くに映る魔法陣がかなり激しく輝き始めた。
 何か、限界を超えたレベルのナニカを呼びだそうとしているような……そんな感じだ。

 うん、つまり終わりが見えてきたのか。
 やや溢れてきたやる気を振り絞り、ドゥルの隣で戦闘準備を始めるのだった。



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