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山田 武

偽善者と攻城戦中篇 その10



 リッカの謎転移スキルでエレモロ都市へ帰還した俺は、それまでここを守ってくれていた者たちを労う。

 それは幼い姉妹であり──【英雄】だ。


「フーラ、フーリ。任務ご苦労だった」

「は、はい!」
「……疲れた。ご褒美を所望する」

「ははっ、正直で何より。それじゃあ、少し長めに頑張ってもらった分のご褒美を……そりゃあ、マカロンタワーだ!」


 積み重ねられたマカロンの塔。
 魔法で固定されたケースごと取りだすと、机の上にそれを載せる。

 この場に居る者の中でもっとも背が高い俺よりも、その塔はなお高くそびえ立つ。
 ……いやまあ、張り切りすぎてしまい高くしすぎちゃいました。


「さすがにこれを全部だと、甘い物の食べすぎになるからな。手に持てるだけ持って、今回の任務は終了にしよう」

「こ、これを……好きなだけ」
「……お姉ちゃん、頑張ろう」

「魔王様、さすがに作りすぎじゃないの?」

「まあ、作りすぎて損が無い世界だしな。時間を止めておけば、いつまでも取っておけるから非常食にも使える。糖分摂取としても、これは使えるだろう?」


 虫歯や糖尿病などの心配も、この世界の高レベルな奴には関係ない。
 眷属は全員が食べ物に関するスキルを渡してあるので、そういう問題は皆無だ。


「それにしてもこれは……何人分よ」

「全員でお茶会とかしたら、意外とちょうどいいかもしれないな。まあ、そんな機会があるならリッカに任せようか」

「ええ。お任せくださいな、魔王様」


 そのときは俺も、礼装を整えて眷属たちに尽くしたいとは思うが。
 楽しそうに両手いっぱいにマカロンを掴む姉妹の姿を見ながら、そんなことを思う。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「こっちもこっちで異常なし。あとで追加の報酬を二人の実家に送っておいた方がいいかもしれないな」


 俺とリッカがスオーロの下を訪れている間は、彼女たちがここを守護してくれていた。
 クリスタルの操作権限を移譲していたが、それでも損傷率0%は好成績だ。


「新システム……ふむ、[騎士]と[傭兵]の雇用か」


 詳細は省くが、要するに正規か非正規かで人を雇うシステムらしい。
 後者である[傭兵]は、ギルドで見たようなものを正式なシステムにしたものだ。

 問題は[騎士]、これは攻城戦イベントが終了するまで一組織に属して防衛を続けなければならなくなる。

 代わりに報酬の分配は[傭兵]よりも倍率が高め、そのうえ防衛をしている最中は能力値に補正が入るんだとか。


「クリスタルの方にも、それぞれを一定する雇うことで解放される設備ができたのか。凄いな、セーブポイントまで置けるのかよ」


 条件は──[騎士]をその占領地ごとに設定された人数以上、雇用すること。
 この都市の場合、五十人は雇わなければならないので……うん、無理。

 普通はできるのかもしれないが、北の地は祈念者が来なくなっている。
 死ななければ関係ないセーブポイントだ、今回は縁が無かったということで諦めよう。


「さて、そろそろ呼ぶとしましょうかね──“召喚サモン眷属ファミリア”」


 すでに姉妹もリッカも帰還しているので、召喚できる人数は四人。
 だが、状況に合わせて呼ぶことにして……とりあえずは一人だ。


「────」

「意外だな。まさか、呼びかけに応じてくれるとはな」

「……不承、不承」

「リンカ、力を貸してくれ。この都市に迫る魔物たちから防衛をしたい」


 リンカ──かつての『輪魂穢廻』は、不満そうな顔を浮かべながらも首を縦に振る。
 根が悪いわけではないが、誕生してからの倫理観がズレているからこその反応だろう。

 わざわざそれをする理由が無く、何もかも自らへ取り込んできた『輪魂穢廻』。
 なのに初めての依頼が防衛だ……不服で無くて、何が理由で不満なのだろうか。


「説明、要求」

「先んじて情報は送ったが、ここは神々の遊技場だ。死んでも死なない奴らが、ひたすら魔物と戦い続けている。リンカには魔物の排除をしてもらいたい、もちろん倒した魔物は好きにしてくれて構わないぞ」

「確約、事実?」

「ああ、本当だ。できるなら、一部はここの戦力として再放出してもらいたいが」


 イベント用の魔物といえど、魂魄をしっかりと持っていることは確認済みだ。
 それをリンカに任せれば、都合のいい存在に加工することができる。


「承知」

「前もって用意することはできないけど、攻城……というか防衛兵器は使ってくれて構わない。倒せば魂魄を取り込めるだろう?」

「可能」

「じゃあ、任せるぞ……眷属が他にもいるけど、あまり喧嘩はしないでくれよ。たぶん、何かしら揉める」


 理由はさっぱりだし、呼ばれる眷属はランダムのはずだが……なんとなくそう思った。
 枠が三つもあるのだ、一人ぐらい相性が悪いヤツがいるかもしれない。

 リンカも心当たりがないのか、首を傾げているので問題ないという可能性もある。
 しかし……俺のこれまでの経験則が、そう言っているんだよな。


「? 了解」

「頼んだぞ、リンカ。俺もわざわざ眷属の諍いを止めるために力を使いたくはないから」


 リンカと相性の悪い眷属か……仮にいるとして、それはいったい誰なんだろう?



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