AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と攻城戦中篇 その06



「──[ドラゴンレイ]」


 先ほどまで使っていた[レヴェラス]を鞘に納め、移動時に使っていたモノとは異なる双剣を取りだす。

 竜を模した二振りの剣、それはある眷属といっしょに倒した魔物がドロップした思い出の品だ(当時はまだなっていなかったが)。

 それを地面に突き刺すと、これまでに使用した身力値がぐんぐん回復していく。
 予定よりも性能が高いのだが……たぶん、ここの主が関係しているな。


「──[アルカナ]、“狂乱の錫杖”」


 大悪魔の力は借りず、魔武具の状態で取りだしたのは四種の形状を持ったアイテム。
 地面に石突の部分を接触させると、禍々しい音が洞窟内に木霊する。

 それは無機物にすら届く魔法の音色。
 傀児たちは目の部分の発光を明滅させ、仲間同士でぶつかり合う。


「ついでだ──闇魔法“強制隷属スレイヴギアス”」


 赤色の世界で拾った魔法だが、なんとなく気になったことがあったので使用する。
 黒い靄が周辺の傀児たちを包み、ガシャッという金属音と共に首輪が生成された。

 明滅を繰り返していた彼らは動きを止め、俺に向けて忠誠のポーズらしきものを取る。


「先にやらねば──[夢現の書]」


 一冊の六法全書並みに分厚い本を呼びだすと、傀児に関する内容が記されたページが勝手に開いて彼らを取り込んでいく。

 そうすることで、術者が干渉して解除してこようと無効化できるようになる。
 情報的に彼らは貴重だ、ぜひともサンプルとして回収しておきたかった。


「後ろから魔物か──“失絡の硬貨”」


 杖の形状は変わり、巨大な盾に。
 ただしそこには不気味な絵柄がデザインされており、硬貨のようにも思える。

 魔物たちが洞窟の外から近づいてくる中、魔力を注ぎ込むとその枚数が増えていく。
 突如出現した硬貨にぶつかる魔物たち──その身に迸る凄まじい雷と衝撃。

 雷の衝撃ではなく、雷と衝撃。
 なぜなら硬貨はすべて、ぶつかった魔物たちへ向かって高速で飛んでいっていたから。


「どれだけ足掻こうと、無駄だというのが分からんのか──“天斬る大剣”」


 魔物が居なくなった次に出てくるのは、先ほどとは異なる少し硬めな傀児。
 たぶん、外で働いていたのをここの主が呼び戻してMPKをさせたのだろう。

 サンプルはこれ以上要らないので、大剣を振り回して戦うことに。
 まあ、ティル師匠やら死者の先生方からご鞭撻頂いた大剣の技があれば楽勝だけど。


「はっ、我が剣に傷つけられない物など存在せぬわ!」
《恥ずかしい、クソ恥ずかしいんだけど!》

「さすがです、魔王様!」
《ちょ、ちょっと止めてよね、急に吹き出したくなるようなことを言うのは!》


 なんてリッカと建前と本音をぶつけ合いながら処理を進めていくと、だんだんと出てくる傀児が硬くなったり魔物が強くなる。

 自分で言った通り、『天斬る大剣』モードの時は必ず傷をつけることができる。
 それがダメージとして影響を及ぼせるかどうか、その点は使用者の技量によるらしい。

 かつての使用者である大悪魔は、膂力に頼るだけで霊体に当てるためとかそういう使い方しかしていなかったが……ティルとかが使うと、最凶最悪の絶対切断の剣なんだよな。


「止まれ──“欲望の聖杯”」


 願うのは傀児の一定時間停止。
 膨大な魔力を奪い去り、機能した願いは実現される──俺に代償を与えることで。


「一定時間の武技、魔技、スキルの行使禁止か。その程度であれば造作もない……が、しばらくは任せることにしよう」

「はっ、お任せください魔王様!」


 リッカが前に出て、再び洞窟の奥を目指して移動を開始する。

 スキルには装備も含まれていたので、今回の縛り──特殊な武器のスキル限定という縛りができなくなってしまったのだ。

 デバフの掛かっている時間は十分間。
 暇な時ならすぐに過ぎ去る時間だが、戦闘が起きるような場所だとかなり危うい。

 もし、そこで重体となったら……ここの主がどんな目に遭うのか。
 人々の健やかな暮らしを守るためにも、俺は自分の身を大切にしなければならない!


  ◆   □   ◆   □   ◆


「──なんで!?」

 少年がクリスタル越しに観た光景は、これまでに観たことの無いようなものだった。

 自分から傀児制御権を奪う黒い靄、そしてそのままそれを封じる不思議な本。
 ならばと送り込んだ魔物は巨大な硬貨に倒され、強化した傀児は剣で斬られる。

 その硬さはダイヤモンド以上の代物であるというのに、大剣が当たった個体はすべてが機能を停止していく。

 最後に、禍々しい杯が光り輝くと──この場に居る個体も含め、すべての傀児が機能を停止したのだ。

「くそっ、くそっ、動け……動いてくれ!」

 どれだけ魔力を注ごうと、傀児たちがそれに応えることはない。
 少年は知らないが、『欲望の聖杯』は願いの代償を支払う限りは絶対にそれを叶える。

 ──ただしそれは、歪な形で。

「なら……“人形作製クリエイト・ドール”──“■■■■”。やった、できた!」

 ふと閃いた新たな策、傀児以外の種族であれば使えるのではという考えを実行する。
 すると思った通り予想は的中し、生みだされた人形は体を動かす。

「一度傀児を解除して、人形を……けど、普通じゃダメだ。【■■■■】を全開にして、最初で決めるべきだ」

 ぶつぶつと呟きながら、侵入者の迎撃を行うために準備を始める。
 そしてそれは、彼らが到着する寸前に完了するのだった。


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