AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と攻城戦前篇 その19



「──なるほどな、意外と多かった」

「意外とってなんだよ、意外とって」

「言葉通りの意味だが? まあ、そんなお前にはこれか……はい、魔法の粉。使うと発火するから場所は気を付けろよ」

「……って、何に使うんだよそれ」


 情報を提供してくれたリヴェルに、相応の礼をしてやろうとアイテムを渡す。
 他の二人はそういう契約だが、コイツだけは別口の取引で雇っているからな。

 しかしどうやら、分かっていない様子。
 鑑定スキルは使っているようだが、記されているのは『魔法の粉』だしな……当然ながら、偽装による結果です。


「いいか、それの本当の名前は『恐幻鱗粉』と言ってな。自分のイメージしたおぞましい物に変身できる魔法の粉だ……おっ、どうやら察したみたいだな」

「こ、これがあれば……」

「ちゃんと恐怖判定もされるようにしてあるから、好きなものに化けてもいいんだぞ。原作通りか、それともそれ以上でも問題なし」

「──シャァオラァアアア!」


 訳の分からない発言プラス、ガッツポーズで歓喜するリヴェル。
 本当は剣とか銃でも良かったんだが……武器だと、難癖を付けられそうだったからな。


「すぐに試してきていいぞ」

「マジか、じゃあすぐに行ってくる!」

「おー、やり過ぎんなよー。あと、粉は消耗品だから欲しかったら働けよ」

「くっ……すべてが貴様の思う通りになると思うなよ!」


 と言いつつも、イベント前に俺が渡した妖精の羽を模した飛行用の魔道具を使って、この場から去っていく。

 本物を採用するのは倫理的な問題もあったので、[不明]の(因子注入)スキルでそういう性質を持たせておいた。


「因子って、自分に刺す以外にも使い方があるんだよな……今は縛りで使えないけど、もう少し広い考え方を持って使ってみるか」


 これまでの知り合いにも、許可を得た場合は因子を貰っている。
 ……まあ、敵対している内にサクッと集めている場合が多いけど。

 サンプルは多い方がいいし、同じ種族でも異なる部分を調べるのは俺としても楽しい。
 因子の研究……それは、擬似的な転生を安全に行うためにも使えるからな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「ガーは帰ったし、リラは寝ている。やることがまた失われたな……見栄を張らずにできるって意味では嬉しい話だが」


 改めて、自分の姿を確認する。
 すっかり忘れていたが、その装備は割と本気な物……予定通りに行動できたのは、間違いなく装備補正によるものだったのだろう。

 美術館モドキのクリスタル設置場所へ帰還した俺は、そんなことを後悔していた。
 できることをすべてやる、みたいなことができていない残念なモブだと再認識する。


「装備スキルももっと使っていれば、リラの役に立てたのかもな──礼装の力も、今回使わなかったし。ヤバいな……あとで怒られそうだし、先に使っておくか」


 とはいえ、ランダムで召喚できる眷属とは違って礼装のモードは手動選択だ。
 一度使えば維持に消耗することはないし、本当に困るのは選ぶ点だけ。

 なので──


「紡がれし童話。其は星銀の少女。捧げ、全てを与えし者。救われぬ定め、書き換えられし死の理。我求めるは献上の意。貧しき者を救う力、銀の星降る約束の地を目指す心を今ここに──“星銀魂魄ソウルスターディー”」


 身に纏う礼装が輝くは、銀色に光る星。
 そして、彼女の髪色のように万色のオーロラが、ほんのりと所々で発露する。

 これこそが、リラの魂魄を用いて発現する礼装の姿。
 そしてこの状態の俺であれば、あらゆるスキルへの適性……つまり許可を得られる。


「先に使えるモノを使っておいて、あとで運用を考えよう──“人形作成クリエイト・ドール”」


 便利な人形を用意するにも、土魔法が使えなかった俺には不可能だった。
 それも今では使用可能だ……こういうところで眷属の必要性を感じるのはおかしいな。

 そうして生みだされた人形たちは、俺が思念で命じていた内容を実行する。
 外へ向かい、それを成していくだろう。


「さっき力場支配をしておいたから、ここからでも使えるか──“住居作成クリエイト・ホーム”」


 クリスタル越しの映像に、突如並び立っていく建物たち。
 正直、防衛するのに必要かと訊かれると微妙なんだが……それでも、発動させておく。


「人形たちに町を運営させて、そこを防衛線として機能させようか? 魔物戦線とか、柄でもない名前にして。線があれば、どこからどこまでが手抜きで本気か、そういう部分も決めておけるし」


 滅ぼされない程度に町を改善しておけば、祈念者たちが勝手に魔物の掃除をしてくれるかもしれない……マーケット迷宮ダンジョンのように、彼らの欲を刺激する何かがあればいいのだ。


「……やっぱり面倒だな。とりあえずの壁代わりにしておくだけで、眷属にやりたいことがあるときに委ねておこうか」


 商才があるわけでもないし、放置にしておいて別のことをやる。
 眷属の中には、商売をやりたがるようなヤツも現れたしな。


「あとは──罠系の魔法だよな。ぐふふっ、そういう魔法は有ったのも開発したのも含めて大量にあるからなー……魔法の再設置に関するユニットも見つけてあるしー」


 アルカに準備はしてもらってあるので、それを設置して使えばいい。
 修復ユニットがあれば、何度も使用可能だから……さて、どんな罠にしようかな?



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