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山田 武

偽善者と攻城戦前篇 その16



「──“感覚強化”」


 研ぎ澄まされた感覚で、魔物たちの動きを操作していく。
 今はリラの方へ意識が向かわず、かといって離れすぎない場所へ誘導を行う。

 同時に、念話を使ってそれぞれの状況を報告し合うことも忘れない。


《リラ、大丈夫か?》

《とりあえずは……引っ張ってくれているから平気……》

《早めに一つ目を破壊してほしい。けど、無茶はしないこと。何か援護してほしいことがあるなら、言っておいてくれ》

《特にない……任せて……》


 俺と違い、ありとあらゆるスキルへの適性があるリラ。
 出会った頃からだいぶ時間も経ち、眷属との接触でかなり強くなっていた。

 ただ、戦う前にも言ったが彼女は人のために尽くそうとする。
 なので、もう一押し──


《あー、リラ。できるならでいいんだが、風か雷の魔法を空にあげてくれないか?》

《──ッ! ……任せて・・・……》


 先ほどよりも、強く意志を籠めた返答。
 それは俺が偽善をするように、彼女が人のために尽くしたいという想いを果たそうと動いた証。

 身力の運用には、想いが関わっている。
 精密な操作も効率という意味では該当するが、想いは絞り出せるエネルギーを増やす。

 創作物でお馴染み、想いが力になるというのがこの世界では本当に存在する。
 ……割と真面目な理由が存在するが、俺では細かく説明できないので詳細は省く。

 ともかく、リラにはこれが最適だった。
 どういった事情で生まれた在り方であろうとも、想いがあって叶えたいという意志があるなら──この場を乗り越えられる。


「おー、来た来た!」


 突然鳴り響いた轟音。
 逃げながらリラの居る方を見れば、嵐がそこでは吹き散らかしていた。

 いつの間にか嵐気魔法まで習得していた彼女が、生みだしたそれは、逃げている俺からでは予測できない攻撃を魔物たちへ与えることができる道具のようなもの。


「まず“力場支配”で──“雷雲操作”!」


 そういう体質という論理だからか、なぜか身体に存在するこの雷を操れるスキル。
 ただし触媒が必要なので、今回はそれをリラに作ってもらった。

 まずは力場支配スキルを用意された嵐まで届かせ、そこから雷雲操作スキルで黒い雲を取り寄せる。

 そして、力場支配が内部の雷属性の魔力を動かし……落雷を落とす。
 当然、逃げている俺がそれをやったなどと思うこともなく──問答無用で痺れさせる。


《──終わった……》

《さすがだな、リラ。そっちの様子はどういう感じだ?》

《守ろうとしていたけど、短剣が刺さった時点で意識が切り替わったみたい……防衛から攻撃に転じている……》

《そうなるのか……一度合流しよう。落雷が降っている場所に来てくれ》


 まだ魔力が残っていたので、雷を落として目印代わりにした。
 魔物たちは落雷の衝撃で吹き飛び、空いたスペースにリラが到着する。


「次に行こう。質は落ちるから、さっきまでみたいなことはしなくてもいい。あとは、そのまま範囲技で押していくぞ」

「……できるの……?」

「位階は高いけど、それでもできる。というかやってほしい……全部倒さずとも、問題はないから引くのも手だがな」


 偶発的レイドが、これからのレイドの難易度に関わっているのだ。
 こちらでどれだけ殲滅しようと、難易度そのものに関わってくることはない。

 あくまでどれだけ倒せたのか、どんな相手だったのかがカウントされるだけ。
 定期的に発生する攻城戦中のレイドは、異なる用途で実施されているのだから。


「撤退……それも候補……?」

「もともとあのままだと不味かったから、ここまで来たんだ。量が多すぎるのも厄介ではあるが、質が良すぎるのよりはマシだった。ここの平均位階は8より上だったし……さすがに防衛を自動兵器だけじゃ無理なんだ」

「今はできる……了解、戦略的撤退……」

「そう言ってくれると助かる──“飛翔”」


 空を飛べるスキルを使って、すぐにこの場から離れる。
 リラも“飛行フライ”を唱えると、そのままここから離脱することを選ぶ。

 ……戦い続けることだけが、領域を守る手段ではないのだから。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 兵器の火力はやや高めだ。
 それは魔物たちの位階が高い前提で用意された物で、必要とする素材が希少だったのだから当然とも言える。

 魔力を撃ちだす砲台や、勝手に魔力を充填してくれる人形など。
 壁に沿って設置された仕掛けに加え、足元には支配下にある魔物たちが待機している。

 彼らのボスが死んだ場合、カランド高原の占領権は剥奪されるだろう。
 そうならないように、壁の近くに待機させて弱った敵の魔物でレベリングしている。


「そういえばリラ、大砲は使えるか?」

「砲術は習得済み……イケる……」

「なら頼もしい──“音波相殺ノイズキャンセル”」
《お任せください》

 聖武具『終焉の喇叭』を一吹きし、それを触媒として音魔法を発動させた。
 効果は名が表す通り、音同士を相殺させることによる放出の阻止だ。

 ガーがやってくれるので、細かい制御は気にしなくて良い。
 なので俺は──少し楽しむことにする。


「あとはこれ……ネタアイテム、人間大砲」

「……まさか……」

「うん、そのまさか。タイミングを合わせて撃ちだしてくれ。魔物がこっちに近づいて、だいぶ隙ができたら」

「……それを、望むのなら……」


 そんなこんなで、攻城戦は間もなく終わりとなるのだった。



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