AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と攻城戦前篇 その15



 そして、三十分が経過する。
 演算で確認しておいたので、そこは予想通り死徒たちはそこで消えていった。

 その時間内に現れていた魔物たちはすべて殲滅され、一時的に綺麗になる。
 しかし、時間経過とともにどこからともなく魔物は増えていく。

 俺(&聖武具に宿るガー)とリラは、そんな有様を壁の上から眺めている。


「三十分粘っても、結局出てきた個体に関してはどうしようもないらしいけど。これを使えば……対応できるらしい」

「……短剣……?」

「魔物が召喚される魔法陣に突き刺せば、一時的にそれが止まるらしい。というわけで、俺たちのミッションはこの短剣で魔法陣を一突きすることだ。ただし、問題が一つだけ」

「了解……問題……?」


 そんな便利なアイテムだからこそ、相応のデメリットが用意されていた。

 うん、『されていた』とか『らしい』という言葉から分かるように──クリスタル製のアイテムである。


「一回しか使えないんだ。どんな物に当たろうと、必ず壊れる。しかも、空間魔法とかに仕舞っておくのもできない。おまけに一本しか掴めない……面倒な仕組みだよな」

「難しい……対策は……?」

「鞘とかに入れておくのはオッケーだったみたいだから、膝にこのホルダーを付けておいてくれ。見てから作った応急品だから、あんまり便利な効果はないけど」

「……充分だと思う……」


 鑑定スキルで調べたのだろう、ほんの少しだけ入れた装備の効果を視たようだ。
 ちなみに、効果は抜刀時の貫通強化と状態保存の二つ……俺にしては少ない付与だな。


「それじゃあ、行くか──“震動クェイク”」


 飛び降りるのと同時に『終焉の喇叭』を介し、振動魔法を発動。
 ただし、普通に使うのではなくラッパを用いての行使だ。

 大きく吸い込んで吹き鳴らした振動が、地面を揺らすという仕様になっている。
 その振動は大地を揺らす震動となり、魔物たちは姿勢を保つことなどできない。

 その間に、俺とリラは魔物たちが跋扈するフィールドを駆け巡る。
 俺はラッパを、リラは槍を握りしめて突き進んでいく。


「──“振動探知ソナー”」


 一吹きして、ラッパから出た振動を反響させて魔物たちの情報を探る。
 視認するよりも多くの情報が分かるので、それだけで分かる──魔物の出現場所も。


「リラ、南東と南西と南に一ヶ所ずつだ。そこから魔物が出ている」

「どこから行く……?」

「順に回っていきたいし、南東か南西……どちらかだな。魔物の量から察するに、南東の方が質より量だ。先に南西から行って、強い魔物を抑えておくことにしよう」

「了解……」


 弱い魔物であれば、都市に仕掛けたちが自分たちで処理してくれる。
 問題なのは、尋常ではない生命力でそれを乗り越えてくる強き魔物たち。


「──“振動球シェイクボール”」

「──“穿撃ボーア”」


 軽くラッパに息と魔力を籠めると、震えが球になって魔物たちへ飛んでいく。
 触れた魔物は体を強制的に内部から揺らされ、隙ができ──リラに斬られる。

 今回の俺はあまり直接的な戦闘は控え、リラのサポートを行う予定だ。
 本人にも先に言っているし、最初の共闘もそんな感じだった。


「──“氷路トリムライン”、“滑氷スケート”」


 そんなリラが次に行うのは──魔法による銀場スケートリンクの形成。
 ただし、そんな大規模な魔法は魔力の消費も激しいので、一部分だけに限定している。

 自分の進路に氷の道を生みだす魔法、そして脚にスケート靴を生成する魔法。
 これら二つによって自分たちに有利な場を用意し、目的の場所へ突き進んでいく。


「けど、そう上手くはいかないよな……道を二つに!」

「──“氷路”」


 魔物たちも位階が7以上の上位種ばかり。
 最初は効いていた小賢しい技も、少しずつ学習して無効化していく。

 アルカが魔法で殲滅し続けた結果、でてきた奴らだが……やっぱり、尻拭いもさせた方がよかったかな?

 振動で酔わせたり、氷で滑らせているがあまり持たない。
 それぞれが同じ魔法陣の下へ、異なる道を進んで向かうことに。


「リラが居ないなら……これを使える。ガーも手伝ってくれ──“電気振動マイクロウェーブ”!」

《はい!》


 ガーの方で『終焉の喇叭』のスキルを補助的に使ってくれた結果、(嵩幅調整)が起動してやや縮んだラッパの口の部分から集束された音が飛び出る。

 触れた魔物はこれまでの魔法から、多少の揺れを感じるぐらいだと思ったのだろう。
 ニヤリと笑うかのように口角を歪め、その魔法を受け──体を爆散させた。

 魔物たちの動きが一瞬止まる。
 リラはさらに魔法を重ねたようで、サクサクと目的の場所まで進んでいく。


「──“鱗鎧生成”、“威嚇”」


 俺は俺で、魔物たちの注意を引き付ける。
 先に体に蛇の鱗のような物をギッシリと張り巡らせ、鎧状にしてから魔力を放出。

 そういうスキルだから、または俺の呪縛の一つ<畏怖嫌厭>が機能したからかほぼすべての魔物たちがこちらに近づいてくる。


「──“脱兎”」


 逃走に限り、敏捷力や脚力を向上させてくれる身体スキルだ。
 一つ目の魔法陣を止める間くらい、時間を稼げればいい。

 この手段は以降、通用しなくなるだろう。
 しかし、それはそれでやりようはある……とりあえず、その活躍は俯瞰スキルで把握しておくとしましょうか。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品