AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と攻城戦前篇 その09



《条件達成。領域の占有が完了しました》


 このフィールドのボスである『双黒狼』を倒し、配下である黒狼たちを倒し終えたときのことだ。

 やはりフィールドの支配者を降すことが条件だったようで、カランド高原を俺のギルドの領域として占有できた。

 クリスタルは最初の予想通り生成されずにいるものの、通知が入ってからは魔物たちが俺に敵意を向けなくなっている。


「……なるほどな。城を守っているわけじゃないから、そこは自分たちで守り抜けと。魔物の言語があるならともかく、普通ならずっと付きっきりで守らないとダメなのか?」


 敵意は向けていないが、信用されているわけでもない。
 魔物たちはまだ、簒奪者である俺に対して警戒心を向けている。


「ぱぱぱぱっぱぱーん──キビ団子~!」

『──ッ!』

「一人(?)一つずつだぞ、ほーれほーれ」


 濁声で取りだした団子を、魔物に配って買収していく……魔物使いが使うこともある、魔物が好む素材で作ってある一品だ。

 そのアイデアは功を奏したようで……食べた魔物たちからは、俺に対する警戒心が少しずつ削がれていく。


「これでいいか……あとは、魔物を都市の周りに誘導して警護に使わせてもらおうか。両方を占有しているからこそできる、素晴らしい人材派遣システムだな」


 クリスタルが無いため、強引な誘導はできない……そのため餌で少しずつ引っ張っていき、どうにか都市の周りに配置する。

 そこまでいけば、芸術作品など都市内部の仕掛けを接触させることができた。
 なので俺は、とある作品を仕上げてクリスタルで操作──都市の壁付近へ回す。


「レッツゴー、餌ゴーレム。材料は餌を練った物、体を全部食べられる。なんてヤツを、クリスタルの機能で自動配置にすれば……。よし、これで悩まされることも無いか」


 都市の中で生みだした品を、複製できるシステムを見つけていた。
 条件などがあるので、全部を複製できるわけでもないが……耐久度を戻せる。

 体を食べられて減る耐久度を戻せれば、再び復元されて改めて食べることが可能だ。
 魔物たちの食料が復元されるなら、いちいち用意する必要が無くなるよな。


「これで魔物たちはここいらを警護してくれる。あとは、誰か来てくれれば……あぁ……そろそろ来そうなんだよな」


 祈念者最強の魔法使い、自他ともに認める最優の【賢者】が。
 ……今さらながら、俺は化け物を生みだす手伝いをしていたのかもな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 ペルソナに話を聞いていたのか、彼女のようなミスも無く都市の中に侵入してきた。
 領主の部屋である美術館のような場所へ、その後彼女は訪れる。


「なあ、どうやって来たんだ?」

「飛んできたのよ。あの娘と違って少し手間取ったけど、それでも……こうして、邪魔者が来る前に間に合ったわ」

「ハァ……戦うか?」

「それもいいけど、今は止めておくわよ。どうせ縛りだからって、本気を出さないあんたに勝っても全然満足できないわよ」


 彼女──アルカはそう言って、そっぽを向く……その先には、俺が攻城戦用に魔改造した芸術都市が見えていることだろう。


「何か、やった方がいいのかしら?」

「んー。職業の系統で、たぶん作れるアイテムがあると思う。クリスタルに触って、一度リストアップしてくれないか?」

「分かったわ」


 手伝うと決めたからか、指示に素直に従いすぐクリスタル内に表示されたであろう作れる品を挙げてくれた。

 どうやら【賢者】の場合はあらゆる魔法職が創れるようになるアイテム、そしてオリジナルのアイテムが作れるようになるようだ。


「けど、必要な素材が……」

「問題ない。これぐらいなら、腐るぐらい集めてある」

「チッ、もっとレアな素材が必要になるぐらいのアイテムは無いかしら?」

「もしもーし、話が逸れてるぞー? あと、無職の俺にはそもそも専用のアイテムが無いから、その時点で勝っていると思うぞ」


 迷宮のシステムはスキルでも条件が解放されていたが、今回は職業限定。
 スキルだとカバーしきれないんだろう……数が多すぎるわけだし。

 アルカの方にしか表示されないアイテムなので、一度素材を譲渡してから、彼女にそのアイテムを設置してもらう。

 耐久度回復の使い魔だったり、一定時間ごとに魔法が起動する罠だったり……中には、設置するだけで味方の魔力が増大する装置みたいなモノまで。


「さすがは【賢者】……いや、アルカだな。俺も就きたかったよ」

「ふんっ。そんなことを言っても、あとで戦うことに変わりはないわよ」

「事実を言っただけだし、別に煽てているつもりはねぇよ。アルカにとっては普通のことだろうと、俺にとっては凄いことだった。今言いたかったのはそれだけだ」

「……そっ」


 プイッとそっぽを向かれてしまった。
 あの頃は【賢者】よりも【勇者】という言葉に惹かれていたから、そっちを選んで就いてたんだよなー。


「アルカ、そういえばいつまでここに滞在するんだ?」

「……何か文句でもあるの? そんなに長くは居ないわよ。あんた無しでもできるって証明するためにも、どこかの城を占領する予定なんだから」

「ここは止めてくれよ。ただまあ、応援はするぞ。俺も俺でやることがあるから、そのついでだけど」

「あんたなんかに応援されずとも、ちゃんと結果は残すわよ。だから、そんなことしている暇が有ったらもっと攻略し甲斐のある要塞でも造りなさいよ」


 ずいぶんと難題を押し付けてくるもんだ。
 けど、そういうことを言ってくれる相手っていうのは……とっても貴重だよな。



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