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山田 武

偽善者と凡人体験 その02



 弱者って、モブ以上なんだな……。
 その事実を噛み締め、俺は三角座りで蹲っていた。

 俺とニィナのスキル獲得速度は、本来ほぼ同等のものだったはず。
 違っている点はただ一つ、元の才能がどれだけあったかということ。

 チートスキルを持っている状態でも、俺は演技系のスキルを育てられなかった。
 なので、そこは縛り中も無理だと分かっていたのだが……他にもあったみたいだ。


「ねぇ、ニィナ。僕はこの縛りを通じて自分のスキルについて知れたよ。才能が無い人でもスキルを得られるようにする能力があるみたいだけど……あくまで底上げだったんだ。だから、無いととことん得られなくなる」

「兄さん……その、元気出して。ぼくに言ってくれたじゃないか、兄さんたちといっしょに居てくれていいって。だから……えっと、ぼくが兄さんを守るよ! きっと、兄さんならぼくより強くなるから、そのときまで!」

「に、にぃな……」


 遠回しに今は弱いと言われたが、言われたことは普通に嬉しいので気にしない。
 最初の頃から、ずいぶんと明るくなってくれたものだ……兄として誇らしいものだな。


「ところで、兄さんは今どんなスキルが仕えるの? ほら、さっきのアレで魔力感知はできるようになったよね?」

「あ、うん……ギリギリでね。これ以上ニィナに迷惑を掛けたくないって頑張ったら、どうにか得られていたよ。けど、それ以外はあまり凄くなくて……耐久走と逃走、あとは駆足ぐらい」

「え゛? え、えっと……」

「ごめんな、ニィナ。今の僕はたぶん、いつもより卑屈だと思う。けど覚えておいてくれないか、これこそが本当の僕自身だ」


 なお、縛り中も{感情}の効果を無効化することはできないので、思考も本来であれば平穏そのものだっただろう。

 だが、普段とは異なり思考系のスキルが完全に機能を停止しているため、モブのマイナス思考をすべてカバーしきることができず、一部が漏れ出しているようだ。

 昔と違い、今はスキルレベルも相当高く、思考スキルで平時の思考能力もほんの少しだけ底上げされている……そのすべてを用いてネガティブになった結果、そうなったのか。


「……すぐに戻るだろうけど、これが僕の弱さ。安心できる物がないと、こんな風になると思う。もしいつか、僕が眷属たちに迷惑を掛けてこんな風になったら……少しだけ、気にしてほしいな」

「! う、うん、分かった! さっきも言ったけど、兄さんのことはぼくが守るよ!」

「──よし、じゃあ行こうか! もう戻ったみたいだから、どんどんスキルを獲得していくぞ! あっ、精神耐性が手に入ったな……そんなに落ち込んでいたのかよ!?」

「……任せてね、兄さん」


 何やら使命感に燃えているようだが、そこまで気にすることは無いと思うんだよな。
 うん、ポジティブに切り替わったので、問題なんてない!

 そんな精神負荷の影響で新たなスキルも得られたし、ある意味順調ではないか?
 たしかにニィナの方がスキルの獲得率は高いが……まだ、試していないモノも多い。

 まだ見ぬスキルを求め、そろそろ外に行くとしようか!


  ◆   □   ◆   □   ◆

 始まりの草原


「……かひゅー、かひゅー」

「はぁ、はぁ……に、兄さん、大丈夫!?」

「なんで、こんなことに……」


 魔物は弱い相手を集中的に狙い、嬲り殺すような性質を持っている。
 レベル1ということではなく、真の意味で自分より劣る相手……ということだ。

 ノゾムとしてクラーレに会った時もそうなのだが、どうやら俺は初心者用の魔物にも舐められるレベルだったらしい。

 それが現状。
 ニィナが庇ってもなお、俺を甚振ろうとする魔物たちが集まっていた。

 まあ、レベリングにはなるんだけど……今の俺には、戦う術がほとんどない。


「こ、これ……どれだけ続ければいい?」

「探知だと、あと六十体ぐらいかな? だけど、他の人たちも倒してくれているからぼくたちは十体ぐらいでいいみたい」

「わ、分かった……頑張るよ」


 石ころを掴み、魔力を籠めて、投げる。
 投擲スキルは数十体を倒しても得られていないが、魔力操作の感覚を少しずつ掴み、体内魔力操作はできるようになってきた。

 一方のニィナは、武術も魔法もかなり習得しているのだが……うん、もう気にしない。
 できる限りを尽くし、とあることを考えながら石を投げ続ける。

 それは、初期に自分で考えていた効率のよいレベリングに関する記憶。
 意識しながら使おうとすることで、レベルが上がりやすくなるというものだ。

 そもそも獲得していないし、あの頃と違いとあるスキルが無いので、当時と同じように成長するとは思っていないけれど。


「投げる時のコツを、投擲術としての補正を思いだしながら……っと」

「兄さんの言った通りだね。スキルに使われるんじゃなくて、使うことを意識して使うことが大切なんだ。あっ、また取れたよ!」

「…………うん、凄いぞニィナ」

「うん!」


 嬉しそうなニィナの姿を見るのは、俺も喜べるが……やはり才能の差に落ち込むな。
 熟練度が一定を超え、すでに上位スキルも得ているようだし。

 彼女に負けないよう、俺も足掻いている。
 そろそろスキルが手に入るだろうし、魔物も枯渇して……アレが来るはずだ。

 ──ニィナの力を試すにも、ちょうどいい相手が出てくるな。



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