AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と賭けられた景品



 天の箱庭


「……闘技大会? ますたー、ずいぶんと懐かしいものを選んだね」

「あれ、メルが……じゃなくて、メルスが王者として君臨するのではないのですか?」

「前もそうだったけど、代わりがいるみたいなんだよ。ほら、祈念者って必ずログインしているわけじゃないからね。位の高い場所だと、そういうシステムがあるみたい」

「知りませんでした……それ、絶対に勝てない場所になってますね」


 絶対王者は不要らしいので、いずれは調整されて敗北するだろう。
 始まりの町の祈念者たちも、俺の劣化版を相手に頑張っているかもな。

 さて、そんな話題にどうしてなったかと言えば……クラーレが始まりの町とは異なる場所で開かれる、闘技大会に参加したいと言ってきたからだ。

 闘技場のシステム云々に関しては、俺自身が一つの迷宮という形で闘技場を管理しているからな……DPの消費が半端ないので、設定はしていないけれど。


「で、ますたはーどうして参加したいの?」

「優勝者には貴重なスキル結晶を一つだけ得られる権利が与えられるそうなんです。その中に、わたしの欲しいスキルがありました」

「ふーん。そっか、ますたーもだいぶ特訓に耐えられるようになったし、外の人たちとの違いを知る機会にもなるのかな? 私は応援するよ、そっちの方が面白そうだし。あっ、でもシガンたちは?」

「参加はするそうですが、最後の景品はわたしに譲ってくれるそうです。もしぶつかったときは、正々堂々と勝負しますよ」


 ふんすっと両拳を胸の前で握る仕草をすると、そう宣言するクラーレ。
 けどそうなると、他のヤツはご褒美が無いことになるな……。


「じゃあじゃあ、ますたーたちの中でもし誰かが戦うことになったら、私から勝った方にご褒美をあげるよ」

「メルから……ですか? それは……ッ! ど、どのような甘味なんでしょうか?」

「あははっ、私の存在価値って甘い物だけなのかな。そうじゃなくて、もっと実用的な物でも渡そうかと思っていたんだけど……そうだよね、私って最近は甘い物を出すだけの猫型ロボットになっているもんね」

「ッ……! そ、そんなことありません! た、たとえば……たとえば…………たと、えば………………」


 うん、心当たりがあるようだ。
 正確には心当たりがないようだが、俺自身にもそんな記憶しか残っていないのだから、クラーレだってそうなるだろう。


「まあ、そんなお菓子製造機になっている私だけど、生産班のみんなだとまだ作れないアイテムを用意しようかなって。たとえば……ますたーだったら【固有】スキルの代償を請け負ってくれるアイテム、とかね?」

「──ッ!? い、いいんですか?」

「優勝したら、のご褒美かな? ますたーが私にそれを必要だと証明してくれるなら……それに応えるよ」


 彼女の固有スキルは有益すぎるがゆえに、その代償も尋常ではない。
 それを肩代わりするためには、かなりの質の高さが求められるだろう。

 もちろん、それ自体は簡単だ。
 しかしながら、なんでもやりすぎにはロクなことが起きないことを俺も眷属たちも身を以って学んでいる。

 強過ぎる力は身を滅ぼす。
 これまではそれを理由に、彼女に固有スキルの使用を禁じていた。

 それもそろそろ終わりにしよう。
 もし、クラーレがとある仕掛けを施したその闘技大会を優勝した暁には……もう、俺が俺の意思で封じる必要は無くなるかもな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「──というわけで、シガンたちにも協力してもらいたいんだ。ますたーが、もっと上を目指すなら……私も協力したいし」


 クラーレがログアウトしている間に、戦闘班である『月の乙女』初期グループを招集して相談してみた。

 ついでに自分たちにもご褒美があると聞くと、みんな目を輝かせていたよ。
 ただ一人、すでに似たようなアイテムを受け取っていたリーダーを除いて。


「クラーレのことは構わないわ。むしろ、制御できるならぜひとも使ってもらいたい。危険性はあるけれど、あれはクラーレ自身が生みだしたスキルよ。なら、誰かを助けるために使ってもらいたい」

「……そうだね。私なんて、自分で獲得したスキルが一つもないんだよ」

「ところでメル、私の場合はどうなるのかしら? すでにこれ、貰っているけど」

「あっ、着けていてくれてたんだ!」


 彼女の両耳に付けられた鈴、それらは固有スキル【未来先撃】を補助するために作られた『時飛ばし』と『時戻し』の名を与えられた魔道具だ。

 これは、前に関係者だけを集めて行った闘技大会の参加賞としてあげた物。
 というか、これぐらいの優遇をしてやらないと勝てない相手ばかりだったし。


「シガンの場合はそうだね……聖剣とかそういうのでどうかな?」

「……えっ、あるの?」

「全部模造だけどね。けど、本物と同等かそれ以上に使える物だし。さすがに神剣とかは無理だけど、シガンの【未来斬撃】のさらなる補助とかができるんじゃないかな?」

「……じゃあ、それでお願いするわ。当然、私が勝ったらだけど」


 というわけで、『月の乙女』たちのやる気は満々だ。
 ……あとはゲストを招いて、当日を迎えるだけだな。



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