AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と橙色の交流記 その09



 暫定『食人空花』を相手に戦うことになった俺、そして背中に背負われたアン。
 アンが戦っても問題ないが、縛りに慣れるチュートリアル戦闘気分で俺独りで闘う。

 説明を聞き終えた時点で、“遊歩ノ靴フリーウォーク”を一度解除する。
 そして、再び空を渡り歩くために必要な魔術とスキルを構築していく。


「部分的だから──“兎ノ脚ラビッドフッド”,“空歩”」


 足限定の強化魔術を行使し、スキルの使用が可能となったところで重ね掛けを行う。

 それにより、宙を掴むことなく墜ちるはずだった俺の体は、鮮やかに何もない場所を蹴りあげて再び空へ上がっていく。


「この辺りで待機……って、消費が半端ないな。アン、これってどういう計算?」

「発動に50、一秒ごとに10消費します」

「……制限した身力が1000だから、他の魔術も考えるとそう多くは使えないな」


 もちろん、自然回復する分があるので考えて使っていけば墜落することはない。
 ちなみに“◯ノ理”系の魔術はほぼ魔力そのものなため、燃費はあまり良くないぞ。


「じゃあ、サクッと終わらせるか。まず──“大猩々ノ腕ゴリラアーム”と拳術“爆砕拳バーストナックル”」


 空歩で近づき、腕に強化魔術を施す。
 それから瞬間的に拳術スキルを起動させ、そこから武技を叩き込む。


「なお、メルス様は初期武技しか持っておらせませんが、{夢現流武具術}に内包したスキルの武技であれば再現可能となっています。この場合、拳術スキルから再現したということになりますね」

「なあそれ、誰への説明だ?」

「もちろん、いずれメルス様がまた御創りになられるハーレムメンバーへですけど」

「……ツッコミづらい!」


 武技を叩き込んだことで、『食人空花』の内部で気が爆発する。
 防御無視……いや、突破の効果があるためそのまま核を砕くことに成功した。

 花粉に還元され、宙を舞う魔粉。
 いちおう何もしないのも悪いと思ったし、風魔術“風が吹きGyrat”を発動させ、地面に送り返しておいた。


「お見事です、メルス様」

「残り魔力は……半分くらいか? 移動するだけなら、大丈夫そうだな」

「できればこのタイミング、わたしに助力を願うことを求めていたのですが。やはり、そうそう頼んではくれそうにありませんね」

「そりゃあ、まあ……逆にさ、この程度の相手に負ける奴なら奴で、問題だろう?」


 ここが地球なら暴力はいけないよ、とか守るために力を振るうとかそういう感じでもいいかもしれない。

 だがここは力こそが物を言う場所、そんな甘ったるい理論をかざす奴からどんどん自分の信念を圧し折られる。

 ハーレムを囲っている俺もその対象だ。
 守る者が多いからこそ、相応の力が必要となるはず──


「──他の眷属はともかく、わたしにはそういった考えはございませんよ。思いだしてください、わたしは誰から生まれましたか?」

「俺、と……大神のアレ■■■■?」

「アレ呼ばわりはともかく、どちらもメルス様の言うような力を求めてはおりませんよ」

「ん? ……まあ、そうなのかな?」


 目星は付けているが、今は気にしない。
 要するにアンは武具っ娘同様、好感度が最初からMAXなので何をしても『さすご主』状態ということだ。


「いや、それでいいの?」

「いつでもウェルカムですよ」

「微妙に噛み合わないな……」

「メルス様は好感度稼ぎに悩んでいる? そういうことですね。ですので、カンスト状態で固定のわたしにはあまり構わなくとも……なくとも……」


 うん、言いたくないなら言わなくてもいいのに……。
 アンの頭に手を載せ、撫でておく。


「えっと、その……ありがとうな。けど、一度頼ると戻ってこれないからさ。お前ら、それぐらい甘やかしそうだし」

「……それがわたしたちの存在意義です。それとメルス様、重要なお知らせがあります」

「重要? 何か大切なことか?」

「はい──どうやら、カンストしても好感度は上昇するようです」


 物凄く矛盾している発言だが、なんとなく意味は分かったので撫でを続ける。
 それ以上をしたら、いったい俺たちはどうなるんだか。

 後ろを見るのが気恥ずかしく、そのまま華都を探しを再開する。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「──アレ、かな?」

「おそらく、間違いないかと」


 一度見ているので、すぐに分かった。
 望遠眼が捉えたそこでは、巨大な花が宙に浮かんでいる。

 若干違いがあるが、それは花の種類のみ。
 その上では街が構成され、さらに目を凝らせば人族の姿が映った。


「あれは……森人族エルフか?」

「みたいですね。ですが、ユラル様が仰っていた通りであれば、彼らもまた魔法を扱える者はほんの僅かということに」

「有名どころで、使える奴は僅かって話だからな。あくまであの華都が集めた情報だし、もしかしたら秘匿している可能性もあるか。隠してどうなるか、そこは微妙だけど」


 しかし、種族ごとに華都を所持しているのであろうか?
 物語的に、それぞれの種族ごとにできることとか、そういうのもあるはずなんだがな。


「では、メルス様。どのように?」

「そりゃあ、前回と違う方法で入らないとダメだろう──“不可侵ノ密偵ハイエンド・シーク”」

「わたしも──“回路改変・観測特化”」


 共に隠蔽能力を高め、侵入しやすいようにしておく。
 あとはもう考えるのが面倒臭いので──転移眼で、そのまま中へ潜り込んだ。



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