AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と帝国騒動 その14



「~~~~~~♪」


 歌が地下空間に木霊する。
 それは人魚の血を引いた少女の奏でる、憩いと安らぎをもたらす鎮魂の歌。

 歌詞は無いのか、聞こえてくるのは母音の響きばかり。
 だがそれだけなのに、彼女の歌はこの場に居る全員に染み渡っていく。

 働かされていた研究者……そして、その中に紛れていた内通者も含め、ゆっくりと瞼を閉じて全員が眠ってしまう。


「~~~。ふぅ……」

「お疲れ様、好い歌だったぞ」

「! ……聴いてた?」

「そりゃあ、耳栓を耳に付けるとは言ったけど、それが音漏れしないなんて言ってなかっただろう?」


 むしろ、耳栓をしているという偽装行為をアピールするためのネタグッズだ。
 だけど、こういうときのためにあったんだろうな……相手も油断するし。


「むぅ……」

「悪かったって。けどまあ、効かない相手も居るって分かってよかっただろう?」

「けど、どうして……魔道具も効かない」

「そうなのか? まあ、体質だな」


 あらゆる状態に対応する[不明]のスキルを隠すために、いちおう耐状態異常系の魔道具も大量に揃えていた。

 だがメィルド曰く、人魚の歌は特別で魔道具も上物じゃないと効かないんだとか。
 耳に入らなければセーフというのは、その強すぎる歌に釣り合うデメリットだな。


「それで疑問に思ったんだが、さっきの歌を録音して流したらどうなる? やっぱり、同じように寝るのか?」

「魔力も送れる物なら、劣化するけど。そうじゃないなら無理」

「なら、意図的に魔力を断てば聞いてもらえるってことか……メィルド、俺に雇われてアイドルやらないか?」

「……アイドル?」


 研究員のスパイを縛り上げ、ウェナの母親が居るという部屋に向かうまでアイドルという概念について説明してみる。

 ……当然だが、『歌手アイドル』であり『邪神アイドル』ではない。


「──とまあ、こんな感じだ」

「詠って躍る……魅力的」

「知人の話だと、極級職もちゃんとあるらしいぞ。戦闘にも使えるだろうし、目指してみたらどうだ?」

「極級って、普通は無理」


 祈念者の中にはポツポツと超級にならば就く者が出始めたらしいが、まだまだ超高難易度の条件は達成できていないらしい。

 だがまあ、うちの国民がなぜか就けるぐらいだから大丈夫だろう。
 うん、大半がそれ云々で俺に祈りを捧げていたけど……うん、きっと大丈夫さ。


「この話はとりあえず、ここで終わりか……この奥なんだよな?」

「濃厚な血の匂いがする。吸血鬼ヴァンパイアのもの」

「解除、そっちでできるか?」

「…………無理」


 ペタペタと扉に触れたようだが、それだけではどうしようもなかったようだ。
 なので俺が代わりに解除すると告げ、扉の前に立つと──


「──“銭投げマネースロー”」

「…………ッ!?」

「……マジか、まだ壊れないか」


 籠められる最高額を注いだのだが、失敗したようだ。
 どうやら開錠(物理)をやるには、ここの壁は頑丈らしい。


「それが必要とされるぐらい、頑丈ってわけだな……仕方ない、普通に開けるか」

「……あるの?」

「ん? そりゃあ、さっき研究員を縛るついでに開錠用の魔道具をパクッてたし。あくまで自分の力が通じるか、試してみたかっただけ……って、どうした?」

「それだけ……それだけに、使ったの?」


 どうやら怒っているようだ。
 少々顔を俯かせ、プルプルと拳が握られている様子を見ればだいたい他の奴も同じような判断をするだろう。


「あ、あの……メィルド、さん?」

「…………あとでたんまり貰う」

「そこはもちろん。むしろ、今の俺には金しかないからな」


 キューブ状の魔道具なのだが、個人の魔力波長を生体情報として登録しなければ使えないというセキュリティがバッチリな代物。

 だが、今の俺には魔力を読み取るためのスキルが備わっているので……軽く魔力を弄れば認証もクリアできる。


「よし、できた。……今さらだが、こっちの方がよかったかな?」

「…………」

「あっ、はい。すみません」


 なんて会話をしている間に、認証が済んで扉が開いていく……上に。
 シャッターみたいな感じだが、予想できるヤツは居るのだろうか?


「暗いな……電気、点けるか?」

「私は問題ない。必要?」

「必要はないんだが、暗いままだと空気もそういう風になりそうな気がしてな。問題があるなら止めておくけど」

「……雇用主に任せる」


 暗視用の魔道具は持っているし、吸血鬼の血も引いている彼女にそういうことを気にする必要はない。

 当然、中に居るであろうウェナの母親も吸血鬼だ……地下というマッドな研究が行われていたとしても、類いまれなる身体能力があれば俺たちの居場所を見つけだすだろう。


「というか、気づいているだろうしな。五感がどうなっているかは分からないが、とりあえず伝えないとな──点けるぞ」


 壁に取り付けられたスイッチを押せば、部屋中の電気が起動する。
 照明だけではない、機械や用途がすぐには分からない魔道具がいっぱいだ。

 そして、奥には女性が居て……。


「あれ?」
「ん?」


 俺たちは共に、その姿を見て首を傾げるのだった。
 なぜなら、そこに居るのは──



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