AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と帝国騒動 その11
『居たぞー! 周り込めー!』
「クソッ、うかつだった!」
さながら逃避行のように、追いかけてくる祈念者たちから逃げ続ける犯罪者こと俺。
ちなみに罪状は国家転覆及び皇帝暗殺未遂という、いかにもな大逆である。
俺が普通の祈念者だったら、速攻でユウに断罪されて即死に戻りするところだな。
そしてその先はペナルティエリアである監獄で、しばらくは閉じ込められていた。
だがユウはいちおう弟子だし、もっともヤバいPKもいちおう配下というポジだ。
こんな事件に主人公(候補)が来るわけもないので、どうにか逃げられている。
「居たぞ! 観念しやが──」
「分かってて呼んだんだよ……それ」
「ぐほぉっ! こ、股間が……」
「そう言えてるだけマシだろう。身体強化、してて良かったな」
予め感知していた生体反応が近づいてきていたので、通るルートに帝城でも使っていた『発破六十死ちゃん』を設置した。
そして、奴の股間が爆破圏内に侵入したところで……それっと押したわけだ。
「お、おい、大丈夫か?」
「む、息子が……息子がぁああ……」
「て、テメェ! 血も涙もねぇ悪魔かよ! よくもまあ、人様にこんなひでぇことができるな! さっさと捕まれよ!」
「おいおい、賞金稼ぎ。お前は悪いことをしたらすぐ『ごめんなさい』しろっていう先生かよ。なら先に、『事情も訊かないで追い掛け回してごめんなさい』って言えよな」
ただただ正論を言ったつもりなのだが、ナニカが切れるような音が聞こえた気がする。
……本当、煽っている気はさらさらないんだけどな。
「そんな顔すんなって。じゃあ、俺を殺したら犯罪者だからあとで自首しろよ? それ、立派な殺人だからな」
「死に戻りするんだから関係ないだろ!」
「……バカか、お前。いや、バカだろう。俺が死んだ後にどうなるのかと、お前が俺を殺すことに因果関係はねぇよ。殺した時点でお前は殺人者、その覚悟を背負えよ」
「……っ!?」
責任を背負わないで殺し、金が貰えるからこそ彼は『ローリスク・ハイリターン』なこの稼業をやっているのだろう。
祈念者たちは死なないんだ、死んだ後のデメリットさえどうにかできれば彼らはどれだけ死のうと目的さえ果たせばいいという殺戮マシーンにだってなれる。
「というわけで……時間稼ぎはできた。また会おうぜ、同じ穴の……蛙君」
「貉だよ!」
そういえばそうだったっけ?
そんなことを思いながら、さらに黒没街の中を駆け抜けるのだった。
◆ □ ◆ □ ◆
「……また空振りか」
情報屋を虱潰しに訪れては、ウェナの母親に関する情報を持ってないか聞いている。
だが、どいつもこいつも持ってないうえ、帝国に密告しようとするのだ。
札束ビンタならぬ硬貨ショットを何度も繰り返しているが、やはり優れた情報屋には遭遇できない……まあ、探している場所が場所なうえ、非合法な場所しか行ってないから。
「『一家』の情報網を使うのは悪い気がするし、何かいい方法は……ん?」
情報屋の隠れ家を出た俺の前で、知っている魔力反応が感知できた。
この姿のまま会っていいかと悩んだが……縛り中だし、そのままでいることに。
そうこうしていると、その魔力反応の持ち主がこの場へ現れる。
外套に身を包んだ、顔の見えない誰か──その瞳はウェナのように紅に輝いていた。
「吸血鬼の、匂い?」
「……ああ、探し人でな。たぶんそっちで嗅いだ匂いの、母親を探している」
「なんで?」
「生き別れたらしく、今どうなっているかも分からない。だけど頼まれたからな、探せるだけ探しているわけだ」
そう告げると、声の主は外套を脱ぐ。
見たことのある蒼銀色の髪、そしてほんの少しだけ鋭い犬歯。
そして、変色した蒼色の瞳がやはり知り合いだったと意識させた。
彼女はメィルド、吸血鬼狩りを仕事とする半吸血鬼のお嬢さんである。
「あなたは……メル?」
「……なんでそう思ったんだ? 女と男、性別が違うだろ」
「……それは答えたようなもの。半分は吸血鬼だから分かる──血が無いのはおかしい」
「なるほど、それが理由だったか」
俺が常時発動している(血液不要)スキル。
スキル名のまんま、体を血液を必要としないものへ作り変えるというものだ。
霊体とか骨とかのアンデッド系の種族が持つ性質スキルなんだが……そうか、普通の奴が使うとそういう弊害が出るのか。
それを教えてくれるはずのフィレルが、ただただ血を欲しがってくれる記憶しか無かったから気にしていなかったよ。
「……クラーレは?」
「今は別の場所で冒険中だろう。あと、事情は知っているから気にしなくて良いぞ」
「そう……なら、行こう」
「行こうって、どこに?」
いやまあ、話の流れ的になんとなく察しはするけども。
今の俺って犯罪者だし、共犯者ってのは少し罪悪感がな。
しかし、彼女は俺の罪悪感など気にも留めずに語り続ける。
瞳を、これまでとは異なる色に輝かせて。
「私の魔眼は影を視る。吸血鬼が隠れていてもすぐ分かる。そうじゃなくても、同族は分かるから見つけられる」
それは非常に便利なのだろう。
うん、吸血鬼だけでなく、影魔法とかを使える相手にも有効な魔眼だな。
しかしながら、礼はどうやって尽くそう。
少なくとも、今の俺にできるのは──
「……実は、今は金しか持ってなくてさ。あとで好きなだけ奢るってので……どうだ?」
「なんでも?」
「ああ、なんでも」
というわけで、お金で雇った吸血鬼狩りといっしょになりました。
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