AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と帝国騒動 その07



「貴様、何者だ。まずは名を名乗れ」

「はっ、知らねぇのか? 人に名を尋ねる時は、まず自分から名乗れって言葉を。まあ、だからと言って俺がお前程度の雑魚に教えてやる義理なんてないけどな」

「……そうか、では仕方あるまい」


 これまでの兵士たちとは違い、目の前の騎士は冷静沈着に剣を構える。
 なんかこう、絶対に油断ならない感が凄まじい男にさすがの俺も警戒してしまう。


「互いに名は伏せておこう、だが冥途には我が二つ名を持っていけ。『四刃の将』が一人『聖刃』、推して参る」

「……しゃーねーな。えーっと、特に所属は無いが『放蕩王』と呼ばれしただの無職、それがお前を倒す奴の肩書きだ」


 この相手だけは金の延べ棒だけでは倒せないと分かっているので……だからこそ、あえて金の延べ棒を指の間で八本挟む。

 そして、それらを複数ではなく一つに束ねあげ──騎士にぶん投げる。


「“銭投げマネースロー”、ついでに“早投クイックスロー”だ!」


 額が額なので威力が高いだけではない。
 相応の速度で放たれる予定だった一撃に、“早投”を加えてさらに速度を上げる。

 メジャーリーガーの球速なんてはるかに超えた速度で迫る光の球を──騎士は剣を一度振るい、武技の名を告げるだけで斬り裂く。


「──“鋭刃シャープエッジ”」

「……マジかよ」

「この程度か? ならば、兵士たちが脆弱になっていただけのこと。いかに金銭を振るおうと私に届くことはない」

「斬撃を強化しただけで、武技の補正も無くぶった切っただと!?」


 直接的な効果がある武技ではなく、それは刃に気を纏わせて一時的に斬撃という結果に補正を掛けるというもの。

 普段は斬れない岩なんかも、これを使えば斬れるようになる……斬れるようになるというだけで、結局はその使い手が相応の技量を持たねば斬ることはできない。

 なんて凄まじい腕の持ち主なんだろう……ちなみにティル師匠の場合、武技を使わないでボロボロの耐久値が0になりかけの剣だろうと同じことができます。


「どうした、それで手詰まりか?」

「……ああ、正直驚いたぜ。四千万Y分の攻撃をこうもあっさり捌かれるとはな」

「その程度の攻撃、かつて竜より受けた息吹ブレスに比べればそよ風程度でしかない」


 だがまあ、実際のところもう詰んでいる。
 今まで“銭投げ”しか使っていなかったのは、金を消費して使う攻撃が“銭投げ”しか存在しなかったからだ。

 職業的に(道楽者)の派生に(散財者)という職業があって、そこから進化していく職業はどれも金を使った能力を獲得できるらしいんだが……今は使えない。


「──となると、もうあと一つしか残っていないわけだ」

「……無職なのではないのか?」

「誤解するなよ、職業スキルを使うわけじゃないんだ──もっと悪辣で、放蕩の限りを尽くしてお前をぶっ潰すだけだ」


 目に見える形でそれを証明するため、わざと“空間収納ボックス”から財を取りだす。
 大量の硬貨でできた山々が広い空間にそびえると、それらがすべて光となっていく。


「知っているか? かつてとある【魔王】には、異常なほどの収集癖があった。それはなぜか? 集めれば集めるほど、いずれ訪れるであろう戦いにおいて有利になるからだ」

「……何を言って。それに【魔王】だと?」

「背に腹は代えられないんだよな。どれだけ欲深く物を欲せようと、もっとも大切な宝である命だけは捨てられない。他を切り捨て、たった一つの宝を守る──文字通り、あらゆる物を投げ打ってでもな」

「…………待て、聞いた覚えがあるぞ。その話、まさか──ッ!?」


 答えを知っていたようだ。
 ずっと前に図書館で憶えた昔のお話なのだが、どうやら俺の先輩の一人だったらしい。

 俺は職業に就いていないものの、同じスキルを持ち合わせた者。
 先輩はどういう心境で、この能力を使おうとしたんだろうか?

 ──少なくとも、俺みたいに惜しまないということはないだろうな。


「始めるか──“放蕩散財アンリミテッド・ウェイスト”」


 瞬間、辺りに並んでいたすべての財宝が光の粒になっていく。
 その現象は“銭投げ”と酷似している……が、この先がまったく異なる。

 それらはすべて俺の掌ではなく、俺そのものに吸い込まれていく。
 そして、噴き上がるように立ち込める金色のオーラ……準備は整った。


「俺の縛りは金を使って戦うこと。別に、投擲しか使っちゃいけないわけじゃない」

「縛りだと? ──くっ、“刃防御ブレードガード”!」

「無駄無駄。この一撃に賭けた額分ぐらい、味わってもらわねぇとな!」

「な、なんという威力だ……」


 喧嘩のようにただ殴るだけ。
 しかし、威力は絶大──たった一撃を受けただけで、騎士の立ち位置ははるか後方へと移動してしまう。


「で、結果はこれ。あーあ、ずいぶんと痛い失費をしたものだ。これじゃあ皇帝を殺さないと元が取れないんじゃないか?」

「貴様……バカにしているのか!」


 煽ったらようやく怒ってくれた騎士。
 人は想いを剥き出しにした方が強くなれる場合もあるらしいし、俺も騎士を強くするという善行をやっているわけだ。

 聖が付くぐらいの行いをやっていたであろう騎士に対する、俺からのささやかな贈り物だったんだが……嫌だったのかな?


「お前がどういう理由で皇帝に忠義を尽くしているかは知らないが、俺は確実に皇帝のせいで苦しんだ奴を知っている。だからこうして、会いに来た。金に糸目なんてつけねぇ、やるだけやって──終わらせる」


 それよりも偽善をする方が重要だ。
 彼女が本当にそれを望むかなんて関係ないのだ、偽善を行うという俺の在り方を歪めないためにも──騎士はここで負けるのだ。



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