AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と還魂 中篇



「えっと……アイちゃんも私に試練をさせたい、んだよね?」

「そうですね。先ほども申した通り、それこそが私たちの使命。ある意味、生き甲斐と言い換えても構いません。できるのであれば、好ましく思っている方にこそ試練を超えていただきたいのです」

「ありがとう、アイちゃん。けど、私も簡単に了承はできないよ。『宙艦』の中で、一度は魔力が枯渇しかかったからね」

「試練はそう簡単なものではありませんし、仕方有りませんね。今は話せるようになったことを、メルちゃんが望むように話すことにしましょう」


 好意的な『超越種』である、アイドロプラズムことアイちゃん。
 どうやら目的を察してくれたようで、いろいろと話してくれるようだ。


「まずはそうですね……私が祈念者のことをどう思っているか、それをお話ししましょうか。──すっごく、大嫌いですわね」

「あっ、やっぱり? アイちゃんは言ってたもんね、役割は浄化と正常化だって。だけど祈念者……プレイヤーって、そういうことに無頓着な人が多いし」

「はい、メルちゃんの言う通りです。人為的にそうなることを促す者、強引に払う者、使役する者……それらはすべて、霊たちの望まぬ扱いでした。その負の力はこの地に集い、その想いは私へ蓄積していきます」


 負の怨念に囚われすぎたアンデッドは、棒するとかつてのアイは言っていた。
 そうならないよう、防ぐ役割を持つ彼女。

 どうやらかなり強引に、その暴走とやらを食い止めていたようだな。


「どうにかできないの? 私にできることがあるなら……試練以外なら、できるだけ協力するから」

「あら、試練は受けてくれないのですね。ですが、それはとても助かります。先ほどの結界を一枚、この場所にも構築してもらえないでしょうか?」

「大丈夫だよ──“神域プリーシンクト常駐レジデント”!」


 アイに促されるがままに、“神域”を発動して結界を構築する。
 これは『神』の名から察せれると思うが、神聖魔法の一種だ。

 そんな神聖な力を扱う魔法を、常駐魔法によって維持できるようにしておく。
 必要分は結界内の瘴気を変換して使うようにしておけば、永続的に使えるだろう。


「こんな感じでどうかな?」

「助かります……私は見ての通り、アンデッドですので。回復魔法は用いられても、神聖な力だけはどうしても使えないのですよ」

「ふーん、ちょっと不便なんだね。なら、今度面白いものを持ってきてあげるよ」

「面白いもの……ですか? ふふっ、なんだかメルちゃんがそう言いますと、とても楽しい気分になってきますね」


 本当にそう思ってくれているのだろうか?
 俺という人間のダメっぷりは、こういうときにも露見する。

 人を疑ってしまう……そんな感情を後悔して忘れ、信じてくれているであろうアイに感謝の笑みを浮かべた。


「任せてよ! ゼーッタイに、アイちゃんが喜ぶような凄い物を持ってくるんだから!」

「本当に……ありがとうございます」

「いいんだよ。だって、私はやりたいことをやっているんだけなんだから……そういえばアイちゃん、アイちゃんの試練って具体的にどういうことをするの?」

「私の試練……ですか? もしかして、やる気になってくれたのですか?」


 ヴェールで隠しているはずの瞳が、キラキラと輝いているように感じた。

 しかし、ここはきっぱりと断る。
 準備をしないで対処するには、縛りを外さなければならないからな。


「ううん、そうじゃなくてね。アイちゃんのことをもっと知りたいなーって思って」

「……ちょっと残念でしたが、これはこれでとても嬉しいですね。分かりました、現状で話せることを話してみましょう」

「やったー! ありがとう、アイちゃん! 本当に好きー!」

「ふふっ、私もですよ」


 そして、話題は試練へと移っていく。


「私の試練は霊と向き合うこと。試練を経ることで、自然と挑戦者の考え方を変わっていくことを望んでいます」

「えっと……『宙艦』の場合、特殊条件っていうのがあったんだけど……それはどういうものなのかな?」

「試練はとても厳しいですので、おまけで合格させる場合があります。私の場合で例えるなら、とりあえず話を聞いていただけましたらそれで合格にします。特殊条件は、私のやりたいことを理解してもらえた場合です」

「さっきの話から考えると……ちゃんとした手順を踏んで、浄化と正常化ができるようになることかな?」


 これ以上は言えないようで、ただニコッと笑みを浮かべるだけで何も言わなくなったアイ……その反応が何よりの証明だろうが、いちおう、そうでない可能性も意識しておく。


「……いつか、アイちゃんの試練を受ける。それだけは、約束しておく」

「はい、ぜひメルちゃんに受けてもらいたいですから!」

「だけど、アイちゃんにお願いしたいんだ。私だけじゃない……私がいっしょに居るみんなの分も、試練を受けたいって。アイちゃんの試練は、そういうことなんでしょ?」

「──本気で、そう言っているのですか?」


 これまでの親密な空気から一転、冷え冷えとした張り詰めた空気が辺りを支配する。
 当然、それを統べるのはアイちゃん──いや、『還魂』のアイドロプラズムだ。


「試練は背負ったものが多ければ多いほど、より難易度を増します。それでもなお、挑もうと決意を表されるので?」

「家族の罪は、私が継ぐよ。これから先、それ以上にみんなは私の罪を手伝ってくれるから。アイちゃん、準備してくれるかな?」

「……分かりました。ただし、一月は掛かることでしょう。その間に、念入りな準備だけは忘れないように」

「うん……ありがとう、アイちゃん」


 わざわざは忠告までしてくれたのだ、きっと相応の試練が与えられることだろう。
 だがまあ、恐れることはない……試練を行使するのは、アイちゃんなのだから。

 アイドロプラズムという『超越種』ではなく、現在の……意志を持った、な。



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