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山田 武

偽善者とかぐや姫 その18



 月より現れし使徒たち、彼らは月人族と呼ばれる者たちです。
 その名が示す通り、月の世界にて暮らす者たちのことですが……彼らもまた、元は地上にて暮らしていました。

 ですが神代、彼らはとある理由によって異なる世界を目指し──月の世界に着きます。

 そして後世に語り継いでいきました、地表とは汚れた世界であり、月という穢れなき世界に住む自分たちこそがもっとも至高の存在であると。



 少女を迎えにきた彼らを、帝様たちは追い返そうと戦いを挑みます。
 最高級の装備を固めた精鋭たち、普通の賊であればすぐに撤退したでしょう。

 しかし彼らは、その身に付けた大量の宝具によって逆に精鋭たちを倒していきます。
 そしてそれを自在に引き出す強大な力が、彼らには備わっているのです。

 少女はその光景を見ていました。
 自分がここに居る、それだけの理由で地上の民たちが苦しんでいるその姿を。

 故に迎えの手を掴み、地上を去っていきます──この先、過去の記憶をすべて失うことになろうとも。

  ◆   □   ◆   □   ◆


 満月が夜空を照らしている。
 なんだか普段よりも大きく見えるのは、俺の勘違いなのかもしれない。


「しかし、ノゾムの作ったこの団子……なんとも美味であるか」
『大丈夫なんでしょうか……こんなことをしていて』

「大丈夫大丈夫。それよりも、戦う前に英気でも付けておかないと」


 お月見といえば月見団子、というわけで空間魔法で用意した素材を使ってサクッと準備してみた。

 ちゃんとバフ効果なども見込めるので……暇潰しだったとは思われないだろう。


「それよりも、いつになったら来るんだろうか? このまま次の日に……というのは?」

「ありえぬじゃろう。月の民とて、己たちがもっとも有利なこの満月の日を逃すことはあるまい……」

「そうですか……まあ、しばらくは月見を楽しむことにしようか」

『ええっと、お月見をしている月からお迎えが来るのに……ですか?』
「ノゾムの思考は常人のソレとは違うのう。いいから『かぐや』も食べるがよい」


 わりと長期滞在をしているこのエリアなので、罠の準備などもバッチリできていた。
 どこから来るかも分かっているので……たとえば、あんな感じに。


『──ぐわぁああ!』


 月が光り輝いたと思えば、シャンシャンという音が鳴り……響く前に、何者かの絶叫が上がった。

 それは月から現れた民、そのもっとも前に居た者の悲鳴。
 その者は突然感覚を狂わせ、そのまま地面に撃墜した。


「はい、一人討伐っと。あと数人は同じ手段で刈り取れるな」

「……普通は空に『術』を置いておくなど、できぬからのう。いったいどうやって維持しているのじゃ?」

「まあ、その辺りは企業秘密で。それよりもほら、次の罠に行ったぞ」


 月の民たちはどうにか前に進もうと動くのだが、重力魔法と精神魔法が施してあるその道を進むのはとても難しい。

 解除しようにもそれが条件で新たな術式が発動するため、トライアンドエラーの連続であった。

 だが、いつまでも負けているようでは高慢にもなれなかったであろう月の民。
 何かの宝具を使ったのだろう、俺と魔法との繋がりが突如断ち切られて解除された。


「来たか……それじゃあ、俺も上の方に行ってきます。こっちのことは、これから呼ぶ奴らに頼んでください──“召喚サモン眷属ファミリア”」

「ノゾムよ、こやつらはいったい……」

「俺の頼れる仲間ですよ。暇潰しにもなるので、いろいろと話してみてください。俺は、上に行きますので──“飛行フライ”」


 風魔法で空を飛び、月の民たちと会話ができる距離まで移動する。
 悪戦苦闘の末に罠を突破した彼らは……とても怒っていた。


「貴様、我らに向けて仕掛けてくるとは!」

「いやいや、だって姫様を迎えに来たんじゃないですか。俺はそれが嫌なので、妨害させてもらうんです」

「嫌ならば妨害、だと? 所詮は地上の民、罠で我らすべてを排除できなかった時点で貴様の負けだ。偉大なる宝具を揃えし我らに、勝てるはずがなかろう!」

「……そういうのはいいから、もうさっさと始めてくれない? あと、宝具ぐらい俺だって作れたからな」


 時間が有ったので複製した宝具を基に、いろいろと作っていたのは本当だ。
 本来は面倒な行程もあったが、そこは万能の生産神の加護任せである

 実際に作った宝具をチラつかせると、月の民たちは驚愕しだす。
 当然だ、自分たちに作れないと思った物をあっさりと真似パクられたわけだし。


「貴様! 月の技術を奪うとは、万死に値するぞ! その罪、詫びて死ねぇええ!」

「俺は嫌なことは嫌だって、はっきり言える男なんですよ──“花火スターマイン”」

「な、なんだ!?」


 突如、夜空に打ち上がる炎の華。
 彼らは見たこともないその光景に、どういう意図があるのか分からず混乱する。


「き、貴様、いったい何を!?」

「別に深い意味はありませんって。ただ、これから死ぬ人には手向けの華が必要かと思いまして……ちょうどいいでしょう、汚い花より綺麗な花。あれが皆さまへ贈る供花です」


 ……まだ何かある気がするんだよな。
 なので手っ取り早く、一つ目の問題に対応するとしよう。



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