AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者とかぐや姫 その15



 帝様は少女を逃がしませんでした。
 その結果、彼はその姿を拝みます。

 人とは思えない、神の造形が加えられたその美しさに男の心は奪われました。
 故に彼女を欲し、そのすべてを我が物にしようとします。

 しかし、彼女はそれを拒みました。
 たとえどんな思いを持とうと、連れ帰ることは難しいと。

 それでも帝様は諦めません。
 どんなことをしてでも連れ帰る、そう言って屋敷に兵を常駐させます。

 彼は少女が告げた期日まで、彼女を守り抜くことで自分たちを阻む障害を乗り越えようとしたのです。

 期日とは、少女が月へと誘われる日。
 地上における記憶の一切合切を失い、その罪の禊が行われるのです。

 罪を洗い流した証拠である五つの宝具は、すでに少女の手の中にありました。
 満月の夜、彼女の下に使いが現れ月へ向かう……そう帝に告げたのです。

 決して、恋や愛に準じて伝えたわけではありませんでした。
 今の彼女は『かぐや』ではなく『輝夜』、月の民としての矜持を果たそうとします。

  ◆   □   ◆   □   ◆


 とまあ、俺チョイスによる課題が始まる。
 舞台は離れと本殿の間にある広いスペースで、数十人の男たちが相対している──一方には、独りしかいないんだけどな。


「帝様は、ただ指示するだけで構いません。彼らと共に俺を参らせてください……それこそ、殺してでも」

「殊勝な覚悟だ。だが安心しろ、部下はそれほど余裕がないわけではない。私の力もあるのだ、片は一瞬で付く」

「いやいや、そうはいきませんよ。だって私こそが、五つの宝具を集めた者ですから」

「……なんだと?」


 帝たちは先にここを訪れ、その間に兵士を使って迷宮を踏破させようとしたらしい。
 だがまあ、たとえ入ったとしてもそこにはもう、何も眠っていないわけなんだが。

 なので彼はまだ、そのことを知らなかったのだ……彼女の難題、そのすべてがすでに果たされていたことを。


「試してみますか?」

「……いいだろう、お前たち──やれ」

『ハッ!』


 数十人、というのは十人とちょっとというわけではない。
 帝が連れてきた軍勢の中から、精鋭を選んだその数──三十。

 それぞれがこの時代において、猛者と呼ばれる域に達している者たち。
 そこに【帝】の能力である強化が施され、さらに力は極まっている。



 ──が、関係ないんだよな。

 レベルというシステムで強くなっている彼ら、種族・職業・スキルの三つのレベルがバランスよく成長している。

 一方の俺は種族レベルは制限し、職業レベルは奪われた。
 だが、スキルだけは異様に高い。


「スキルとは技術の証明、たとえそれが無くとも同じことをすることができる……けど、レベルが高くなればなるほど、たしかにその性能はよくなっていく。こんな風に、強者を複数相手取れるように」

「バ、バカな……たった独りだぞ」

「そう、独りですよ。その分、時間を費やせています。ですから、このように」

「対魔獣用戦術も通用しないのか」


 いくつもの魔法が放たれ、回避する先に無数の刃が置かれていた。
 だがすべてを防ぎきると、彼らはとても嫌な物を見る目でこちらを見てくる。

 もともとそうだったのだが、よりいっそう高まったとも言えるが。
 使っているのは一般スキルのみ、だがそれでも戦えている。

 地を駆け、空を翔け、空間そのものを自在に渡り歩いていく。
 冴え渡る感覚が行くべき道筋を示し、それに従うだけですべてが思う通りになった。


「お前たち、いったい何をやっている!」

「で、ですが……」

「相手は武器を構えてもいない・・・・・・・のだぞ! なぜ、このように一方的な戦いとなる!」


 最近はこんなことばっかりしている気もするが、俺は腰に提げた偽装用の刀を使わずにただ避けているだけ。

 無手で戦うことも当然できるが、今回は倒すことが目的ではなく参ったと言わせることが重要だ……帝の本心から、である。


「あえて武技も魔法……じゃなくて『術』も使わないでいるんです。これは申し訳ありませんが、いわゆる舐めプです」


 過去の人は知らないはずの言葉だが、それこそ異世界言語理解スキルが働くので勝手に都合のいい解釈をしてくれ……キレた。

 舐めプのどこをどう繕ったら、プラスな意味になるのか俺だって分からないし。


「帝様、ご決断を。私とて、いつまでもこうして貴方様の兵士の方々を苦しませるというのも辛いです」

「……ならば、貴様が降参しろ」

「嫌ですよ。守るべき者が居るというのに、どうして引き下がることができましょう」

「……そうか、道理であるな。お前たち──『引け』」


 たった一言、帝は兵士たちに告げた。
 戸惑いなどの感情が彼らに湧く……ことはなく、ただ黙って武器を収めていく。

 それを示すほどができない威圧感が、彼らの主から放たれているからだ。
 俺はそのことに気づかないふりをして、そのまま話を行う。


「何をされたのですか?」

「手っ取り早く、蹴りを付けよう。……決着は早くつけた方がよいだろう なればこそ、その力を振るえる内に降参をさせる」

「……ははっ、助かります。では、二回戦を始めましょう」


 帝の来訪は一度目、俺の世界の物語であれば手紙やら何やらとそれなりに時間が掛かる話である。

 だが、祈念者をそんなに長く幽閉することはできないからだろうか、すでに物語は中盤に入っていた。

 ──数日もしない内に、月からの使徒は舞い降りてくるのだから。



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