AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者とかぐや姫 その13



 四つ、少女の下へ宝具が返ってきました。
 すべては少女のためと語り、迷宮を次々と踏破して宝具を持ち込んでいきます。

 少女はごく平然と四つ目の宝具に手を伸ばし、中に眠る記憶の断片を集めていきます。
 三つ目の宝具に触れてから、よりいっそう宝具を求める感覚は高まっていました。

 彼女が追憶するのは、これまで見てきた一人の『少女』が歩んできた物語……そこに付随する一人称視点。

 ただどうあったか、客観的な知識だけではありません。
 固有名詞などが鮮明に浮かび上がり、少女は『少女』へさらに生まれ変わります。



 それが四つ目の宝具『竜の頸の珠』に触れたことで、少女が思いだした過去の記憶。
 少女から『かぐや』を失わせ、『輝夜』へと変わっていったこれまで。

 ──この瞬間、変化は変質となります。

 そして、少女の在り方もまた……。

  ◆   □   ◆   □   ◆


「ほぉ、ここまでの武を誇るとは……ノゾムはなかなかやるのじゃな」

「結構、辛いんだけどな」

「会話を成立させられている時点で、かなり驚きなんじゃが……この竜牙兵は、並大抵のモノでは倒せな──『かぐや』、もう分かっておるのじゃから騒がんでくれ」


 かぐやと輝夜、二人の姫が一つの体の中で揉めあっている間も、俺は彼女たちが召喚した竜牙兵と戦闘を行っている。

 ちなみにだが、鑑定スキルで相手を調べた結果──『月辰ルナティックドラロン牙兵・トゥースソルジャー』という名前であることが発覚した。


「さて、どうしようかな? ──“回避”」


 振るわれた剣をスキルによる強制的な肉体操作によって躱し、逆に剣をぶつける。
 装備もそこまでレアな物でもないただの頑丈な剣なので、辰の牙には敵わず弾かれた。


「一匹で助かったかな? ──“駆足”」


 瞬間的にダッシュするスキルによって、再び振るわれた剣を避ける。
 初期に捨ててしまったスキルだが、使いようによっては戦いに使えるな。

 剣は魔力と気でカバーすれば、それなりに性能を高められる。
 ついでにスキルを重ねれば、辰の牙にだろうと届き得るだろう。


「──“擬聖装備ホーリーウェポン”、“光装”」


 剣を擬似的な聖具にして、そのうえでスキルを行使して光の力を高めておく。
 あとはただの剣術……ティル師匠直伝の剣技で闘うだけだ。


「──疾ッ!」


 とはいえ、竜牙兵の剣技が優れているいうわけでもない。
 相手はただただ頑丈な体を用いて、隙が生まれた瞬間に剣を叩きつけてくるだけ。

 なので剣の性能さえ辰の骨に対応ができれば、対等以上に戦える。
 まずは竜牙兵が持っていた剣を弾き、鍔迫り合い──をせずにそのまま斬り裂く。

 魔法を使うとなれば、これぐらいできる。
 まあ、当たったら間違いなく瀕死になるだろうけど……眷属の補正、だいぶ前から切っているからな。


「……ふぅ、これでどうだ?」

「なるほどなるほど、地上の民の中にはこれほどまでに力を持つ者が居るとは。あの老害どももこれを見れば、何かしら考えを改めるやもしれぬな」

「輝夜様の居た場所の人って、もっと強かったのか?」

「技術が上じゃからな、宝具を持つことで優位に立っているとも言える。少なくとも、妾本人にあまり力は無いじゃろうな」


 彼女は宝具を五つ所持している。
 神器には性能で劣るものの、聖具や魔具以上の能力を発揮できるだろう。

 ……無論、聖武具や魔武具より下だぞ。

 そんな宝具、すでに眷属たちが転送する前に複製を終わらせているのでそのスペックを調べ上げてある。

 ちゃんと使えれば、強いのだ。
 その難易度が異様に高いだけで……そしてそれを、月の民たちはかなりの練度で可能ということだろう。


「輝夜様から見て、今の俺は帝様に届くと思いますか?」

「どうじゃろうな……【王】や【帝】を冠する者は、単純な強さでは測れぬからな。たとえ本人が弱くとも、それ以上に仲間を高める者。逆に仲間より力を奪い去り、それを糧として戦う者が居る」

「へぇ、そんな情報がそっちには……」

「妾の記憶、そして『かぐや』の記憶から考察したものじゃな。ふむ、こちらの帝は強化の能力を持っているのじゃ。宝具の方もそうして、強化した兵を向かわせたのじゃな」


 普通の王とかは、まあ前者だろうに。
 逆にいったいどこに、そんな後者みたいなヤバい職業持ちが居るんだろうか?


「で、届き得るかという話じゃったな。先ほどの竜牙兵が数十の兵士と同等であった。ならば──こうすれば、ノゾムの力がどれほどなのか、より詳細に理解できるじゃろう」


 嫌な予感がした、だがもう止められない。
 すでに彼女の手は首に提げた五色の珠を握り締めており、魔力が籠められることでその能力を発揮する。


「見よ、これこそが『竜の頸の珠』が持つ真なる力! 牙だけではない、『月光辰』そのものの召喚を……痛たたたたた! こ、これ『かぐや』! やめ、やめてたもれぇえ!」

「はぁ……“幻惑乃霧ファントムフォグ”、“隠蔽結界カバーバリア”」


 完全な召喚が終わる前に、魔法で辺りにバレないよう細工を行っておく。
 内部の魔力も漏れないようにしたし、これで大丈夫だろう。

 おしおきはどうやら……代わりにやってくれているみたいだし、俺は出てくる辰の対応に勤しむとしようか。



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