AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と二種の神代魔法
夢現空間 図書室
「──神代魔法ですか? はあ……ようやく訊かれた、と言うべきでしょうか?」
「いろんなことが気になって、すっかり忘れていたんだよ。今さらだが、確認しておきたいことがあるんだ」
「分かりました。では、席に着きましょう」
ある日、俺はリュシルの下を訪れた。
内容は告げた通り、神代の魔法に関する事柄である。
助手であるマシューが紅茶をリュシルの下へ届け、そのまま後ろに付く。
その紅茶をスッと口に含んでから……話を再開する。
──ちなみに、俺の前には何もない。
「それで、何が聞きたいんですか?」
「……まあ、いいけど。神代魔法って、名前は凄いけどパッとしないのがあるだろう? ほら、リュシルが最初から持っていた方」
「ひどく不躾な言い方ですが……たしかに、メルスさんが他の方々と復元したモノの火力について、否定はしません。しかし、それがどうかされましたか?」
「他にもあるけど、そういう補助系の神代魔法と火力がある……まあ、術式が登録されている魔法との違いを知りたいんだ」
具体例を挙げよう。
ナースも持つ<虚空魔法>には“虚無”という、術式が最初から載っている。
だがリュシルの持っていた神代魔法──集束、生成、広域、連鎖といったものには、そういった術式がいっさい載っていない。
代わりに、後者の魔法は他の魔法と共に使用することで、起きる事象を強化できる。
複数の魔法を束ねたり、魔法に形を与えたり、拡大化したり、連続して発動したりと。
「だからこそ、少し気になってな……何かそういう情報はあるのか?」
「ちょっと待ってくださいね……今、探してみますので」
リュシルはこれまで読んだ本をすべて記憶しており、それを脳内で検索することができる……俺もできるはずなんだが、異様に時間が掛かるんだよな。
その間に、マシューが俺の下に今さらながらカップを運んでくる。
……隠す気が無いのか、中身が空だ。
「いやまあ、別にいいけど──」
「創造者、ツッコんでほしいのですが」
「ん? てっきり自分の主に手を出す挙句、自分にも手を出してくる卑劣なヤツに嫌がらせでもしているのかと……」
「自己評価が低いですね。九割合っていますが、一割は違いますよ」
改めて、俺のカップに緑茶を注がれる。
やはり日本人たるもの、特に意味はないが緑茶がベストだろう。
作法などは気にせずゴクゴクと飲み下し、話で気になった部分を尋ねる。
「で、一割は? 私怨が九割で……残りはそのツッコミだったのか?」
「……時には、構ってもらいたいときが、あるのですよ?」
「そうか……悪かったな。柄じゃないが……責任、取らないと」
「──何をしているのですか、二人とも?」
俺とマシューが顔を近づけていると、冷たい視線がどこからともなく向けられた。
当然その放出元は、この場に居た合法ロリな学者さんなわけで……。
「もう、どうしてマシューはいつもいつも、私よりも先に──」
「先に……なんですか?」
「うっ……うー、うー!」
「いや、このタイミングで俺を睨まれても困るんだが……」
時と場合によっては、その先が言えたかもしれないが……揺れ動く心情では、言うこともできないだろう。
たぶんマシューの一割は、これのことだろうかと予め検討は付けていた。
いつものことだし、何よりマシューはリュシルが本当に嫌がることはしないからな。
「ところでリュシル、何か分かったか?」
「…………もういいです。結論から申してしまえば──スタンスの違いでした」
「そんなバンドみたいな理由で分かれていたのかよ。具体的には?」
「人々はその昔、魔法に必要なモノを考えました。片方の集団は多様性、弱くとも重ねることで効果を発揮すると主張しました。もう片方の集団は特異性、神すらも手に負えない力こそが必要なのだと主張しました」
要するに補助か凶悪さを求め、実際に手に入れたわけだ。
神代の人って凄いな……だが、まだ術式があるかないかの違いが分かっていない。
「で、そんな神すら手におえない方にだけ術式が載っている理由は?」
「それは簡単です。多様性を求めた側──多様派とでも呼ぶべき集団は、特定の魔法を必要としていませんでしたので。すべてが、何かしら他の術式を媒介として発動していたそうです」
「……まあ、俺も考えてみたけど全然浮かばなかったからなー。複製はちょくちょく使っているけど、あれはどうなんだ?」
「あれも本来は術式を増やす、という用途ですので。アイテムを一つの術式として一時的に記憶し、そこへ干渉しているのです」
魔道具とかもあるわけだし、そもそも解析とか鑑定も魔力を介して構造を調べている。
その魔力で構成された設計図を、複製魔法で増やしている……ってことかな?
「つまり、その気になれば術式自体は用意できるってことか。昔の奴らが不要としていただけで」
「可能でしょうね。ただ、補助に属する魔法ですから攻撃手段として、特異側の魔法と対等にやりあう威力は出せないと思いますよ」
「暇潰しぐらいにはなると思うし……まあ、できたら報告するよ。こういうの、どれだけ重ねてやっているか覚えてないけどな」
「スキルな無駄使いって、メルスさんみたいな人のための言葉でしょうね」
なんでも覚えていられるスキルを持っていても、物事を忘れてしまうぐらいだしな。
今さらだし、眷属の誰も気にしてはいないだろう。
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