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山田 武

偽善者と星の海 その13



 第八迷宮


 最後の迷宮に辿り着いた俺たち。
 まあ、これまでの流れで察していたので、必死に{夢現記憶}の中から天体系の資料を漁り情報を集めておいた。


「ここが最後の迷宮……水星だ。さっきの火星と違って、いちおうは水があるんだぞ」

「ここは……少し狭いのう。それに、やはり空気が薄い」

「本当に、今さらだな。そもそも、俺たちが住む世界ってのは存在するだけで奇跡に近しいんだぞ。お前らの世界の場合は、神様が何かしたのかもしれないけどさ」


 神が先か、生物が先か……なんて話もあるにはあるけど。

 世界の誕生、そして神の創世はどちらが正しいのか、地球はともかくAFOの世界はどちらか不明だ。

 神は神族という種族だとすれば、信仰で生まれるよりも先に誕生した神が星を創った、なんてこともあるかもしれない。

 大神なんて存在も居るようだし、長生きしている竜もいるようだしな。


「まあいいや。最後だから、迷宮も小細工しないで正面から勝負してくれているな。条件は……たぶん、これの殲滅か? 核の反応は少なくとも今はない」

「剣や杖を模した角、かのう? 種族に擬似的な職業が付いているようじゃのう」

「ずいぶんと緩い設定だなぁ、おい。たしかに『ナイト』とか『ウィザード』とか入っているみたいだぞ」


 クジラたちから生えた角の形が、触媒として使えるのだろう。
 ちょっと面白いことを思いついたが、今は殲滅を意識すべきだ。


「開戦の狼煙は、俺にやらせてくれよ。魔導解放……は止めておくとして、普通に魔法を使っていくか──“新星命爆ビックバン”」


 初手の一撃は禁忌魔法の一つを行使する。
 上空で突如発生した爆発は、クジラたちだけでなく俺たち諸共すべてを無に帰す。

 まあ、そうなることが分かっていたので、結界を構築して防御をやってある。
 そのため被害はクジラたちだけ、中心に居たクジラなんて塵すら残っていなかった。


「えっ、えげつない……半端ないな」

「主様よ、初手の禁忌魔法は魔導を使うのと大差ないのではないか?」

「まあ、それもそうなんだけど……縛りが少ないからつい、な?」


 体を巡る魔力は、<久遠回路>によってどれだけ消費しようと回復する。
 なので、使いたい魔法があれば好きなだけ行使可能だ。


「次はこれだな──“虚崩ブレイク”」


 虚空魔法の唯一の魔法である“虚無イネイン”。
 その派生型である“虚崩”は消滅するという概念を広範囲に広げ、フィールド全体に影響を及ぼすというキチガイ魔法だ。

 形状変化の縛りに反するとかそういうものではなく、使い方を変えているだけだしな。
 魔法の構成はまったく同じ、ただその扱い方が異なっていた。

 先ほど“新星命爆”で残っていたクジラもすべて、これによって消え去る。
 まあ、そうなることが分かって(ry。


「ん、種族的には強化されているのか? 種族はともかく見た目に変化が出てきたな」

「ふむ、鎧やローブのような物を身に纏っておるのか。進化に応じて、体の一部が生体武具になるのと同じようなものかのう」

「魔物が武器をドロップするのも、それが理由なんだっけ? 角型の武器か……うん、解体すれば手に入るかな?」

「じゃが、今の主様の魔法では不可能じゃろうな。しばらくは、大人しくしておいてほしい。儂が主様の分まで、あのクジラたちを殲滅してこよう」


 これまでに使った危ない魔法が、クジラたちに甚大な被害を及ぼしている。
 本来なら最強であり最凶のソウより、やっていることがえげつなくなっているし。

 というわけで、ソウが再び出動。
 格闘術を巧みに使い、クジラをバッタバッタと薙ぎ倒していく。


「ちなみに、ソウ……というか竜族の成長率が遅い性質は、種族レベルだけじゃなくてすべてに干渉しているから、職業のレベルもなかなか上がっていないぞ。イアも前に、そんなことを愚痴ってたし」


 なので眷属にいる竜関係者は、基本的に共有するスキルを経験値補正系のモノにすることで成長速度を上げている。

 ただ、イア以外はレベルが高すぎるので、全然成長していかないんだけどな。


「ソウに任せておくとして、俺は何をすればいいんだろうか? …………やばい、最後だというのに全然やることが見つからない」


 必死……ではないんだろうが、とにかく頑張ってくれているソウに対し、とにかく危険な魔法で状況を掻き乱すだけの俺。

 おかしいな、俺の存在価値ってドMの銀龍よりも下だったのだろうか?


「まっ、別にいっか──“電波振動マイクロウェーブ”」


 ソウから少し離れていた場所で、クジラたちを指揮していた個体をロックオン。
 座標指定して魔法を発動させると……突如その個体は爆ぜ、血肉が降り注ぐ。


「主様……儂もそれは望まぬぞ」

「お、お帰り、ソウ。……そ、そうだ、ちょうど温まったクジラ肉があるんだ。これを料理して間食にしよう!」

「う、うむ……主様がそう言うのであれば、いただこう」


 ソウの持ってきてくれたクジラ肉と共に解体し、サクッと調理していく。
 クジラ肉と言えば……と思いだし、給食に出てきたことのある唐揚げを出す。


「迷宮踏破、お疲れ様ー」

「……むっ、やはり旨いのう。主様には、迷惑をお掛けした」

「九割は俺のせいだから気にするな。帰る選択肢もあった、けど選んだのは俺だ。あとはゴールするだけなんだ、ソウは堂々と凱旋して自慢でもすればいい」

「…………そう、じゃのう」


 迷宮核も出現したようだし、どうやら条件はクジラの上位個体を討伐することだったようだ……うん、レンジでチンされたヤツだ。


「辺りの温度は調節したまんまだし、料理も保存できる。ソウの好きなだけ食べてくれて構わないぞ」


 唐揚げで栄養を付けたら、あることを確認して……何もなかった帰る予定である。

 ──さて、どっちになるんだか。



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