AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と東の西京 その14



「…………つまり、『輪魂穢廻』とは妖怪であり神でもあるお主とは異なり、妖怪でも神でもない異なる存在であると」

「違う」

「…………ふぅ、ようやくであるのだ。何度も肯定され、それ故に悩むことがあるなど新鮮な経験であった。ノザコよ、大変手間ではあったが参考になる情報であったぞ」

「そうかい」


 何度も何度も質問を繰り返し、どうにか正当を導きだした……よくもまあ、付き合ってくれたよな。

 その結果判明したのは、妖怪でも神族でもない……歪な存在だということ。
 望まれない存在ゆえに、正しく組み込まれていなかったわけだ。


「某は界廊へ向かう。お主はこれから何をするのであるか?」

「さぁ、いろいろとやることは決まっているけどな。とりあえずはこの中でのんびりとするぐらいか?」

「お主の息子はこの空間の外で気絶しているが、それを迎えに行ってはどうだ? お主がどう扱うかは知らぬが、疎ましく思う者もいるかもしれぬのでな」

「……とりあえずは、中で安静にしているのが一番だ」


 俺が居なくなったあとにでも、きっと救いに行くだろう……それには俺自身が邪魔か。

 界廊に行くには、こちらに来たとき同様門から向かわなければならない。
 だが大天狗たちが『輪魂穢廻』の討伐でも行おうとすれば、一時的な封鎖が行われる。


「その前に、行かねばならぬであるか。ノザコ、出口を作ってもらえぬか?」

「…………ふんっ」

「仕方がないか……多少次元に影響が出るかもしれぬが、諦めるであるな」

「ちょっ!?」


 懐に仕舞っていた脇差を取りだし、そこに刻まれた術式を起動させる。
 こればかりは自分の腕では使えなかったため、苦肉の策として予め籠めておいた。


「一度はやってみたかったであるが……いざ参らん──」

「や、止め……ッ!」

「──“次元斬”ッ!」


 膨大な力の奔流を、一本の線として纏め上げて振るう。
 力と技の両方を身に付けた者だけが振るうことができる……文字通り、高次元の一撃。

 斬撃痕が宙に生まれ、そこからは先ほどまで居た外界が映しだされる。
 ……急にそんな変化が起きたせいか、今居る場所には風が吹き荒れ始めたが。


「た、たろぉおおおおう!」

「ではな、ノザコ……いや、天逆毎よ。次に会う時は、また別の形でゆっくりと語り合おうではないか」

「二度と……くっ、くそぉおおおおお!!」

「ふはははっ、さらばだ!」


 次元の裂け目を潜り、ここから脱出する。
 再び広がった何もない荒野に降り立ち、これまで通った道程を凄まじい勢いで駆け抜けていく。

 ついでに動きやすいように、変身は解除して改めて額に角を生やす変身を行う。

 これで体が動かしやすくなった……アメ親子にはバレたいただろうが、まあ何もツッコまれなかったな。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 界廊(自由世界──妖界)


 平和的に辿り着くことができた。
 行きと同様一本道であり、うねりにうねった混沌の世界。

 だが知覚すれば、異なる様子を見ることができるこの場所。
 刀を掴み、心を研ぎ澄ませると……その存在に気づくことができる。


『……死』

「いきなりであるか。一つ問おう、お主たちは『輪魂穢廻』について心当たりは──」

『……死! 死死死死死死……死ィイイ!』

「当たりであるか? いや、この場合はそうではなく禁止用語に引っかかっただけであるな──“居合イアイ”」


 行きと違い、準備はできている。
 偽善用に仕方なく用意した霊刀[払魔]を使った抜刀術で、人型の屍鬼を撫でるように斬った。

 斬られた屍鬼はガクッと膝を折り、そのまま地面に突っ伏す。
 繋がりを断つ破邪の剣なのだが、魂と魄の結び付きを一時的に切り離す効果を持つ。


「殺すのではなく、あくまで動けなくするだけである。何が起こるか分からない以上、今は足止めだけで充分であるからな」

『……さ、つ……』

「黙っていろ。某の【慈愛】とは、そこまで広いモノではない。手に届く範囲のみ、今はその温情に感謝して地に這い蹲れ」

『…………』


 しばらくもがいていたが、おそらく供給されていたエネルギーが尽きたのだろう。
 ピクリともしなくなった屍鬼を一瞥し、さらに歩を進めていく。


「完全な縛りから偽善へシフト、そろそろ言動を戻すであるか──あ、あーあー……ここで俺を観ているヤツはほとんどいないだろうし、ようやく自由なわけだな」


 というか、もともと自由なわけだが。
 勝手に縛りを付けて窮屈になっていた……うん、そう考えると物凄くバカみたいだ。

 今の俺は額から角が生えただけのただのモブ、妖怪世界ならそんな扱いだろう。
 むしろ、『輪魂穢廻』に取り込まれた有象無象R(番目)ぐらいの存在だな。


「さっそく様子を見に来たか……なあおい、一人ぐらい話が通じるヤツは──」

『……邪』『……殺』『……哀』『……怒』『……呪』『……虚』『……怨』『……憂』

「いないな、これ。目的は分かっていても、どうすればいいかさっぱりなんですけど」


 まあ、限定的に解放した神眼で探せばいずれ見つけることもできるだろう。
 問題はそれまで、生きていられるかどうかだ……よし、逃げるか。



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