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山田 武

偽善者と東の西京 その11



 ──{他力本願}の能力“戦闘再現”。

 もともとは設定していた動きを自動化して使えるようになるスキルだが、創意工夫の果てにさらなる能力を得た。

 それが──物質に刻まれた担い手の動きを再現するというもの。
 その再現度は非常に高く、強い感情と共に振るわれているほど真似ることができる。

 眷属の中で、もっとも参考になる剣技を持つ者……つまり【獣剣聖姫】であるティルエの動きがメルスの持つ刀には刻まれていた。

 メルスが用意した刀のすべてを、予めティルエが一定時間使用して経験を籠めてある。
 それだけで敵を翻弄する剣の高みにある剣技を振るうのだから、末恐ろしいモノだ。

「まだ振るうでござるか? 某に切り札を使わせたことは認めるが、もうそれ以上は無理であろう? 少しずつその力の根源、減りつつあるぞ」

「……まだだ、私はまだやれる!」

 メルスの忠告を振り払うように、無詠唱で“噴獄嵐”を放つアメ。
 だがそれも、瞬時に剣聖の経験を読み込んだ技によって散らされてしまう。

「そうであるか……非常に残念である。なれば、某も覚悟を決めねばならぬな──言葉を交わした友を斬る覚悟を」

「はっ、君に斬られるなんてゴメン蒙るね。私はどれだけの危機でも抗ってみせる!」

「…………そうであるか。ならばなぜ、このようなことを……いや、もう問わん。その先に何があるか、この眼で定めるのみ」


 飛んでくる烏の羽を一枚一枚丁寧に捌いてくと、ゆっくりと気でできた膜を辺りに広げていったメルス。

 両手を伸ばしたほどのサイズまで広がった膜に羽が侵入した途端、神速の太刀が羽に触れて攻撃を無効化していた。

 アメはそれを中に入ったモノをすぐに知覚できる結界と判断し、離れた場所から攻撃することを選ぶ。

 ──それがフェイクとも気づかず。

「某が相手だったのであれば、それでも充分だったのだろう。だが、今の某は剣聖の腕を借りし者……問おう、アメよ。この程度で剣聖が名乗れると思うか? 悪いであるな──そこは領域の中である」

「まさか、二重──ッ!?」

「もう遅い──『一刀両断イットウリョウダン』」

 膜はあくまでメルスの領域。
 実際、ティルエであればその数十倍は知覚範囲に収めることができる。

 そして、その距離すべてに届かせることができるほどの剣の腕前。
 その力によって振るわれた──全身全霊を籠めて一撃の一刀だった。

「安心しろ、峰撃ちではないが神核や髄までは傷つけてはおらん。いずれは治り、追い付くことができよう」

「……す、好きに行けばいい。その先には君の望むモノがあるかもね」

「そうであったか……それでも、某は前に進むだけのことよ」

 体が動かなくなり、糸の切れた人形のように倒れたアメ。
 そんな彼を守るように、一本の刀を地面に突き刺し──メルスは前へ進んでいく。

  ◆   □   ◆   □   ◆


「──げほっ、痛ぇよぉ……」


 ティルの動きを再現なんかすれば、当然体は追いつかず悲鳴をあげる。
 縛りの最中なので、それを誤魔化す手段も取れず……こっそりと泣いていた。

 アメのヤツ、間違いなく眷属の中でも戦闘が苦手な者ぐらいなら倒してしまうほどの力があるはずだ。

 それをあえて振るわず、俺にも過剰なほど手加減をしていたのには……何か理由があるのかもしれない。


「たとえば、奥にあるナニカに気づかれたくはない……などであろうか? いずれにせよ本気ではなかった。末恐ろしいモノよ」


 再生系のスキルで肉体を修復し、とりあえず動きはいつも通りにできるようにした。
 この先に何があるのかまったく分かっていないのが、現状だからな。


「祠まで、まだまだ遠いであるな。歩いている間に、何かすべきことがあろうか?」


 などと言いながらも、すでに脚は目的地に向けて動いている。
 戦闘で疲れた脳が、速く終わらせたいと急かしているのかもしれない。


「まずは糖分補給……あむっ、うむぅ。それから刀の選択をしておこう」


 アメが神の類いだったので、祠の中にも同列の存在が居るはずだ。
 そこが瘴気の温床で、アメと似ているが異なる波長の力が漏れているので間違いない。

 美味しいスナックの棒(チョコ味)を頬張りながら、足を動かす。
 瘴気が身を包んでくるが、それ自体は戦闘中にある程度馴染んだので平気だ。

 それでも{夢現反転}が起動するぐらいには濃い瘴気で、俺を蝕もうと近づいてくる。
 さすがに濃すぎる瘴気にもうんざりしてきたので、再び刀を構え。


「──“天線候破テンセンコウハ”」


 天剣術の武技だが、雲払い効果を持つからか自然現象を吹き飛ばすのにも使える。
 一直線に飛んでいった斬撃が通った場所を中心に、瘴気が振り払われていった。


「うむ、天晴れである」


 空は晴れ、澱んだ空気は薄れていく。
 何度か最適な動きを試しながら瘴気を払っていると、いつの間にか祠の前に居た。


「これは……ずいぶんと緻密に書き込まれた符であるな。妖怪でも符を使うのか、それとも人がこの地に辿り着いたのか。いずれにせよ、これは使えそうであるな」


 剥がす前に術式を完全に暗記しておく。
 これで剥がしたら消える……みたいなタイプでも、俺自身が刻まれていた術式を行使することでどうにかできる。

 ──流れからして、神は神でも邪神なのは間違いないからな。



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