AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と東の西京 その07



 妖界


「これは……想定外であるな」


 てっきり禍々しいナニカが渦巻いている感じや、こう人とは違う慣性で建てられたナニカが並んでいると思った。

 だがそうではない。
 たしかに人とは違う感じで建物が並んでいるのだが……それがすべて、理解できるが理解できない素材で造られていたのだ。


「水の床に雲の家、花でできた川に火でできた風か……うむ、さっぱり分からん!」


 それも妖界という世界の奇妙さを捉えようとするのであれば、ほんの一端でしかない。
 森羅万象の理が先ほどまでの世界とは異なり、別の形に変容しているのだろう。


「……と、このまま立ち尽くしていてもいいことはないのであるか。ふむ、参考になる体が少ないので苦労はするが……試してみる価値はあるか」


 モンタージュの全身版だ。
 そのすべてを{夢現記憶}に刻んだからこそ実行できる、肉体の細かな部分まで再現してその身に反映する──変身魔法で。

 基本的な体躯は一つ目小僧、額には東都で会った鬼の角を。
 他の容姿の部分は俺をベースに、西京でチラッと見た妖怪たちを取り込んでいく。


「合成妖怪の完成であるな。ふむ、このような妖怪も居るかもしれぬ……実際にはどうか分からぬが。ただ、それもすぐに分かるであるか。その目で見てみることにしよう」


 どうやら門の活性化に気づいたのか、何者かが近づいてきている。

 だが、まだバレるのは不味い……歓迎でも迎撃でも、偽善らしい行動をまだまったく実行していないのだから。

 メルと同じぐらいの体躯に調整してあるので、動きそのものに違和感はない。
 すぐに移動を始め、自分でも門の在った場所を知覚できないほどの距離まで移動する。

 ……妖怪がそれぞれ異なる能力を持っているのであれば、千里眼に類似するモノを宿している妖怪も居るかもしれないからな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「…………」

「だんまりか。客人よ、話してくれた方がこちらとしても丁寧な対応ができるのだがな」

「……某が、何かしたのか?」

「いいや、何も。だが客人は数年ぶりの渡航者だ。その姿、異形の者である客人はこの世界の出身ではなかろう。『陰陽道師』によって開かれたあの世界、その道に何があった」


 あの後俺は、すぐに捕まった。
 背中に黒烏の翼を生やした者たち──天狗が現れ、俺を連行する。

 そして嵐が吹き荒れる山の奥に運ばれ、そこで邂逅した……天狗たちの王に。
 口調はそのまま、威風堂々とエセ侍スタイルで彼らと話しているのが現状である。


「……闇色のナニカが居た。悪徳の塊とも呼ぶべきそれらは……うむ、口伝では無理であるな。誰か、紙と筆を」

「…………持ってきてやれ」


 天狗の王──曰く大天狗によって用意された筆記用具を手に取り、サラサラと手を動かし記憶したモノを描いていく。

 不器用で芸術の才能皆無の俺だが、演技と違ってこちらは生産神の加護によってどうとでもなる。

 少々巨大なショーにでも使いそうな巨大な紙の上で、躍動するような筆捌きで描くその絵を見て……天狗たちは驚愕の声を漏らす。


「……本当に、これが客人が界廊の中で観た光景なのだな」

「そうである。某の考察を訊くか? どうやらお主には、すでに答えが出ているように思えるが……」

「客人。客人はどのようにしてこのような状況を脱したのだ?」

「なに、簡単なことよ。某の持つこの刀には破邪の力が宿っている。それを見せれば効果は覿面──皆逃げていったぞ」


 破邪刀を抜き、天狗の一人を仲介して大天狗に見せる。
 今回のコンセプトに妖刀は合わないため、聖水で清めただけの普通の刀だ。


「破邪の力、そしてこの光景か……やはりああなっているのか」

「大天狗殿、何か知っているのであるか?」

「客人はその目で見た者だ、話しておこう。あれは『輪魂穢廻リンコンアイネ』……荒魂を生みだす原初の妖怪と言ってもよい存在だ」

「あれ、とはどれもことであるか? 闇であるか、それともあれらの妖怪のことであるのか? 某にはそれが分からぬ、あちら側で生まれた身である故」


 ずいぶんとカッコイイ感じの響きである。
 だが、その名を聞いた天狗たちの反応を見るに……うん、やりがいのある仕事だな。


「あれらは死に絶え、巡るはずだった妖怪たちの魂だ。魄を奪われ、魂を澱んだ輪廻の中で堕ちた成れの果て。輪魂穢廻とは、概念のようなもの……客人、かつての界廊とこの光景には違いがあると言えば分かるか?」

「……つまり、このすべてがそうであるのだな。なるほど、あの異常な統率性はそれが理由であったか」

「そうだ。一つの意思の下に指揮され、屍鬼とされた奴らは輪廻を閉ざされあの地を彷徨い続けている。時折外部へ送り込まれ、彼の地で同志を増やそうとする……それがヤツの常套句だ」

「穢れ故に破邪を懼れた……荒んだ魂では、理性を持って動くこともできぬわけか。あのときの行動は、輪魂穢廻が命じたことで動いただけなのだな」


 妖怪の在り方がまだ謎だが、たとえ輪魂穢廻をどうにかしてもどうにかならないな。

 アレはおそらく荒魂化現象が妖怪になった存在……元がある以上、その現身をどうにかしようと概念に変わりはない。

 ──概念を殺すなんて、今の俺にはどうしようもないからな。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品