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山田 武

偽善者とレイドラリー中篇 その20



「ぐはぁあああ!」

「……あれ?」


 状況に疑問しか浮かばない。
 俺はたしかに、『ザ・グロウス』という最強の存在と戦っていたはずだ。


「くっ──“広範射撃ワイドバレッド”!」

「……“弾避風ブレッドアヴォイド”」


 高速で放たれる銃弾の雨を、風系統の魔法一つで対処する。

 さらに魔力を多めに消費して、操作した風に変化を与え──再び『ザ・グロウス』の下へ弾を届けた。


「えっ……うぎゃあああああ!」

「……えっ?」


 俺も意気込みとしては、絶対に負けられない戦い……ぐらいの感じだったんだが。
 なぜだろう、相手が見た目は子供なこともあってただのイジメにしか見えない。


「そ、そんな……たしかに計算では、すでにぼくの方が強さでは上回っているはず!」

「あー、その台詞セリフ、俺たちの世界だというヤツは確実に負けるぞ。ほら、なんだか三流臭いだろう?」

「三、流……? このぼくが、運営神様の御業によって創られたこのぼくが?」

「そもそもそこからじゃないか? だって、基本的にリソースって余らないし。へそくりみたいに溜めてたちょっぴりを割り勘で消費したみたいだけど……たぶん、その成長能力で全部無駄になったんだろう」


 無限に成長できるというのは、たしかに恐ろしい能力だ。
 時間さえあれば、いずれは無双や究極に至ることのできる力なのだから。

 ──そう、時間さえあればだ。

 他の者……今回の場合は祈念者の経験を学ぶことで、それを極限まで縮めていたつもりなのだろうが、思いのほか俺との実力に差が生じていた。


「無駄……無駄だって? このぼくの、ぼくにだけ与えられたこの力が? ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるな……」

「えっ? ちょ、ちょっと待てよ。俺はただありのままの事実を言っただけで、別にからかっているわけじゃ──」

「ふざけるなぁあああああああ!」

「えー、煽り耐性低ッ!」


 俺と『ザ・グロウス』との差は至ってシンプル──{感情}を持っているかだ。

 あの経験値超絶ブーストなチートがあったからこそ、俺はステータスに関することで悩むことは無かったのだから。

 一方、『ザ・グロウス』は祈念者から学習したすべてを処理しなければ扱えない。
 力は有っても振るい方が分からない……無軌道な暴力といったところか。

 いや、学ぶからこそ使い方は理解しているかもしれない。
 だがそれ以上に、俺の想定を超えられないのだろう。


「アイツらに来ないように言っておいて正解だったな。さすがにボス級の対人戦闘まで経験されていると、こっちもヤバかったかもしれないし」


 言っちゃいけないとは思うがこれだけは言わなけえればならない──学ぶ相手が悪かったのだ、『ザ・グロウス』は。

 知っていることは知り尽くせても、知らないことには対応できないのが学習だ。
 俺という[不明]の権化を相手にするのであれば、それに対処しなければならない。


「要するに、引き継ぎが無かったからこそ勝てたわけだな」

「────!」


 言語能力は捨てたのだろうか?
 声にならない吶喊をする『ザ・グロウス』は、その手に握り締めた銃を巨大な大剣に変えて勢いよく振るう。

 だが、俺は高速化した思考ですでに準備を終えていた。
 片手で持っていた『模宝玉』とは別に、新たな武具を生みだす。


「魔導解放──“概念武装神羅万象具”」


 求めるままにイメージした黒い長剣。
 すぐさま『模宝玉』の形状を同じ長さの剣にして、二刀流の構えを取る。


「そもそも、学習したところで剣技を扱える祈念者なんてほんの僅かだろうに……ティル師匠を超えられるヤツなんて、いなくて当然だろうに」

「────!」

「ああ、はいはい。そろそろ終わらせてやるからさ──『重力』」


 長ったらしい名前を付けた今回の魔導は、『ぼくのかんがえたさいきょうそうび』を即席で構成できるというものだ。

 今回の場合、武具に触れた相手に俺の考えた通りの事象をもたらす……そんな感じのイメージを基に生みだしている。


 そんなこんなで、触れれば触れるほど重力の檻に囚われる武具。
 何度も何度も、大剣で触れてしまっていた『ザ・グロウス』は地面に墜落していく。


「あっ、ヤバい」


 そしてそのまま地面と激突。
 すぐさま周囲に結界を構築し、祈念者が入り込めないようにしておく。


「……まさかだけどさ、俺がこうして蹂躙している姿を祈念者に見せて悪役に仕立て上げたかったんじゃないか? いやいや、さすがにそれは無いか」


 だが、念のため気を付けておく。
 下に降りてしまえばその通りになってしまうので、空に居るまま──トドメを刺す。


「魔導解放──“降り注ぐ混沌の流星”」


 先ほど隕石は見せたので、二発目もアルカが撃ったのだと誤認してくれるだろう。

 こちらは好きなものを付与できる特殊な隕石を放つ魔導で、文字通りあらゆるものを付与することが可能だ


「死ぬと……リソースがもったいないし、どうにかできないか考えるか。とりあえず束縛しておくか──『封印』と『拘束』」


 舞い降りる隕石は俺の仕込んだ力を纏い、『ザ・グロウス』へ迫っていく。
 よく見るともがいているのだが、重力に捉えられているため……それはできない。


「ハッキリ言って、今回は弱かった。けど、もし二回目があったなら……どうなっていたか分からない」


 そしてそんな二回目の可能性を踏み潰すのが、人生快楽刹那主義の偽善者である。

 同じく運営神の使いであるレミルもどうにかできたのだ……多少荒療治にはなるが、敵意を持てないようにしておこう。



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コメント

  • 猫の肉球

    えっ?なんか相手が、かわいそうに見えるんだけど?

    1
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